「国立教育研究所広報第121号」(平成11年7月発行)



IEA国際共同研究調査



1.第3回国際数学・理科教育調査―第2段階調査―
 この調査は、IEA(国際教育到達度評価学会)の国際共同研究調査の1つである「第3回国際数学・理科教育調査」(平成7年2月実施)に続く調査であり、わが国では平成11年2月に国立・私立を含む全国140校の中学校2年約5,000人を対象に実施された。対象となった学校は日本全体の状況を反映するよう、「学校基本調査」を基に層化2段階抽出法により無作為抽出された。
 この調査は、第2段階という名称が示すように、2つの意味で平成7年との比較が可能なように計画されている。第一に、平成7年の小学校4年が中学校2年になったときの、4年間の学年による伸びを見ようとするものである。同一の児童・生徒の追跡ではないが、学年の追跡である。第二に、平成7年の中学校2年と平成11年の中学校2年の比較、すなわち4年間の同一学年の変化を見ようとするものである。
 調査実施時期は各国の学年末であり、そのため実施時期の早い国は1998年10月、遅い(多くの)国は1999年5月と違いがある。参加国は39 か国/地域である。
 調査の対象は学校、教師、生徒であり、それぞれ、「学校質問紙」、「教師質問紙」(数学、理科)、「問題」及び「生徒質問紙」が実施された。「問題」は数学及び理科の問題が1冊の中に混じっており、1冊はさらに、第1部(46分)と第2部(44分)に分かれている。このような問題の冊子が8種類あり、生徒はその中の割り当てられた1冊に取り組んだ。生徒に対する調査はおよそ3校時必要であった。  調査は各学校及び調査校を管轄する49都道府県・政令指定都市教育センター(研究所)の所員の協力を得て行われた。調査の実施に先立って、平成11年1月〜2月にかけて全国44の教育センター(研究所)に当研究所の8名の所員がそれぞれ出向き、説明会を開催した。
 さて、従来から調査の質を高めるために、標本抽出や翻訳内容についての国際本部による承認が行われてきたが、今回はそれに加えてさらに高い厳密性が要求された。抽出された学校の85%以上の参加、さらにその学級の90%以上の生徒の参加、1割の学校における調査の観察記録と学校長へのインタビュー。2月という忙しい時期に調査に参加いただいた学校、風邪による欠席の心配を最後までしていただいた先生方、20ページもの観察記録に記入いただいた教育センター(研究所)の所員の方々の協力を得て、調査はおおむね順調に行われた。
 採点も以前にもまして厳密であり、自由記述式の問題の25%は複数の採点者が重複して採点した。前回のこの割合は10%であった。なお自由記述式の採点は、ほぼ2か月をかけてようやく終了した。
 国際比較の公表は来年度秋の予定であり、今年度は国内結果の報告に向けて関係者一同全力をそそいでいるところである。

(科学教育研究センター数学教育研究室長 瀬沼花子)

2.ビデオ授業調査
第3回国際数学・理科教育調査−第2段階調査−の関連調査として、中学校2年の数学・理科の授業をビデオ収録し、国際比較する研究調査「ビデオ授業調査(TIMSS-R Video Study)」が実施されている。
 この調査にはわが国のほか、アメリカ、オーストラリア、オランダ、スイス、チェコ、香港が参加している。国際的には数学と理科の両教科をビデオ収録の対象としているが、わが国では平成6年から7年にかけて第3回国際数学・理科教育調査(第1段階の調査)の関連調査として数学に関するビデオ授業調査を実施したので、今回は理科に関するビデオ収録を平成11年5月から平成12年2月にかけて実施している。
 わが国における今回のビデオ授業調査実施校には、文部省の学校基本調査データに基づき、平成10年度における中学校1年の在籍生徒数18人以上の中学校計10,069校から、層化無作為抽出法によって100校が抽出された。ビデオ収録する授業の担当教師には、ふだんどおりの授業をお願いしている。撮影日がテストでなければ講義や実験など、どのような形式の授業でもよく、撮影のための内容等の変更は避けることが国際的に取り決められている。
 撮影されたビデオは国際本部に送付され分析されるとともに、わが国でも独自に分析を行う予定である。なお、ビデオ撮影は国際事務局(アメリカ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校)から派遣された専門のカメラマンによって行われている。
 ところで、前回はわが国とアメリカ、ドイツの3か国で中学校2年の数学授業をビデオ収録して国際比較する研究調査が実施された。3か国で収録された授業ビデオテープの分析結果が次第に明らかになってきたが、これまで明らかになった研究成果の一部を挙げる。
・わが国の数学の授業展開は数学概念の理解が、アメリカ・ドイツでは、問題を解くことが強調されている。
・わが国の数学授業で扱われている内容は、他の2か国より質的に高度な内容を扱っている。
・わが国の数学授業での黒板使用は、授業終了時に学習内容が概括できるように構造化されている。
上記のとおり、ビデオ授業調査では質問紙などによる調査とは異なる視点からの結果が得られている。

(科学教育研究センター化学教育研究室長 松原静郎)


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