
プロジェクト研究
「プロジェクト研究」とは,行政上の政策課題について,本研究所として取り組むべき研究課題を設定し,広く所内外の研究者の参加を得てプロジェクトチームを組織して行う研究活動です。研究期間は概ね2〜5年間で,令和3年度に進行中の研究課題は,次のとおりです。
1.教育行財政
(1) 教育の効果に関する調査研究【平成30〜令和4年度】
◎ 研究代表者 田村寿浩(研究企画開発部長)
就学前を起点とする縦断調査を国内で試行することで,長期縦断調査の実行可能性を探り,縦断調査のノウハウの蓄積を目指す。併せて,試行調査で収集されたデータを元に,就学前の教育・保育施設の環境,保護者の養育態度や親子関係等がその後の子供の発達に与える影響を検証し,子育て支援策や学校教育制度の改善に役立つ視点を提供することを目指す。具体的には,先行して実施された2〜3歳児追跡調査(プロジェクト研究『教育の効果に関する調査研究(平成27 〜29年度)』)を4〜6歳児まで追跡する調査へと拡張する。加えて,当該子供が通う園を対象とした調査も実施する。
令和3年度は,前年度末に実施された,保護者調査及び認知調査のデータの入力・クリーニング作業を行う。その後,最終報告書のための基礎集計作業(ex. 中間報告書以降の年次の基本統計量,調査開始時(2歳児)から調査終了時(6歳児)までの5時点の経年比較の図表の作成など)を行いつつ,並行して,分析作業(ex. 就学前の習い事が認知能力に与える影響,育児ストレスが子供の成育に与える影響など)に着手する。
(2) 客観的根拠を重視した教育政策の推進に関する基礎的研究【令和元〜3年度】
◎ 研究代表者 渡邊恵子(教育政策・評価研究部長)
近年,教育政策のEBPMの推進が求められているが,現実的な観点から多くの課題が存在している。これらの課題解決に資する基礎的な知見を提供することを目的とし,@英米における教育分野の政策形成とエビデンス,A教育政策のインパクト,B地方自治体における教育政策のエビデンス,C学校におけるエビデンスという四つの視点から調査研究を行う。
令和3年度は,上記@については,文献調査を中心に進めながら研究成果を取りまとめる。Aについては,質問紙調査の結果や学校基本調査等の公的統計を基に分析を行うとともに,事例調査を行い,研究成果を取りまとめる。Bについては,前年度に実施した市町村教育委員会を対象とした質問紙調査の分析とともに教育委員会等への訪問聞き取り調査を行い,研究成果を取りまとめる。Cについては,文献調査や聞き取り調査も進めながら,研究成果を取りまとめる。
2.初等中等教育
(1) 学校における教育課程編成の実証的研究【平成29〜令和3年度】
◎ 研究代表者 鈴木敏之(教育課程研究センター長)
学習指導要領改訂に備えた学校における教育課程編成の実証的研究を行う。具体的には,@学校における教育課程の編成と改善について実証的に検証する,Aこれからの時代に求められるリテラシーに関して多面的な視点からの研究を行う,B諸外国の動向調査,研究開発学校等における実践研究から学習指導要領改訂に向けた基礎資料を収集分析する。
令和3年度は,上記@については,資質・能力の育成を目指す教育課程編成に求められるカリキュラム・マネジメントの在り方やその充実に必要な施策等について,これまでの成果を取りまとめた最終報告書を刊行する。Aについては,科学的リテラシー,現代的な諸課題に対応した理社単元開発,プログラミング教育に関する報告書を刊行する。また,Bについては,諸外国の動向について,所外の外国研究者を中心とする研究体制を組織して検討会を開催し,比較研究に必要な枠組みを検討した上で、各国調査を実施する。
• 主体的・対話的で深い学びを実現する授業改善の視点について(検討メモ)
(2) 幼児期からの育ち・学びとプロセスの質に関する研究【平成29〜令和4年度】
◎ 研究代表者 渡邊恵子(幼児教育研究センター長)
3歳児から小学校2年生への育ちと学びを継続的に捉えて検討する。具体的には,主に幼児教育センターのある地方自治体(関東,関西・中部,中四国,九州,北海道・東北)と連携し,約100園程度の幼稚園,保育所,認定こども園と,約400校の就学先の小学校において,同じ幼児・児童を5年間継続的に調査対象とし,@育ちと学びを支える力に関する研究,A幼児教育におけるプロセスの質の評価と活用に関する研究を行う。
令和3年度は,幼児調査に参加した小学2年生について小学校教諭と保護者を対象に,質問紙調査を実施する。幼児調査に参加した対象児が在籍する一部の小学校(5校)において,学力調査(国語・算数)を約450名に実施する。面接調査と学力調査との関連を確認するため,一部の小学校(2校)の児童を対象に,認知的能力や社会情緒的スキルに関わる面接調査(言葉・語彙:PVT-R,数量図形:K-ABCU数的推論,実行機能EF)を行う。また,幼児教育アドバイザー等による研修での活用を目的として,保育実践の質評価スケール案作成と,スケール項目の解説を付したガイドブック(試案)を作成する。
