Tuning Japan National Centre 国立教育政策研究所は、国際チューニング・アカデミーの依頼を受けて、日本のチューニング情報拠点としての役割を担っています。 NIER
チューニングとは何か チューニング情報拠点の設置について 国立教育政策研究所におけるチューニングの取組 大学等におけるチューニングの取組 資料・過去のイベント  

チューニングとは何か

 チューニングとは、学位プログラムを設計・実践する「方法」を共有することを通して、大学教育の「等価性(comparability)」を高めていくことを目指す取組です。 多様性と自律性を大学の強みとみなし、標準化を招くことなく、大学教育の中身を社会に対して分かりやすく説明しようとする大学の努力でもあります。
チューニングとは何か( PDF )

1. チューニングは、大学による大学のためのプロジェクトです

《背景》
 チューニングは、1999年に欧州29か国(現在46か国に拡大)の高等教育担当大臣によって、ボローニャ宣言が署名されたことに対する大学の対応として着手されました。 ボローニャ宣言とは、欧州の国々が学位制度(3サイクル)及び単位制度(ECTS)を共有することによって、欧州高等教育圏の確立を目指すことを表明するものでした。 その理念を実質化させるためには、学生が「どのような知識・技能・態度を身に付けたか」というアウトカムの観点から、学位資格と学修期間の「等価性(comparability)」 を相互承認するための仕組みを構築する必要があります。チューニングとは、そのために大学教員が集い、欧州委員会の支援を受けながら、15年にわたって継続的に取り組んできた プロジェクトです。

《展開》
 チューニングは、欧州高等教育圏を実質化させる目的で取り組まれてきたプロジェクトであり、圏外への展開は意図されていませんでした。 しかしながら、チューニングは、アウトカムに基づく大学教育を目指す取組であることから、その理念と方法は圏外の国々でも注目され、それぞれの文脈に適した形で採用されてきました。
 チューニングは中南米(2004年)、ロシア(2006年)、アメリカ合衆国(2009年)、オーストラリア(2010年)、アフリカ(2010年)、カナダ(2011年)、 中央アジア(2012年)、中国(2012年)、インド(2014年)等で着手され、大学教育に係る大学・国・地域間の相互理解の促進に寄与してきました。結果的に、 チューニングは大学教育に係る緩やかなグローバル・コンセンサスを達成するための有力なツールとみなされるようになってきています。

2. チューニングは、学習共同体のネットワークです。

 チューニングとは、大学教員や専門家が学問分野やテーマごとに集い、大学教育について省察・議論し、ツールを開発し、共有するための学習共同体のネットワークです。 相互の信頼関係の構築を目指し、国や文化の違いを超えて、互いの自律性を尊重しながら、知識や経験を惜しみなく共有することを旨としています。 それぞれの文脈に応答的でありながら、常に目的・目標・アウトカムを明らかにして達成度を評価することで、アカウンタビリティを果たすことに注力します。

3. チューニングとは、学位プログラムを設計して実践するための方法論です。

 チューニングとは、学位について、共通の枠組みに基づいて分かりやすく説明するための方法論です。 チューニングにおける学位とは、社会にとってレリバント(妥当)であり、不断に質の維持・向上を目指すものでなければなりません。 このことは、チューニングのプロセスが、それぞれの国・地域の多様性を十分に尊重し、それに応答的でなければならないことを意味しています。
 このためにチューニングは、専門家のコンセンサスに基づく共同作業として進められます。 専門家には、学問分野や学位プログラムにおける必須の要素が何かを理解すると同時に、どの程度の多様性が許容され得るのかを理解する能力を有していることが期待されます。

