「国立教育研究所広報第121号」(平成11年7月発行)



創立50年を顧みて



次長 牧 昌見



 国立教育研究所(国研)は、平成11(1999)年6月1日、創立50周年を祝う式典を挙行し、文部省はじめ関係各位から祝福と激励を受けた。また、多数のOB職員等が集い、旧交を暖める日となった。国研としては、記念講演会・シンポジウム等を開催するとともに、『国立教育研究所の五十年』を刊行した。ご関係の皆々様に厚く御礼申し上げる次第である。本稿では来し方を顧みつつ、所感の一端を述べることとする。

1 「教育行政の心臓」
 創立から半世紀を経た今日、創設時の初心の在処(ありか)を確かめたい想いに駆られる。文部省学校教育局長(当時)から初代の所長に就任した日高第四郎は、国研は"いわば「教育行政の心臓」として政策の実施や行政の遂行を学問的見地から浄化すべき機能を果たさなければならない。この研究はかくのごとく政策の実施、行政の遂行、したがってまた教育そのものの純化改善に奉仕するという実践的目的に明らかに制約されるとともに、他面においては、この目的の実現には、学問的研究力が充実されその研究はあくまで科学的でなければならない"と述べている。終戦後、いまだ日の浅い当時、教育行政における研究調査の重視を基本方針に掲げ、「教育に関する実際的・基礎的研究を行う機関」として今日の体制の基礎を築かれた諸先達の先見性の確かさに頭が下がる。
国立教育研究所創立50周年記念式典国立教育研究所創立50周年記念式典

2 「調査研究機能」の充実・強化
 国研の転機は、平成元年におとずれた。昭和62(1987)年8月の臨時教育審議会(臨教審)の第四次答申(最終答申)は、文部省は政策官庁としての機能を強化すべきであるとし、そのための組織機構の見直しを求めるとともに、所轄研究所の調査研究機能の充実・強化を訴えている。特に国研については、具体的に次のように述べている。
 「とくに、国立教育研究所については、文部省の政策立案に資するための調査研究機能を強化するとともに、併せてカリキュラム、教材、指導方法等に関する調査研究のセンター的機能の充実も図る必要があり、…教育課程行政や教科書行政については、充実した所轄研究所との連携の強化等によって一層科学的・実証的なものとなることが期待される。」
 現行の国研の組織体制は、こうして整備された。このたび50周年を記念して一般向けに作成したパンフレットは、次の3点にしぼって国研が果たす役割を紹介している。
@ 教育全般に関する総合的な研究調査を実施し、我が国の教育政策の企画・立案に役立っています。
A 都道府県・市町村・民間の教育研究所・教育センターとの共同研究を進め、学校改善を支援しています。
B 日本を代表して教育分野の国際共同研究や国際協力事業を推進しています。

3 「効率化・重点化」に向けて
 「中央省庁等改革に係る大綱」(平成11年1月、中央省庁等改革推進本部決定)は、国の試験研究機関の組織・人員の「効率化及び重点化」を推進するとし、「原則として廃止又は統合を行いつつ、国として総合的に取り組む必要のある重要な研究分野及び広範な行政目的に関係する横断的な研究分野を担う中核的な機関を育成する。」と、行政改革への固い決意を示している。
 こうして大規模な行政改革、教育改革等の諸改革が進行中であり、その中で教育の諸課題に対処する政策研究への期待は高まりをみせている。また、国際的にも教育における共同研究や協力事業を通じての貢献が求められるほか、地方教育センター等との連携・協力による学校改善(総合的な学習の時間など)への支援も緊要な課題である。さらに、中教審は、「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月)の答申の中で、「カリキュラムに関するナショナルセンター」と「生徒指導研究センター」の設置について検討することを提言するなど、新たな要請がある。
 国研は、教育に関する総合的な政策研究を行う国の機関として、効率化・重点化を図りつつ、その使命を全うすべく一層の努力をしていかなければならないと考えている。半世紀を振り返るとき、更なる改善への研究貢献が問われている時であると厳粛に受けとめている。


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