• 幼児期からの育ち・学びとプロセスの質に関する研究(中間報告)
中間報告 / 概要版
中間報告 / 全体版
(3) 高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究【令和元〜4年度】
◎ 研究代表者 藤原文雄(初等中等教育研究部長)
ICT・AIなど進展する高度情報技術を学校教育にも積極的に取り入れることにより教育の質を一層高めていく教育革新を推進するための方策検討に資する知見を提供するため,@進展する高度情報技術を生かすための検討課題の整理,A高度情報技術の進展に応じた教育革新を推進する上での促進条件の解明,B高度情報技術を活用した授業研究技術の開発を行う。
ウィズコロナ・ポストコロナの教育状況を見据え,令和3年度は,上記@においては,年度末実施予定のフェイズ3シンポジウム等を通し研究を深め,その成果を基に,高度情報技術の教育活用に関する活用原則,活用場面,具体例,ソフトウェア選択のためのレビューモデルの四点を整理する。Aにおいては,高度情報技術の教育活用が,教職員の校務負担の軽減や勤務体制の改善を通じ,児童生徒の多様なニーズに対応した質の高い教育を実現することで,最終的に児童生徒の学習への取り組み状況と児童生徒と教職員のウェルビーイングの向上に効果があるか分析する。Bにおいては,先行研究の収集及び授業中の教師にかかる認知負荷の測定可否を検討する小中学校の教師を対象とした調査を実施する。
• 高度情報技術を活用した教育革新の展望と検討課題(キックオフシンポジウム報告書)
キックオフシンポジウム当日の講演資料につきましては,こちら から見ることができます。
• 高度情報技術を活用した全ての子供の学びの質の向上に向けて(フェイズ1シンポジウム報告書)
フェイズ1シンポジウム当日の講演資料につきましては,こちら から見ることができます。
• 令和2年度教育研究公開シンポジウム 「学習評価」の充実による教育システムの再構築:みんなで創る「評価の三角形」(フェイズ2中間シンポジウム報告書)
令和2年度教育研究公開シンポジウム当日の講演資料につきましては、こちらから見ることができます。
• 令和2年度教育改革国際シンポジウム ICTを活用した公正で質の高い教育の実現(フェイズ2シンポジウム報告書)
令和2年度教育改革国際シンポジウム当日の講演資料につきましては,こちらから見ることができます。
• 公正で質の高い教育を目指したICT活用の促進条件に関する研究:2020年度全国調査の分析(「高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究」中間報告書1)
(4) 社会情緒的(非認知)能力の発達と環境に関する研究:教育と学校改善への活用可能性の視点から【令和2〜5年度】
◎ 研究代表者 鈴木敏之(生徒指導・進路指導研究センター長)
児童生徒を対象に,非認知能力の中核として国際的に注目されている社会情緒的能力に焦点化した調査研究を行い,その発達の実態と環境による影響について知見を得ることとする。〔発達調査研究〕
また,海外では認知能力と非認知能力の測定,分析の結果を教育改善,学校改善,行政サービスの提供につなげようとする取組が始まっていることから,制度・政策に関する海外での先進的な取組についても調査することとする。〔学校改善研究〕
こうした調査研究により,児童生徒の社会情緒的能力に関する我が国の実態と海外での先進的な取組を明らかにし,教育実践や教育改善に資する知見を得ることを目的とする。
令和3年度は,発達調査研究としては,小学生と中学生の社会情緒的能力の発達と環境に関する1回目の調査として,小学6年生その保護者,学級担任に対する質問紙調査を実施する。
また,学校改善研究としては,初年度の基礎研究の結果を踏まえて,米国の地方教育当局(郡や学区教育委員会)や学校への訪問調査を行い,学校教育を評価することの意義や課題に関する当事者たちの認識を,ウィズコロナ・ポストコロナによる変化を含め,実地調査によりヒヤリングを行う(オンライン会議も活用)。
• 「社会情緒的(非認知)能力の発達と環境に関する研究:教育と学校改善への活用可能性の
視点から」(学校改善チーム)中間報告書(米国・中国調査)
• 発達調査チーム研究報告書「新型コロナウイルス感染症流行下における児童生徒の社会情緒的
(非認知)能力をめぐる状況:流行初期に関する文献調査」
(5) 学力アセスメントの在り方に関する調査研究【令和3〜5または6年度】
◎ 研究代表者 鈴木敏之(教育課程研究センター長)
