「プロジェクト研究」とは、行政上の政策課題について、本研究所として取り組むべき研究課題を設定し、広く所内外の研究者の参加を得てプロジェクトチームを組織して行う研究活動です。研究期間は概ね2~4年間で、令和8年度に進行中の研究課題は、次のとおりです。
1.初等中等教育
(1)個に応じた学習指導のための教育データ利活用の基盤形成に関する調査研究【令和6~8年度】
研究代表者 増子則義(教育データサイエンスセンター長)
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GIGAスクール構想等により学校でのICT利活用が進み、教育データが質・量とも充実しつつあるが、教師が個々の児童生徒の学習過程を見取りながら特性、関心等に応じて行う指導において、また、それを支える自治体の教育施策において、データ連携上の障壁や現場での知見の不足から、教育データの利活用の取組はまだ十分に進んでいるとは言えない。教育データの利活用に関しては、教育学、情報学、統計学、心理学、認知科学など様々なアプローチにより大学等、自治体、学校現場が連携しながら実践的な研究が蓄積されつつある。本研究は、先駆的知見等を活かした実践研究を行うことにより、全国学調などの大規模アセスメントから日々の学習指導に至る様々な教育データを、学校現場の指導や自治体の施策等を通じ、個に応じた学習指導の実現につなげる方略を提示し、その成果をもとに学校現場や自治体での教育データ利活用の輪を拡げ、教育DXの確実な推進に寄与する。
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最終年度である令和8年度においては、令和7年度までに本研究が実施してきた3自治体での実践研究の内容及び得られた成果をプロジェクト全体で共有する。そのうえで、共有結果を基盤として、研究関係者間で相互に助言・協力しながら、研究実践の改良を行う。改良後の実践研究を通じて、そこで得られた成果と顕在化した課題について、研究全体の視点から体系的に検証する。また、これまでの研究成果を広く発信・共有するとともに、個に応じた学習指導のための教育データ利活用の促進に向けて、本研究の知見に基づく提言を行う。
(2)不登校・いじめ等の生徒指導上の諸課題と学校風土等との関連及び効果的な取組等に関する調査研究-地域との中・長期的な連携を生かして-【令和6~9年度】
研究代表者 宮古紀宏(生徒指導・進路指導研究センター・副センター長)
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文部科学省による「児童生徒の問題行動等・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」において、いじめの認知件数、いじめの重大事態発生件数、小中学校の不登校児童生徒数が過去最多となる等の状況を踏まえ、生徒指導の充実・改善に資する研究を一層推進するために、主に3つの観点からチームを設けて本研究を遂行するものである。
第一の観点は、地域連携協定を結んだ市町村教育委員会が所管する学校を対象に、学校風土(いじめ等を含む)等の生徒指導に関連するデータを中・長期的に収集し、そこから得られたデータ等を分析することにより、生徒指導施策の充実・改善に資する知見を導出することである。また、そのために包括的学校風土調査とフィードバックの仕組みを開発する。(学校風土・生徒指導改善調査チームが担当)
第二の観点は、教育委員会と連携して不登校児童生徒の実態(支援ニーズ)をデータ等から多面的に明らかにすることである。(不登校調査チームが担当)
第三の観点は、いじめ・不登校等の生徒指導上の諸課題と相互に関係しうる、児童生徒らの心理的特性及び発達的特徴、児童生徒らを取り巻く環境要因、さらには児童生徒の発達への中長期的影響に関する知見を導出することである。(社会情緒調査チームが担当)
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令和8年度は、主に、学校風土・生徒指導改善調査チームは、調査対象地域の小中学校の児童生徒への学校風土調査と開発したダッシュボードによる教育委員会へのフィードバック、海外訪問調査(米国等)等を行う。また、不登校調査チームは、得られた不登校等に関するデータを分析する等し、その結果について整理する。そして、社会情緒調査チームは、分析結果のまとめ並びに関連する先行研究のレビューを行う。また、令和6、7年度にかけて実施した中学校3年生~高校一年生までの調査データを連結し、データのクリーニング並びに分析を実施する。
