「突発性攻撃的行動及び衝動」を示す子どもの発達過程に関する研究
(「キレる」子どもの成育歴に関する研究)概要
 
1.研究目的
 ここ数年、家庭や学校で『突発性攻撃的行動及び衝動』いわゆる「キレる」行動を示す子どもが見られるようになり、社会問題化してきた。「キレる」子どもに関する調査研究は、これまでも少なからず行われてきたが、それらは、少数の事例分析や児童・生徒を対象とした「キレた」ことの経験やその意識についての質問紙調査が主たるものであった。そこで、本調査研究では、はじめて、広く収集した「キレた」子どもの事例に基づき、その子どもの成育歴、及び主に家庭での親の養育態度に焦点を当てた分析を行ったものである。
 
2.研究期間 平成12〜13年度(2年間)
 
3.研究方法・経過等
 調査は、文部省(現文部科学省)からの委嘱に基づき、国立教育政策研究所と国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)の共同研究として実施され、研究会メンバーには、前記機関の他厚生労働省、法務省、警察庁の関係機関からの参画が得られた。
 具体的な調査方法は、事例調査票(報告書P.5〜参照)により事例収集を行い、研究会でその分析を行った。
 事例調査票は、警察庁、法務省、厚生労働省、全国養護教諭連絡協議会、全国家庭相談員連絡協議会及び全国臨床心理士会を通じ、関係機関等に調査票を配布したほか、東京都及び横浜市の生徒指導担当教諭の協力により、東京都、横浜市の学校にも配布した。また、日本PTA全国協議会の協力により、「キレた」子供を持つあるいは持っていた保護者からの電話による聞き取り調査を実施した。
 調査票の配布・収集は、平成13年2月から8月末までで、807事例が収集されたが、このうち、654事例を「キレた」事例の分析対象とした。
 
(注)ここで「キレた」子どもは、以下の基準で判断した。
 @「キレた」ことによる行動(暴力行為)が常識的な判断として了解されているものか否か。
 A「キレた」ことによる行動(暴力行為)に、情動を制御する力が認められるか否か。
  上記のいずれか一方の規準で「キレた」と判断された事例を分析対象としたが、多くの事例は@とAの両方の規準で「キレた」と判断された。
  なお、「キレた」行動の背景に、たとえばADHD(注意欠陥/多動性障害(以下、「ADHD」と略記))、精神障害/情緒障害等が考えられる事例、事例調査票の記載事項が少なく、状況が把握できない事例については、分析対象外とした。
 
4.研究結果の概要
(1)「キレた」子どもの性格的傾向の分類(報告書P.9〜)
  「キレた」子どもの性格的傾向を分類すると、(1)耐性が欠けていることが認められる性格的傾向(「耐性欠如型」)、(2)攻撃性が認められる性格的傾向(「攻撃型」)及び(3)不満を抱え込んでいることが認められる性格的傾向(「不満型」)に分類できる。
@ 「キレた」子どもの性別は、男子が87.8%、女子が12.2%で「キレた子ども」は圧倒的に男子の方が多い。
A 性格的傾向の分類の中でで、最も事例の多かったのは「耐性欠如型(70.3%)」で少なかったのは「不満型(30.1%)」であった。なお、「耐性欠如型」と「攻撃型」、「耐性欠如型」と「不満型」の双方に分類される事例はあるが、「攻撃型」と「不満型」の双方に分類されるものはない。
B 「耐性欠如型」と「攻撃型」は男子に多い傾向が見られ、「不満型」は女子にやや多い傾向が見られた。
 
(2)「キレた」子どもの成育歴に関連する要因の分類(報告書P.11〜)
 「キレた」子どもの成育歴に関連すると考えられる要因は「家庭要因」と「学校要因」に分類できる。

A.家庭要因の分類
 家庭要因としては、1)家庭内での暴力・体罰、及び2)家庭の不適切な養育環境・養育態度に分類され、2)については、@家庭内の暴力的雰囲気、A家庭内での緊張状態、B不適切な養育態度、及びC問題行動(非行等)への家庭の適切な対処の欠如、に細分類される。

