1 概要
不登校やいじめを未然に防止するには、全ての児童生徒が安心・安全に学校生活を送ることができ、規律正しい態度で授業や行事に主体的に参加し、活躍できる学校づくりを進めていく必要があります。
本事業は、このような「魅力ある学校づくり」に向け、都道府県・指定都市教育委員会に委託し、「全ての児童生徒を対象」に全教職員で取り組む調査研究です。
調査研究の具体的な進め方は、以下のとおりです。
- 中学校区単位で地域を指定し、校区内の小・小、小・中が密に連携しながら「魅力ある学校づくり」に取り組む。
- 2年間にわたり、定期的に児童生徒の実態を把握する意識調査を実施し、その結果を基に、課題・目標の設定→実践→点検→課題・目標の見直し、の「PDCAサイクル」を繰り返す。
- 指定地域の都道府県教育委員会・市町村教育委員会と連携し、教育委員会(特に指導主事)が果たすべき役割について検討・整理する。
2 これまでの主な取組と成果
本事業は、平成22年度より4期にわけて実施されてきました。委託先の教育委員会や教職員、有識者の意見を反映し、より効果のある仕組みへと点検・見直しを図りながら取り組んできた主な内容と成果は、以下のとおりです。
(1)第Ⅰ期 (平成22~23年度)
30府県の30指定地域(中学校区)において、以下の点に留意した取組が行われました。
- 既に不登校状態にある児童生徒の学校復帰や、休みがちな児童生徒に焦点を当てた初期対応ではなく、新たに不登校にさせない「未然防止」の取組とはどのようなものか。
- その際、従来の事業にはなかった「中学校区」で取り組む意義、また方法とはどのようなものか。
主な成果
上記の留意点を踏まえつつ、児童生徒の自己有用感の醸成を図るという目標を設定し、「分かる授業づくり」「安心した学校生活を送ることができるようにする生徒指導」「縦割り班活動」「小学校間交流」「地域における体験活動」が重点的に実施されました。
その結果、2年後には30指定地域のうち20地域で不登校児童生徒数(小学5年生から中学3年生不登校数の合計)の減少が見られました。多くの児童生徒が、様々な活動の場面を得て、苦労してやり遂げたり、努力が報われて成功したりする大切さを実感することができ、「心の居場所づくり」や「温かい人間関係の構築」が進み、そのことが不登校児童生徒数の減少に結び付いたと考えられます。
【事例】 秋田県潟上市羽城中学校区
| 不登校児童生徒数 | ||
|---|---|---|
| 平成21年度 | 小学5年生~中学3年生の不登校児童生徒数 | 16名 |
| 平成23年度 | " | 6名 |
特徴的な取組
小・小連携から小・中連携へとつながる9年間の取組を具体的な形としてまとめ、教職員が意識して取り組んだことが成果につながったと考えられます。
具体的には次のような取組が行われました。
- 初年度に中学校区内の二つの小学校が小・小連携によって学年進行に即した児童生徒像を統一し、更に中学校にまで広げた「羽城かがやきプラン」を作成
- 学年進行に即した9年間の授業や家庭での学習習慣をまとめた「基本的学習習慣系統表」を作成(2年度)
(2)第Ⅱ期(平成24~25年度)
第I期の成果を踏まえ、22府県の22指定地域(中学校区)において、以下の点を強化した取組が行われました。
- 小・中連携を強化するため、小学校の研究担当者の役割を明確にするとともに、中学校だけではなく小学校の研究担当者も連絡協議会(年2回)に参加して、小学校における効果的な取組の在り方について協議する。
- 教職員の共通理解には、生徒指導のPDCAサイクルを意識することが重要であるとの認識に立ち、児童生徒対象の取組評価アンケートによる共通指標を手がかりに取組を進められるよう、共通の手順等を示す。
主な成果
児童生徒の「居場所づくり」と「絆(きずな)づくり」をさらに意識して取り組んだ結果、22指定地域のうち16地域で不登校児童生徒数(小学5年生から中学3年生不登校数の合計)が減少しました。特に、中学校区全体での組織づくりをより意識した学校で成果が上がる傾向が見られました。
学校・家庭・地域が連携し、計画的に取組が進められた結果、小学校5年生~中学校3年生の児童生徒対象に行った意識調査では、「学校が楽しい」「みんなで何かするのは楽しい」「授業に主体的に取り組んでいる」「授業がよくわかる」の項目で肯定的回答が全体の約9割を超える等、「居場所」や「絆(きずな)」を多くの児童生徒が実感できるようになりました。そうした学校の雰囲気の変化が、不登校児童生徒数の減少につながったと考えられます。
【事例】 福井県福井市光陽中学校区
| 不登校児童生徒数 | ||
|---|---|---|
| 平成23年度 | 小学5年生~中学3年生の不登校児童生徒数 | 16名 |
| 平成25年度 | " | 7名 |
特徴的な取組
小・中学校の教職員だけでなく、家庭・地域にもデータを示しながら具体的な取組についての理解と協力を求めたことが成果につながったと考えられます。
- 小学校と中学校の全教職員で構成される四つの部会(「豊かな心育成部会」「小・中交流部会」「学力向上部会」「学校生活向上部会」)で小・小連携と小・中連携を推進
