「国立教育研究所広報第121号」(平成11年7月発行)
メディアと教育の未来
NHKエデュケーショナル社長 市村 佑一
テレビ(映像)とパソコン(ネットワーク)は今後どのような形 で教育に寄与できるのだろうか。メディアの側の一人として気にな るところである。
昨年、横浜市内の小学校でパソコン利用の学習や他の学校とのテ レビ討論授業を見せてもらった。子どもたちは生き生きと楽しそう に学んでいたが、時折回線が途絶えたりして先生の苦労が察せられ た。多様なメディアが教室に入れば入るほど準備段階から授業展開 へと教師の役割は一層重要になる。
いまや「ウェブ(クモの巣)」に象徴されるように世界中どこにで もアクセスできる時代となった。問題はコンテンツ(中身)。フラン スの国立教育資料センター(CNDP)ではコンセプトを「知」に絞っ て、メディアミックスの開発に取り組んでいる。生きていくための 基本である文化をどうメディアで伝えていくのか。この3年、作る 側も使う側も試行錯誤の連続である。
もともと映像メディアはヴァーチャルな世界。画面に触発され、 自分もやってみようという気になってはじめて意味がある。いわゆ る五感を通して、肌で感じとった時、子どもたちは生き生きとした 表情になる。「好奇心」や「意欲」こそが学習の原動力なのだ。 「手に得て心に応ず」(荘子)。心の琴線にふれるメディアが必要 である。
日本には江戸時代以来優れた教育の伝統やインフラがある。こう した伝統のうえにメディアを有効活用してはじめて多様な学習体系 が開花するのではないだろうか。