調査研究報告
生涯学習社会におけるメディア・リテラシーに関する総合的研究

生涯学習研究部長 山田 兼尚


1.研究の背景

 平成4年の文部省生涯学習審議会答申では、現代の日本社会が抱えている公共的かつ緊急の課題として、国際化、高齢化、情報化などへの対応を挙げているが、その中の一つである「情報化社会に対応した生涯学習の重要性」は、近年における地球規模での情報・通信技術の発達やそれらの急速な普及が進む中で、ますます高まりつつある。
 情報化社会に適切に対応できる人間の育成を図るためには、種々のメディアを活用し、情報を収集、分析、活用、発信するなどの新しい学習能力、すなわち「メディア・リテラシー」に関する研究が不可欠となる。
 この「メディア・リテラシー」は、子供から大人まで、あるいは学校の内外を問わず、人間の成長過程や社会的活動に関するほとんどの領域で必要とされる学習能力であり、それゆえ、そこでの研究は、学校教育や社会教育を含め、教育・学習活動全般にわたって展開されることが求められる。
本研究は、こうした背景のもとに、当研究所の調査研究特別推進経費により、平成10年度から4年間にわたって行われる、「メディア・リテラシー」に関する本格的かつ総合的な研究である。

2.研究の具体的目標
 本研究を遂行するために、所内外の36名の研究者により「学校教育研究班」、「社会教育研究班」、「比較教育研究班」の三つの班を組織した。
本研究の具体的な目標は、次のとおりである。
 @学校教育研究、社会教育研究、比較教育研究をとおして、先行研究の成果を活用することにより、現代に求められる「メディア・リテラシー」の理論的構造を明らかにする。
 A学校や生涯学習に関連する機関・団体を対象として、実際にどのような「メディア・リテラシー」教育が行われているか、それを推進するための施策とはどのようなものがあるのか等について事例研究を行い、理論的研究と併せて「メディア・リテラシー」の構造を明らかにする(社会教育研究班)。
 B「メディア・リテラシー」が、どのように教えられているか、あるいはどのように学ばれ活用されているか、を明らかにするための実証的な質問紙調査を、児童生徒、教員、及び成人学習者等を対象として行う(学校教育研究班)。
 C先進国における「メディア・リテラシー」向上のための学習・教育プログラムや諸課題を、学校教育及び成人教育について調査・解明し、それらと我が国のデータとの比較研究により、我が国における問題点や改善策を明らかにする(比較教育研究班)。

3.各研究班の研究成果
 @社会教育研究班
 研究成果として、『生涯学習社会におけるメディア・リテラシーに関する総合的研究 第一次報告書−社会教育編』(平成11年10月)を刊行した。
 第1部で、「メディア・リテラシー」への社会教育論的アプローチとしての枠組みを提示し、第2部では、「メディア・リテラシー」のための国、県、市町村での具体的な行政施策の事例が展開されている。
 第3部では、「メディア・リテラシー」に関わる諸事業を行う施設や団体とそのプログラムや活動の事例が分析されている。
 富山県の情報工房の事例では、高齢者から子どもまでの学習機会が提供されている。学校を除く生涯学習施設では、一部の施設での例を除きそのほとんどが「ワープロ・パソコンといった、主としてメディアヘの初歩的なアクセス能力の育成に関するもの」が中心となっている。
 阪南市の「ビデオ特派員講習会」や富山県の情報工房での「デジカメ記録による自然観察記録の作成事業」、あるいは富山県山田村にみられるような「能動的にメディアを読み解く能力や情報発信やコミュニケート能力の不足を補い育成するための事業を生涯学習施設が開発・実施していくこと」が今後の課題であるという。
 他方では、公共機関だけではなく、民間のFM放送局やNPO活動を展開する「メディア・リテラシー」団体など市民が取り組む「メディア・リテラシー」教育の事例も分析の対象としている。
 第4部ではメディア環境論として、青少年の映像文化環境の試論とシニアネットによる高齢者の社会参加の事例研究が展開されている。
 事例研究の結果だけでも、社会教育や生涯学習の分野では学校教育以上に多様な主体や方法によりその機会が提供されていることが明らかになった。
 次年度の研究では、多様な学習者の特性(性・年齢、職業や家族、学習経験、社会体験など)、学習者の社会的環境(アクセス、教育環境、支援制度、学習の必要性など)、メディア社会の状況(普及状況、メディアの機能など)、学習活動(動機、内容、成果と評価)などの多くのファクターを含んだ総合的で実証的な調査研究を行う。