- 取組評価アンケートの結果をグラフ化して家庭・地域と共有することなどにより、取組の成果と課題の見える化を促進
(3)第Ⅲ期(平成26~27年度)
第Ⅱ期までの成果を踏まえ、生徒指導のPDCAサイクルに基づく調査研究をさらに進めるため、18府県の18指定地域(中学校区)において、以下の点を強化した取組が行われました。
- 小学5年生~中学3年生の児童を対象とした取組評価アンケートを、年2回から3回に増やし、取組の効果をより細やかに把握する。
- 上記アンケートの結果を、各校における取組の点検と見直しに活用するだけでなく、中学校区全体の取組の成果と課題の分析にも活用する。
- 教員研修等様々な機会を通じて、府県教育委員会と市町教育委員会が互いに補完し合いながら、地域の特性に応じた汎用性のある取組へと発展させる。
主な成果
全国の中学校で不登校生徒数が微増する中、指定地域全体(18地域)では、不登校児童生徒数を約20%減少させることができました。不登校生徒数の割合が全国平均を上回っていた中学校でも、13校中7校で全国平均を下回りました。
PDCAサイクルの周期短縮(年2回から3回へ)や、小・中で共通して用いられるキーワード(例えば「自己有用感・学び合い・関わり合い」等)の設定とその定義の明確化等により、取組に対する理解が中学校区の全教職員に深まり、小・中連携が進展し、教職員がチームとして機能するようになっていったこと等が、不登校児童生徒数の減少につながったと考えられます。
成果の詳細は、前述の「PDCA×3=不登校・いじめの未然防止」(全体版 / 抜粋版)をご覧ください。
【事例】 静岡県袋井市浅羽中学校区
| 不登校児童生徒数 | ||
|---|---|---|
| 平成25年度 | 小学5年生~中学3年生の不登校児童生徒数 | 26名 |
| 平成27年度 | " | 12名 |
特徴的な取組
小・中で共通するキーワードを決めて、チームとして動くようにしたことが成果につながったと考えられます。具体的には次のような取組が行われました。
- 「みんなで・繰り返し・継続的に」という意識を、一部の職員の取組ではなく全学年、全職員に徹底した。
- 「自己有用感」について、小・小間、小・中間で教職員が顔を合わせて定義づけやそれを育てる意義、方法等をそれぞれの立場からしっかりと協議し、校区全体で共有した。
(4)第Ⅳ期(平成 28 年度~令和4年度)
第Ⅲ期までの成果を踏まえ、①都道府県教育委員会・市町村教育委員会・学校それぞれの役割分担と連携、②指定中学校区だけでなく、市町村域内全体への普及、を重視しつつ調査研究を進めました。
調査研究期間は、これまでと同様2年間としていますが、次表のとおり毎年度指定地域を約半分入れ替えることにより、先行研究の成果を次の研究に迅速に生かせるように工夫しました。
| 年度 | 委託地域(地域数) | 作成・公表した資料等 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| H28 | A (8) |
B (11) |
教育委員会が各校の状況を把握するための欠席日数調査、個別状況調査様式の開発 | |||||
| H29 | C (8) |
PDCAサイクルの点検・見直しを効率的に行うためのPDCAシート、備忘録様式の作成 | ||||||
| h20 | D (11) |
生徒指導リーフ22「不登校の数を継続数と新規数に分けて考える」作成 | ||||||
| R元 | *後半1月からコロナ禍 | E (8) |
「欠席日数調査を不登校施策に生かすための指導主事向け資料」作成・活用 | |||||
| R2 | *コロナ禍 | F (8) |
小中連携に寄与する欠席児童追跡調査シート様式の開発 | |||||
| R3 | *コロナ禍 | G (7) |
||||||
主な成果
第Ⅳ期の途中からコロナ禍となる中で、未然防止の取組としてできることを模索しながら進めてきた19地域について以下のような成果が見られました。
対象地域
- 平成30~令和元年度の二年間取り組んだ11地域(Dグループ)
- 令和元~令和2年度の二年間取り組んだ8地域(Eグループ)
主な成果
- 全国の中学校で新規不登校生徒数が微増する中、コロナ禍であっても、工夫をしながら未然防止の取組を適切に行った結果、D指定地域全体(11地域)、E指定地域(8地域)共に、新規不登校生徒数が減少しました。(グラフA参照)
- 全国の中学校で不登校総数に占める新規不登校数の割合が、横ばいで推移する中、コロナ禍であっても、工夫をしながら未然防止の取組を適切に行った結果、D指定地域全体(11地域)、E指定地域(8地域)共に、不登校総数に占める新規不登校数の割合が減少しました。(グラフB参照)
こういった成果は、学校が、コロナ禍であっても、すべての子供たちを対象とする未然防止の取組として、「分かる授業づくり」「一人一人がいかされる行事づくり」を意識して粘り強く取り組んだことと、教育委員会が、各学校、地域の実態に合わせて適切な関わりを重ねたことによって得られたと考えられます。各学校における授業や行事の中での適切な「居場所づくり」と「絆づくり」の取組が、不登校の新規数抑制に資することが改めて確認されました。