「国立教育研究所広報第120号」(平成11年5月発行)



校長の力量養成の制度化



九州大学大学院教授 中留 武昭



 今日の学校改革は公教育経営システムの大きな改革のもとで展開されようとしている。端的に言えば、そこにおいては、生きる力を教育理念において、教育行政の集権化から分権化へ向けての、規制緩和という流れの中で、学校の自主性・自立性の拡大をはかりながら、教育内容の大綱化と弾力化に焦点をあてたところの改革を進めていこうとする新しいパラダイムがみられるわけである。

 このパラダイムにおいて新たに見直されてきたキーパーソンが校長である。改革の主体は学校であり、その先頭に立ってまさに学校をとり仕切る第一人者として、校長の権限拡大化に向けて既に関係法規改正の時期に入ってもきた。

 しかし、権限の拡大とは言え、これを活用する校長の力量次第では、それは両刃の剣ともなる。即ち、校長間の力量の格差がそのまま各学校の良し悪しになるといったことが例外的なものではなく、ごく一般的になる時代が間もなくにしてやってこないとも限らない。

 それにも拘わらず、これまで校長の力量養成に関してはわが国の場合、その制度化はほとんど不問のままであった。長い教職経験プラス人間性を含めた何がしかの力さえあれば、校長職が勤まった牧歌的時代はもはや終わりつつあると見なければならない。これからの校長に必要な力量は明確な経営ビジョンにベースをおいた経営戦略を策定し、それを効果的に達成していく専門的マネジメントの力量と共に、その力量を基底する同僚的にして革新的な学校文化を形成していくことのできる文化的力量という、双方向性をもった力量をバランスよく統一化していける力量である。

 この種の新しい力量の形成は、新しい器としての養成の制度化から―それも免許資格制度化を地方の各教育学系大学院と教育委員会、校長会等の専門職機関との"連携"(協力事業)において、はかっていく必要があるのではないか。それを今後の教育職員養成審議会に期待したい。



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