(3)日本の子供・教師のウェルビーイングを高める学校革新に関する研究【令和7~9年度】
研究代表者 藤原文雄(教育政策・評価研究部長)
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令和5年6月に閣議決定された教育振興基本計画ではコンセプトの一つに「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げている。同計画ではウェルビーイングを「身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むもの」としており「子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要である」と述べられている。
本研究では、政策的にウェルビーイングの向上の重要性が高まっていることも踏まえ、①子供と教師のウェルビーイングについて、国際的な研究動向も参照しながら日本の教育文化に即した尺度を検討し、②日本の教師のウェルビーイングを高める方策、及び③教師のウェルビーイングと子供のウェルビーイングの関係を明らかにすること、そして④諸外国で取り組まれている子供と教師のウェルビーイングを高める方策を把握することを目的とする。②の方策に関して、本研究では特に支援スタッフの配置と学校と地域との連携のウェルビーイングへの影響を分析し、さらに経年調査を行うことで時系列的なウェルビーイングの変化の要因も分析する。
これらの分析を通じて、日本の教師のウェルビーイングを高める働き方改革を推進するための方策、及び教師のウェルビーイングを高めることの学校教育上の意義を特に子供のウェルビーイングへの影響に着目して検討し、日本の子供や教師のウェルビーイングに関連する政策形成に資する知見を提供することを目指す。
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令和8年度は、令和7年度中に文献調査や実務者等へのインタビュー調査から検討した日本の教育文化に即した子供や教師のウェルビーイング尺度をもとに設計した調査票を用いて、3つの地方公共団体の公立小中学校教師を対象としたインターネット調査を実施し、得られたデータを分析する。そして、令和7年度中に開催した国際シンポジウムの参加国等を対象に、各国における子供・教師のウェルビーイング向上に関する施策等を文献や当該国の資料等から整理する。
(4)探究的な学びの充実に向けた教育課程の在り方に関する研究【令和7~9年度】
研究代表者 八田和嗣(教育課程研究センター長)
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令和6年9月の論点整理では、中核的な概念や方略を中心したカリキュラムの構造化を図る意義や具体的な方法の検討の必要性が挙げられ、また、令和6年12月の中教審諮問では、各教科等やその目標・内容の在り方について「質の高い探究的な学びの実現」に関する検討事項が示された。探究的な学びの充実に向けた教育課程の基準の改善や各学校における教育課程編成には、①探究的な学びと、教科等の主要概念や学習過程等との関係性を検討すること、②学校現場における課題研究等の探究的な学びを充実するための教育課程編成について、その成果や課題を多面的に分析し、支援の方策を含めて、実践知を蓄積することが求められる。
本研究では、これらの課題について、国内外のカリキュラム研究の動向を踏まえた理論的検討と事例分析を行い、今後の検討に資する基礎資料を提供する。特に、(1)諸外国におけるビッグアイデア等、各教科の中核的な主要概念や学習過程に関する知見を提供し、(2)各学校で重要となる環境や教員支援の方策を含め、学校における教育課程編成についての知見を提供する。
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令和7年度は、オーストラリア、シンガポール、カナダ(BC州)のカリキュラムを調査対象とし、理科、技術家庭科(技術分野)、数学科について中核的な主要概念の具体例やその示し方を整理・分析した。
令和8年度は、これらの結果を基に、教科等の「内容」、教科等における探究的な学び、総合的な探究の時間や理数で実施される課題研究等の探究的な学びの関係について検討を進める。また、諸外国での取り組み事例を基に、デザイン思考やデータサイエンス等の教科の枠組みを超えた探究的な学びにおける学習過程の特徴を整理する。加えて、高等学校等における探究的な学びを充実させるための教育課程編成について、その成果や課題、支援の方策に関する実践知の収集を進める。
