「国立教育研究所広報第120号」(平成11年5月発行)



講演「アメリカの学校現場におけるカリキュラム編成・運営について」から

この3月に本研究所で行われた上記講演会の概要を紹介したい。講師はミシガン州イースト・ランシング高校の副校長であるカズコ・ソーントン博士であり、アメリカでの小・中・高校での長い教職経験がある。

カズコ・ソーントン ミシガン州イースト・ランシング高校副校長

勤務校は、ミシガン州の州都ランシング市の郊外であるミシガン州立大学を中心とした(人口約5万人のうち大学関係者約4万人)イースト・ランシング市にあり、生徒数は約1,200人、教員数は約70名の平均的な規模の公立学校である。比較的裕福な大学関係者の子弟が多く、また、40カ国以上の外国人子弟が在籍するなど、極めて国際的な色彩が強い。一般的な9年生から12年生を持つ4年制の総合高校であり、教育の程度及び関心も高く、大学への進学志望者も多い(約75%が4年制、約10%が2年制の大学等に進学)。しかし、生徒の学力差は大きく、実際には中学から大学3年生程度までの開きがある。

 教育課程は極めて多様で、多くの教科・科目が置かれ、コミュニティーカレッジなどにおける学外での単位取得や前もって大学での単位取得を目指すAP(Advanced Placement)プログラムも用意されている。また、大型設備を要する職業・技術教育については隣接学区が共同で運営する職業教育機関(Capital Area Career Center)で行うが、当校の受講者は少ない。

 従来、教育課程及び必修科目などは、学区の教育委員会や各学校において独自に決められていたが、最近、教育予算が各地区の固定資産税から州の予算へ変更されたこと(当校では、生徒1人当たり8〜9,000ドルから5〜6,000ドルに漸次減額)やMEAP(Michigan Educational Assessment Program)という州の共通テスト(英語、数学、科学、社会、コンピュータなどの教科を対象)などのため、徐々にではあるが州の教育課程基準への準拠が余儀なくされている。必修科目についても、州からその時々の社会情勢などに対応する教科・科目の指定が増える傾向にあり、従来からのものに加えてそれらを増加させざるを得ないなど、教育課程編成上の問題もある。なお、州の共通テストの結果は大学進学の資料とはならないため、半数近くの保護者がボイコットしているが、新聞紙上に掲載されるため、各学区の不動産価格にまで影響することが多い。

 州から配分される各学校の教育予算は、生徒数によって決められ、各学期ごとに査定が行われるため、退学者が出ると次学期から予算が減額されることになる。また、数科目を受講するパートタイムの生徒や宗教上の理由などのため学校に所属しないホームスクールの生徒が芸術や体育などの教科を受講する場合などは、その時間数で計算された予算がくる。当学区におけるホームスクールの生徒は少数であるが、最近、国の施策により数校のチャータースクールが作られ、教育予算上の競合が懸念されている。

 学校のスタッフとしては、授業担当者と4人のカウンセラー、スクール・サイコロジスト(中学校と併任)、ソーシャルワーカー並びに7人余りの特殊教育スタッフなどがおり、それぞれの役割を分担する分業体制がとられている。特に、近年、障害を持つ生徒もすべて健常な生徒と同じ高校に進学するため、特殊教育スタッフ、15人以上の教員並びにボランティアがマンツーマンで彼らのサポートをしている。なお、特殊教育には国からの特別予算措置がある。

 教員は採用後4年間は見習い期間として毎年評価され、その後は終身雇用の形態をとるが3年に一度評価される。評価は副校長などの管理職が行うが、解雇は手続きに膨大な資料の作成が求められることや教員組合対策などから極めて困難である。そのため、可能な限り、管理職による指導や退職教員によるメンタリング・システムによる解決を図ることが多い。教員の勤務日数は、年間182日で、週当たり25時間の授業と5時間の雑務が義務付けられている。

 教育現場は、以上のような現状にあるが、教育予算の不足や政党による教育政策の相違から、一貫した教育が保障されないなどの様々な問題も抱えている。


卒業に必要な単位数
(教科教育研究部職業教育研究室長 名取 一好)


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