 A比較教育研究班
 研究成果として、『生涯学習社会におけるメディア・リテラシーに関する総合的研究 第一次報告書−比較教育編』(平成11年10月)を刊行した。
 第1部で「メディア・リテラシー」という用語について、カナダ、オーストラリア、イギリス、アメリカ、ドイツ、韓国、中国・台湾、ラテン・アメリカ、ユネスコの各国における定義を紹介している。
 第2部では、メディアと教育に関する国際的規約、法令等について、国際連合「子どもの権利条約」、「子どものテレビ憲章」、「南アフリカ発展途上国子ども放送憲章」、「アジアの子どもの権利とメディアに関する宣言」、「アフリカ子ども放送憲章」などを取り上げている。
 さらに第3部では、メディア環境に関する国際統計、第4部では、世界の「メディア・リテラシー」関連の情報源情報として、文献情報に加えて「メディア・リテラシー」及びメディア教育関係の団体とネットワークが紹介されている。
 本研究では、「メディア・リテラシー」が各国で重要な教育目標となりつつある現状を踏まえながら、国や州などの公的機関がイニシアティブを取り進められる事例と、市民レベルの活動が、学校や家庭の教育に大きな影響を与えるような事例などがみられ、同じ「メディア・リテラシー」の学習や教育であっても、国によってその進展状況や教育・学習の焦点が大きく異なることが示された。

 B学校教育研究班
 学校教育研究では、平成10年度の事例研究を踏まえて、平成11年11〜12月に小学校11校、中学校10校及び高校11校を対象として、学校調査、教員調査、児童・生徒調査及び保護者調査(小・中学校のみ)を実施した。各調査票の回収数は次の表のとおりである。

  表 各調査の回収数
   調査小学校中学校高 校 計 
学校調査
11
10
11
32
教員調査
208
234
421
863
児童・生徒調査
840
1143
2535
4518
保護者調査
796
1042
1838


 学校調査の内容は、学校におけるメディア(パソコン、ネットワーク、インターネット、視聴覚機器等)の保有とその利用状況が中心。児童・生徒調査の内容は、メディア(本、新聞、ラジオ、テレビ、ビデオ、テレビゲーム、携帯電話、ファックス、パソコン、インターネット、電子メールアドレス等)の所有やその利用状況、使用に当たっての容易さの評価、メディアの効果の評価と体験(利用の感想、有害な場面への感想、有害な情報への意見、家族との意見交換、家庭での約束ごと、テレビゲームについての約束ごとの有無)、児童の性格的特徴(内向・外向性)、メディアの学習への活用状況などが中心。
 教員調査、保護者調査の内容は、児童・生徒調査のそれとほぼ共通したものである。教員調査にあっては、授業の中で各種メディアを利用することの重要度についての評価を含んでいる。また、児童・生徒調査票と保護者調査票の対応がつくようにしてあるので、両者の意見の差異の比較検討が可能である。この調査の結果は、本年度内に『第一次報告書−学校教育編』として刊行予定である。

4.次年度の研究計画
 @社会教育班
 生涯学習機関等で学習している成人学習者に対して質問調査を実施し、成人のメディア・リテラシーの実態を把握する。
 A比較教育班
文献調査及び現地調査により各国のメディア・リテラシーのプログラム開発の現状を明らかにするとともに、グローバル社会において国境を越えて求められるメディア・リテラシーを提案する。

 B学校教育班
本年度の調査結果をもとに、クロス集計を中心として、小・中・高校間の児童・生徒及び教員の比較、児童・生徒と保護者間の比較等、さらに深めた分析を行う。