(5)生成AIの教育利用可能性に関する調査研究【令和8~10年度】
研究代表者 白水始(初等中等教育研究部長)
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文部科学省では、初等中等教育における生成AI利活用に関する検討会議設置、ガイドライン公表、研修会実施、パイロット校指定といった施策を進めている。これらは生成AIの教育利用を前提として推進するものではなく、児童生徒の状況も踏まえたうえで、学習指導要領の実装という目的に即した慎重な利活用の吟味を呼び掛けている。
本研究では、急速に普及する生成AIについて、その利用が次期学習指導要領の実装に資するための知見を提供することを目的とする。その際、単なる技術的側面にとどまらず、学校や社会が教育・学習をどのように捉え、いかなる目的でAIを利用するかという根底的な「観」も併せて明らかにする。そのために、「教育実践班」において、小中高等学校での生成AI利用実態と、その背景にある教職観・授業観・学習観・評価観を解明する。同時に「環境構築班」で、各種ガイドラインや社会・保護者の反応がいかなる利用環境構築につながるかを検討する。これら多面的な分析を通じて、多様な「観」と生成AIの利用パターンの関係性(布置)を描き出し、学習指導要領実装に向けた「適切な利活用」指針を提供する。
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令和8年度は、主体的・対話的で深い学びの視点に基づく授業改善の取組及び生成AIを含むICTや教育データの利活用についての観察調査及び教員聞き取り調査を行う(教育実践班)。あわせて、諸外国のガイドラインを収集・分析、その変遷と技術的・倫理的課題を整理するとともに、学術文献調査により、学習過程や教育目標の観点から生成AIの利用が学習に与える影響に関する理論的枠組みを整理する(環境構築班)。8月までに本プロジェクトのキックオフにあたるシンポジウムを行い、文部科学省のガイドラインにも触れながら、ベースラインとなる整理を行う。
(6)幼児期・架け橋期の教育の質向上を目指すネットワーク構築に関する研究【令和8~10年度】
研究代表者 大野彰子(幼児教育研究センター長)
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近年、幼児教育から小学校教育への接続の重要性が指摘されている。令和6年10月の「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会 最終報告」では、当センターの研究として、今後は「日本独自の質評価指標の開発やその活用方法について周知を進め、地方自治体の幼児教育アドバイザー向けの研修等や幼児教育施設における園内研修等における活用を促進する」こと、さらに、架け橋期のカリキュラムに関する調査研究等の「取組についての情報を共有できるようなネットワークを、NIERセンターを中核として構築し、地方自治体の取組とNIERセンターの調査研究が相まって、我が国全体の幼児教育の振興へとつなげていくこと」が期待されている。そこで、本プロジェクト研究では、前プロジェクト研究の教育の質の基盤形成に関わる内容を継続・発展させつつ、今日的課題(多様性の包摂:特別な配慮を必要とする乳幼児、小学校低学年の不登校等)を考慮して、令和8年度からの3年間で、①幼児期・架け橋期の幼児教育センターの機能拡充とネットワーク構築、②質評価スケール案の検討と研修支援、③幼児期・架け橋期の子供の育ちと学び(二次分析)の3点から検討する。
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令和8年度は、①前プロジェクト研究で実施・収集した、幼児教育アドバイザー・架け橋コーディネーターの配置・活動状況に関する質問紙調査について分析する。また、文部科学省の架け橋プログラム事業に参加したモデル地域等の先進的な取組及びその後の展開に関する訪問調査を実施する。さらに、幼児教育課と連携し、地方自治体の幼児教育センターの情報交換・共有の場として協議会に参画する。②地方自治体の幼児教育センター等と協働して、質評価スケール研修を実施し、園内研修等での活用方法等を検討する。さらに、質評価スケール研修や保育実践の研修ビデオクリップの映像作成を検討する。③前々回のプロジェクト研究で得られた3歳児から7歳児までの5年間の縦断データを基に二次分析を行い、保育者・教師評定による子供の育ち・学びに関する分析や、幼児教育施設の取組や質による子供の育ち・学びの違い等の検討を進める。