《チューニングの工程》

  1. @学問分野のメタ・プロフィールの同定-学問分野別コンピテンス・分野横断的コンピテンス
    • ) 専門家による検討
    • ) ステークホルダーとの協議(consultation)
  2. A学位プログラムの設計と実践
    • ) 基礎的要件を満たす
    • ) 学位プロフィールを定義する
    • ) 学位プログラムを通して学生に習得させようとするコンピテンスと学習成果を定義する
    • ) 科目を配置して単位を割り当てる
    • ) 教授・学習・教育評価の方法を決定する
    • ) 学位プログラムを評価して改善する
① 学問分野のメタ・プロフィールの同定-学問分野別コンピテンス・分野横断的コンピテンス  

 チューニングでは、大学教員や専門家が学問分野やテーマごとに集い、学問分野を学んだ学生が身に付けていることが期待されるコンピテンスについて協議して、コンセンサスを形成します。さらに、学問分野のステークホルダーである学生・卒業生、雇用主と協議して、大学教員や専門家が同定した学問分野のコンピテンスの一覧についての妥当性を検証し、ズレがある場合は調整した上で、確定します。

 チューニングでは、こうした手続を経て、地域ごとに既に参照基準(reference points)が発表されています。例えば、欧州では第1&2フェーズの(2000-2004年)プロジェクトの中で、9つの学問分野(経営学化学教育学欧州学地球科学歴史学数学看護学物理学)について、 報告書がまとめられています。報告書は、おおむね以下の共通の要素から構成されています。

  • チューニング・プロジェクトの概要
  • 学問分野の概要
  • 授与されている学位、進路先
  • 学問分野のコンピテンス・分野横断的なコンピテンス
  • 教授・学習・アセスメントの方法

学位プログラムの設計と実践
A Guide to Formulating Degree Programme Profiles - Including Programme Competences and Programme Learning Outcomes (PDF)

1) 基礎的要件を満たす

  • 学位プログラムの社会的必要性は、ステークホルダー(学生・卒業生・雇用主)との協議に基づいて検証されているか。
  • 学位プログラムには、学術的観点からも十分な意義が認められるか。
    ≫ 学問分野の参照基準は同定されているか。
  • 学位プログラムを提供するために必要な資源を、大学は学内外から調達することができるか。

2) 学位プロフィールを定義する

 学位プロフィールとは、学位プログラムを通して学生に何を修得させたいのかを伝達するための文書です。学位プログラムの詳細と期待されるアウトカムを、学生が学習に先立って知り、卒業後には社会に対して説明することを助けるものです。
 学位プロフィールは、大学教職員と学生の代表によって執筆されます。
 以下の7つの要素が、簡潔かつ明瞭に記載されていることが求められます。

  1. 基礎情報(正式名称、授与される学位、履修期間、学位授与機関、認証評価団体・認証期間、資格枠組みにおける水準)
  2. 教育目標
  3. 特徴(学問分野、専門性・汎用性、研究・職業志向、強みや固有性)
  4. 進路先(就職先・進学先)
  5. 教授・学習スタイル(主たる教育方法・評価方法)
  6. 獲得が期待されるコンピテンス(分野固有・分野横断的コンピテンス:15個程度)
  7. 習得が期待される学習成果(15〜20個)

3) 学位プログラムを通して学生に習得させようとするコンピテンスと学習成果を定義する

  • 「コンピテンス」とは、学位プログラムを履修した総合的な成果として、学生が獲得することが期待されている知識や能力が有機的に結合したもの。
  • 「学習成果」とは、学生がカリキュラムの履修をとおして習得することが期待されている具体的な知識や能力。
    • 学位プログラムを構成する各科目を担当する大学教員が、追求するコンピテンスに即して設定する。「範囲」と「水準」が規定されている。
    • 単位認定の根拠として、所定の学習期間内に達成可能であり、測定可能でなければならない。
  • 分野固有コンピテンスだけでなく、分野横断的コンピテンスも学問分野の文脈の中で(学問分野のコンテンツを通して)獲得される。
各科目の中で習得される学習成果と、学位プログラム全体を通して獲得されるコンピテンス(A〜J)の関係(例)
コンピテンス A B C D E F G H I J
科目1 (5ECTS)学習成果                
科目2(10ECTS)学習成果            
科目3 (5ECTS)学習成果                
科目4 (5ECTS)学習成果                
科目5 (5ECTS)学習成果              

