「国立教育研究所広報第110号」(平成9年9月発行)



第3回国際数学・理科教育調査結果
国際比較分析による小学校算数教育のわが国の現状と課題



科学教育研究センター数学教育研究室長 長崎榮三


はじめに
 IEA(国際教育到達度評価学会)が各国の加盟機関(わが国は国立教育研究所)と共同で実施した第3回国際数学・理科教育調査の国際比較分析をもとに、わが国の小学校算数教育の現状と課題について述べることにする。

第3回国際数学・理科教育調査
 第3回国際数学・理科教育調査は、IEAによって行われてきた昭和39年の第1回数学調査、昭和56年の第2回数学調査に続く第3回目の調査である。なお、小学校算数の調査が含まれたのは今回が初めてである。
 今回の調査は、小中高校を対象に1989年に準備が始められ、1994年〜1995年に各国で調査が行われ、46か国/地域(以下、国と略称)が参加した。小学校の調査には29か国の約4千校の小学校3年生8万人、小学校4年生9万人が参加した。これは、これまでに比類のない世界最大規模の国際的な小学校算数の教育調査である。
 調査は、児童を対象とした問題、児童質問紙、教師を対象とした教師質問紙、学校を対象とした学校質問紙などからなっており、小学校3年、4年とも同一の調査項目である。ただし、小学校4年が主たる調査対象学年である。ここでは、それらの国際比較分析結果からわが国の現状と課題を探る。なお、国際比較分析の対象となった国は参加国より若干少なくなっている。

 算数問題の分析結果
(1)算数の得点
 小学校4年生の算数の平均得点は表1の通りであるが、参加国26か国の中でシンガポールが1番高く、次いで韓国、日本、香港となっている。小学校3年生は、韓国が1番高く、次いでシンガポール、日本、香港となっている。なお、中学校1年生、2年生も上位の国々は同様であった。
表1 各国の算数の得点(小学校4年)
(2)算数得点の男女差
 算数の得点に統計的に男女差が認められた国は、小学校4年生で3か国、小学校3年生で6か国である。わが国は3年生では男女差は認められないが、4年生で男子が女子より得点が高くなり、この傾向は中学校1・2年生でも続いている。
(3)算数の得点の分布
 参加国すべての児童の得点の上位10%以内に達した割合では、シンガポールの39%が1番高く、次いで韓国26%、日本23%となっている。上位50%以内に達したのは、韓国の85%が1番高く、次いでシンガポール82%、日本79%、香港76%となっている。
(4)算数の各内容領域の平均正答率
 算数問題102題の平均正答率は、わが国は小学校4年で74%、小学校3年で63%であり、4年は韓国、シンガポールに次いで3番目、3年は韓国に次いで2番目に高い。
 算数の内容領域は、「整数」、「小数・分数・比例」、「見積り・数感覚、測定」、「資料の分析・確率」、「図形」、「きまり・関係・関数」の6領域に分かれていたが、各領域の平均正答率は、4年生、3年生ともに、シンガポール、日本、韓国、香港が高く、わが国は4年の「見積り・数感覚、測定」では1番高い。

児童質問紙項目の分析結果
(1)算数の好き嫌い
 算数の好き嫌いについて、大好き、好きと答えた小学校4年生の割合をまとめると表2の通りである。わが国はオランダに次いで、算数が好きな児童は2番目に少ない。中学校2年生も2番目に少なかった。
表2 算数が好き(小学校4年)
(2)算数の成績の自己評価
 自分の算数の成績は、大変良い、良いと答えた小学校4年生の割合をまとめると表3の通りである。自分の成績に自信を持っている児童はわが国は2番目に少ない。中学校2年生も3番目に少なかった。
表3 算数の成績は良い(小学校4年)
(3)算数への態度の男女差
 算数への態度については男女差がある国は少ないが、わが国の小学校4年生ですでに男女差があり、男子の方が女子よりも算数に対して肯定的である。

教師質問紙項目の分析結果
(1)算数の学級児童数
 小学校4年の平均学級児童数が30人未満の国はヨーロッパを中心に19か国に達しているが、シンガポール、韓国、日本、香港などの国々は平均で32人以上である。
(2)算数の授業時数
 小学校4年の週当たりの算数の平均授業時数が4時間以上の国は11か国に達している。わが国は平均3.7時間でやや少ない方となっている。
(3)算数の授業での学習形態
 算数の授業での学習形態について、いつもする、殆どいつもする割合をまとめると表4の通りである。世界的には一斉指導と個別指導が典型的な形態であるが、わが国は一斉指導の割合が高く、また、学級で一緒に学習する割合が1番高い。
表4 算数の授業での学習形態(小学校4年)
(4)算数の授業
 算数の授業で算数的な推論が必要な課題を使うことについては、わが国では非常によく使われている。
(5)電卓・コンピュータの利用
 算数の授業ではわが国も含め多くの国で電卓はあまり利用されていなく、コンピュータはほとんど利用されていない。

おわりに
 わが国の小学校の算数教育は、児童の得点、領域別正答率では、国際的に非常に高い水準にあるが、児童の関心・意欲・態度を見ると、算数が好きな児童や学習結果に自信を持っている児童は、国際的には多い方ではない。一方、算数の授業の学習形態では一斉指導と学級全体での学習に特徴が現れている。
 児童に現れた関心・意欲・態度での問題点や男女差の存在は、中学校と同様なものであった。これらへの対処は緊急の課題であろう。

参考文献
(1)国立教育研究所編『小学校の算数教育・理科教育の国際比較−第3回国際数学・理科教育調査最終報告書−』東洋館出版社.1997.(12月発刊予定)
(2)Mullis,I.V.S. et al.“Mathematics Achievement in the Primary School Year". Boston College. USA. 1997.

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