調査問題のCBT化にとどまらず,Society5.0に向けて学習をめぐる新しい評価改善のサイクルを確立することが求められている。本研究では,先行事例等を踏まえ,学習科学,教育測定,データサイエンス及び実務的知見等を架橋して,CBT移行を展望した作問・結果分析の枠組みを策定するとともに,新たなPDCAサイクルの要となる学力アセスメントの改善充実に向けた調査研究を行う。具体的には,@学力アセスメントの改善充実(総括班)A学力調査等の結果を踏まえた分析・総括(現況分析班)BCBT移行を展望した作問・結果分析枠組みの策定(作問・結果分析班)C問題バンクの構築・運用の在り方の検討(測定技術班)DICT技術を生かしたCBTの在り方の検討(データサイエンス班)の研究を行う。
令和3年度は,学習指導要領(平成20年告示)に基づき行われた全国学力・学習状況調査等の結果を踏まえ,成果や課題について分析・総括を行うとともに,先行事例等を踏まえ,全国学力・学習状況調査等のCBT化に向けた作問の枠組みについて仮説を作成する。あわせて,IRTを活用した問題バンクの構築・運用の在り方を検討し,要件定義をまとめる。また,調査ログの収集と解析,最新のAI技術を活用した記述式問題の自動採点について,先行事例等の情報を収集し,全国学力・学習状況調査等のCBT化における導入の在り方を検討する。
なお,本調査研究は,教育データサイエンスセンターと連携しながら進める。
(6) 対話を通じた新しい学校空間づくりのプロセスに関する調査研究【令和3〜令和4年度】
◎ 研究代表者 齋藤福栄(文教施設研究センター長)
公立小中学校において,建築家・教職員・行政職員・地域住民等の対話を通じた学校建設・学習空間整備のプロセスが,建設・整備後の教育や学校運営にどのような影響を及ぼすか,教育や学校運営の継承に貢献するのかを明らかにし,対話の意義について考察する。また,教員が,「与えられた空間を使って教育する」から,「より主体的に空間を活用しつつ教育する」に転換するために必要な知見の習得方法を提案する。
令和3年度は,対話を通じた学校づくりの実態調査,対話が発生した要因の類型化,教員養成課程における学校空間に関する教育の実施状況についての文献等調査,対話を通じた学校づくりや対話の手法についての事例収集,教育実施上,学校空間を工夫して構築・再編・活用している事例の収集・分析,学校管理職へのヒアリング・聞き取り調査,オーストラリアやニュージーランド等,海外での事例を収集し,比較する訪問調査の実施,整備時の対話が,建設・整備後の教育や学校運営にどのような影響を及ぼすか,教育や学校運営の継承に貢献するのか質問紙調査の実施を予定している。
3.教職員
(1) 教員の配置等に関する教育政策の実証に関する研究【平成28〜令和4年度】
◎ 研究代表者 田村寿浩(研究企画開発部長)
学級規模や教員の配置,指導方法の工夫が児童生徒の資質能力の育成に与える影響について検証することが教育政策上の重要課題となっている。また,いじめ・不登校・貧困問題を抱える学校現場では教師に求められる業務も複雑・多様化している。このような状況を踏まえ,自治体で実施している学力・学習状況調査等を活用し学級規模等の教員の配置が学力や非認知能力などに与える効果や不登校等の問題行動に関する児童生徒支援加配の効果を実証的に検証する研究を進め,教育政策へ基礎的なデータを提供することを目的とする。
令和3年度は,学級規模の効果に関する研究について,これまでに実施した,児童生徒の非認知能力を測る質問紙調査,教員を対象とする質問紙調査や,自治体で実施された学力調査等の分析を進める。
4.高等教育
(1) 高校生の高等教育進学動向に関する調査研究【令和2〜4年度】
◎ 研究代表者 濱中義隆(高等教育研究部副部長)
本研究では,全国の高校3年生の保護者を対象に行った質問紙調査データを使用して,「高等教育の修学支援新制度」導入後の高校生の進学動向を明らかにし,中間所得層等の家計負担度等を分析するとともに,継続的な調査実施を支えるための調査内容・方法を検討することを目的とする。特に,高等教育機関への進学と世帯収入の関連性や,この関連性が学力,性別,地域,高校タイプ等によってどう異なるかを検討する。
令和3年度は,保護者調査の分析を継続するともに,令和3年度に新たな調査が行われる場合には,企画・実施に協力する。元年度調査と同様,調査対象の高校を生徒数に応じて無作為抽出し,対象校を通した保護者への調査協力依頼を行い,保護者がウェブ上で回答する形式を前提に,調査方法に関する技術的な検討を行う。調査票の内容では,保護者の教育費負担に関する意識,奨学金申請・受給状況,進学費用の調達方法等に関する設問をさらに充実させることを検討する。また,「子供の学習費調査」を基に,保護者が子供に期待する学歴と世帯収入の関連性を学校段階別に明らかにすることの必要性を検討する。研究会も開催し,当年度の研究成果の取りまとめを行う。