※ 水準基標(Dublin Descriptors)資格枠組み(Qualifications Frameworks)分野別参照基準(Tuning Subject Area Reference Points)等、 共通の枠組みに基づいて範囲と水準を規定することで、客観性を確保する。
※ 異なる学習成果のセットから、共通のコンピテンスが獲得される(学位プログラムの多様性と共通性を両立させる仕組み)。

4) 科目を配置して単位を割り当てる

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  • 科目配置の原理
    • 各教員が何を教えられるか(教員本位)ではなく、学生にどのようなコンピテンスを獲得させたいのか(学生本位)。そのためにどのような科目を配置する必要があるのか。
  • 単位割当ての原理
    • 各科目の中でどれだけの学習成果を学生に習得させようとするのか。そのために平均的な学生が必要とする学習時間は何時間か。
    • ECTS(欧州単位互換累積制度)では、1ECTSを学習時間25〜30時間相当、一年間60ECTS(学習時間1500〜1800時間相当)として計算されている。学習時間は、授業に出席する時間だけでなく、予習・復習・テストの準備・グループ活動等、全ての学習活動に係る時間を柔軟に組み合わせた全体。

5) 教授・学習・教育評価の方法を決定する

  • 各科目の中で、期待される学習成果を所定の学習時間内に確実に達成させるのは担当教員の責任であり、そのために最適の教授・学習方法を選択しなければならない。
  • 担当教員は、期待される学習成果が習得されたかどうかを、テスト・レポート・口頭発表・制作等の適切な方法で評価する。学習成果の習得を確認することができた場合にのみ、単位を認定する。

6) 学位プログラムを評価して改善する

  • 学位プログラムを通して期待されるコンピテンスが獲得されたかどうかを評価し、適切に改善する。
  • 学問分野や社会的ニーズの変化に対応して、適切に更新する。

アウトカム評価の課題について

 チューニングでは、各科目の中で学生に対して、具体的にどのような学習成果の習得を期待し、どの程度習得すれば単位認定の対象とするかは、 科目を担当する教員の裁量に任されています。
  それは、学位プログラムの設計とシラバスの承認が「カリキュラム委員会」等の責任のもとに実施されており、単位認定試験問題の妥当性が 「試験委員会」等において確認されていることを前提としています。さらに、教育に係る大学教員のエキスパート・ジャッジメントに対する信頼の上に成り立っています。
  しかしながら、コンピテンスを学習成果に具体化し、適切な範囲と水準を同定する作業は、 それぞれの大学教員が独立して行えるものではありません。大学教員間の対話を通して、共通理解を形成する必要があります。 さらに、各大学教員が、その共通理解を多様な場面に柔軟に援用できるような専門性を獲得していくことが求められます。 チューニングが目指す大学教育の「等価性」は、大学教員のエキスパート・ジャッジメントが確立していることを前提としています。
 したがって、チューニングの課題は、大学教員のエキスパート・ジャッジメントを鍛える仕組みを体系的に整備することといえるでしょう。

§§§

 大学教員のエキスパート・ジャッジメントを鍛える先駆的事例は、既に幾つか出現してきています。例えば、 全米大学カレッジ協会における汎用的技能に関する共通ルーブリック( AAC&U VALUE Rubrics )、全米学習成果アセスメント協会による課題ライブラリ( NILOA Assignment Library )等が挙げられます。国際チューニング・アカデミーでも、コース・デザインとアセスメントに関するオンライン教材の開発が手掛けられています。
 国立教育政策研究所では、 OECD-AHELO の経験に基づき、平成26年度より機械工学分野における「 テスト問題バンク 」構築に取り組んでいます。この取組では、大学教員が共同でテスト問題を作成するとともに、作成したテスト問題をより広く共有するプラットフォームを提供することを通して、 コンピテンスと学習成果に関する対話を喚起し、共通理解を形成していくことを目指しています。

 

 

 


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