(7)新しい時代の学びに対応した学校施設の質的改善・向上の評価に関する調査研究【令和8~10年度】
研究代表者 磯山武司(文教施設研究センター長)
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国の学校施設整備費の評価指標としては、安全安心に関するアウトプット指標(耐震化率、老朽化対策実施率)が中心で、このような学校施設の質的改善に的確に対応するためのアウトカム指標(施設の質的改善が学習効果の向上等、その施設で行われる活動にどのように寄与するか)について、今まで十分に検討されてこなかった。現下の厳しい財政状況や昨今の急激な建設費高騰の中でも、国による予算措置や教育委員会等における取組に着実につなげていくためには、今後は、アウトカム指標により、その効果を明らかにしていくことが重要になってくる。
国等において質的なアウトカム指標を策定する際の参考となるよう、基礎情報として、施設整備による環境改善が児童生徒や教職員の学習・教育活動にどのように影響し得るかについて、文献調査・統計調査・現地調査及び海外調査を実施し、施設面の影響度合いを評価するモデルを検討し、提案することを目指す。このような評価モデルができることにより、文部科学省における成果指標の検討や施設整備費の確保のみならず、学校設置者である地方の首長、教育委員会が学校施設を整備する際の効果を住民に説明する際等にも活用できるものと考える。
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令和8年度は、文献等調査として、これまで、学校施設整備にどのような指標(例:耐震化率)が設定されていたか、学校施設の評価としてこれまでどのような調査(例:満足度調査)が行われていたか等の先行研究を調査するとともに、統計調査として、学校施設に関する統計と教育に関する統計の連携・紐づけを行うためのシステム設計や分析モデルの検討を行う。更に、海外調査として、海外における学校施設整備に関する指標・評価について調査を行い、先進的な取組を行っている国について、文献調査に加え、1か国程度訪問調査を行う。
2.高等教育
(1)修学支援拡充後の高等教育費負担と進路選択に関する研究【令和8~10年度】
研究代表者 濱中義隆(高等教育研究部長)
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令和2年度から、低所得者世帯の学生に対し、「高等教育の修学支援新制度」が始まった。令和6年度からは、中間所得世帯のうち多子世帯や私立理工農系学部等に通う学生等に対象が拡充され、令和7年度からは、多子世帯の学生等への支援がさらに拡充された。
修学支援新制度は、こうした近年の拡充により、低所得者世帯に対する経済支援のみならず、多子世帯を中心とした家庭の教育費負担の軽減へと性格を拡張してきた面がある。修学支援拡充にともない、保護者の教育費負担の状況や、高校生の進路選択はどう変わったのか。その政策効果を検証する必要がある。
本研究では、令和元年度より2年おきに実施してきた「高校生の進路に関する保護者調査」の分析を行い、修学支援新制度の定着・拡充に伴い高等教育進学希望率や奨学金申請状況と世帯収入の関連性がどのように変化してきたのか、同制度が高等教育の機会均等や学費負担の軽減にどの程度寄与してきたのか等を明らかにする。また、諸外国における高等教育の修学支援(授業料・奨学金)制度、高等教育費負担や進路選択の動向を調査する。
これらの調査・分析から得られた知見をもとに、修学支援拡充の政策的効果を検証するとともに、制度のさらなる改善に向けたエビデンスとインプリケーションを提示することを目的とする。
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令和8年度は、過去4回実施された保護者調査データを分析し、高校3年生の高等教育進学希望率や奨学金申請状況と世帯収入の関連性を、世帯構成(子供の人数)別や学力水準別に分析するとともに、修学支援拡充後の関連性の変化を明らかにする作業を開始する。また、設置区分や所在地域のバランスに配慮して選定した高校・中等教育学校への訪問調査を開始する。外国調査は、文献やウェブサイトの調査を進め、可能な国・地域から現地調査を開始する。