「国立教育研究所広報第110号」(平成9年9月発行)
教員研修の実態と今後の課題
教育経営研究部主任研究官 坂野慎二
1.はじめに
社会の変化に対応し、学校に求められる課題も変化している。そこで働く教員についても同様である。教員がどのように研修・自己啓発活動しているのかについて、牧昌見を代表とする研究グループは、平成6・7年度に小・中・高等学校および特殊教育諸学校の教員を対象に、5000人規模の調査を行った。
今回の調査の目的は、教員の側からみた研修実態を把握することであり、そこから今後研修に必要な内容・方法等を解明することであった。そのために、@公的機関の研修、A校内研修、B教育関係団体の研修、C自己研修について、それぞれ内容、参加の有無、頻度等を尋ねた。以下、その結果を基に、教員研修について、幾つかの特徴をまとめてみる。
なお、これは文部省の委託研究「教員の研修・自己啓発活動に関する実態調査研究」の成果の一部であることをお断りしておく。
2.年代別の研修動向
今回の調査のねらいの1つである、どの年代で、どのような内容を、どのような機会に研修するのか、について、まずまとめておこう。結果として、年代別にみた研修内容は、主催者別による相違を見いだすことはできなかった。つまり、20歳代では、教科指導中心であり、30・40歳代では、これに教育課程が加わる。50歳代では、管理職向け研修と考えられる学校経営、基礎といった内容が増加する。こうした傾向は、公的機関の研修、校内研修、教育関係団体の研修、自己研修それぞれに共通した傾向である。校内研修では、この他に生徒指導の割合が高くなっている。
3.若手教員と研修
20歳代の教員は、他の年代と比して、幾つかの特徴的な傾向を持っている。第一に、研修内容では、教科指導が圧倒的に多い。第二に、公的機関の研修へ参加する動機において、校長・同僚等に勧められて参加する割合が高い。第三に、自己研修において、学級・HR経営の割合が高い。公的機関の研修で、「非常に役に立った」と考えられる研修内容に、学級・HR経営の割合が高いことも、若手教員の学級・HR経営研修の必要性を反映したものと、理解できよう。
4.高校教員と研修
初任者研修と5年次研修を終えると、公的機関の研修に義務的に参加する機会は少なくなる。学校種別にみると、高校教員全体の公的機関の行う研修に参加した推定割合は、45.9%であり、小・中学校教員が5割を越えているのに比して、参加率が低い。また、自己研修を行っていない者の割合は、高校で10.6%と最も高い。しかし、自己研修に使う費用が月5000円を越える者は、高校で約6割で、他の学校種では5割以下である。自己研修にあてる週あたりの時間数も、高校の教員が最も多い。つまり、高校教員は、研修に熱心な者とそうでない者との相違が大きいということが推察できる。
5.今後の教員と研修
年代別に研修の現状をみるとき、教科指導から、教育課程・生徒指導、そして学校経営へという、これまでの教員のライフ・ステージ対応の研修傾向がみえてくる。しかしながら、教員の高齢化が進みつつある一方で、若年管理職の登用が増えている。各年代の教員が程良く分布した、理想的とされてきた職員構成の学校は、今後少なくなることが予測しうるのである。また、スクール・カウンセラーの導入にみられるように、教員職務の分業化が進行する可能性も十分に考えられる。
このように、学校文化において潜在化していた、年齢・性別等により期待される教員の役割が、今後大きく変化しうる。その結果、一方で年代と対応した研修を維持しつつ、他方では教員の個性、学校における立場等を考慮した、弾力的な研修が必要となるであろう。
いずれにしても、社会の中における学校の変化、学校内部の変化を考えるならば、大学での養成教育では対応できない事項が増加すると考えられ、教員の研修は、今後ますますその重要性を増していくであろう。
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