B.学校要因の分類
 学校要因としては、1)友人からのいじめ、2)教師の不適切な対応、3)学業面の問題、4)友人関係の問題、及び5)問題行動(非行等)に分類される。
 
(注)以下に示す要因の比率は、あくまでも「キレた」子どもからみた「キレた」要因を示すものであって、「キレやすさ」を示すものでないことに注意する必要がある。
 
@ 「キレた」子どもの成育歴に関連する要因として、最も多く指摘されるのは、「家庭での不適切な養育態度(75.8%)」、「家庭内での緊張状態(63.8%)」である。
A 「家庭内の不適切な養育態度」としては、「過度の統制(18.8%)」「過保護(甘やかし)(13.6%)」「過干渉(11.3%)」「過度の要求(10.9%)」及びこれらと対峙すると思われる「放任(14.8%)」「言いなり(9.5%)」という両極にある養育態度が「キレた」ことの要因となっていると推察される。
B 家庭内で子どもに心理的な緊張感や不安感をもたらす「家庭内の緊張状態」としては、両親の「離婚(24.5%)」やそれと関連した事項として「夫婦不仲(12.5%)」、「貧困(11.5%)」、「再婚(7.8%)」が認められた。これらの事項は、子どもに心理的な不安や緊張状態を引き起こし、子どもを「イライラ」させ、両親に反抗的な態度を形成することに、少なからず関与しているものと思われる。そして、これらのことは、「キレる」ことに直接的というよりも、むしろ間接的な影響を与えているのではないかと推察される。
C 「父不在(14.5%)」「母不在(9.2%)」も要因として指摘できるが、これは、両親が不在がちであることにより、子どもに対する養育態度として「過保護」「放任」につながるのではないかと考えられる。
D 「キレた」子どもの4分の1前後は「問題行動(非行等)(27.4%)」を起こしたり、「家庭内で暴力・体罰(24.0%)」を受けたり、「友人関係の問題(23.9%)」があったことが指摘できる。
E 子どもの「問題行動(非行等)(27.4%)」に対して、「家庭の適切な対処が欠如」していることが認められた(「問題行動(非行等)」が認められた事例の73.0%)。「問題行動(非行等)」に対して、養育者が毅然とした態度対応をとることの必要性が指摘される。
 
(3)「キレる」過程のモデル化(報告書P.31〜)
 事例調査票の結果を分類して得られたデータに基づく「キレる」行為に至るまでの過程を図式化したものが次ページ図である。
 このモデルでは、「キレる」状況に至までを「家庭要因」「学校要因」及び「情動コントロール要因(本人の性格傾向・行動特徴)」の軸により図式化したものである。
 
図 「キレる」過程のモデル化
 この図式に基づき、各学校段階別の「家庭状況」の特徴を見ると次の通りである(「キレる」状況の出現は男子児童生徒に多いことから、ここでは、男子のみについて述べる。)。
1)男子小学生の場合
 男子小学生の場合「攻撃型」「攻撃+耐性欠如型」については、家庭内における暴力・体罰の存在が大きく影響しているのに対し、「耐性欠如型」「不満+耐性欠如型」については、しつけ上の問題を抱えた家庭での出現率が高い。児童虐待の例などでは、自ら子供時代に暴力を受けた親が再び我が子に暴力をふるうという場合があることが指摘されているが、「キレる」子どもについても、少なくとも単純な暴力連鎖が起きやすいことが伺える。
2)男子中学生の場合
 中学生については、「攻撃型」と家庭内での暴力・体罰の関連は小学生とほぼ同じ傾向であるが、「耐性欠如型」に関しては、明確な傾向性がない。これに対し、「不満型」「不満+耐性欠如型」について、しつけ上のみに問題がある家庭でやや増える傾向にある。これは、中学生になると自意識に目覚め、また、学業成績が強調されることから、「劣等感」がらみのタイプが相対的に増えること、単なる暴力の連鎖という幼稚な反応ではなく、ストレスのはけ口として「キレる」といった事例が増えてきたものと考えられる。
3)男子高校生の場合
 高校生の場合は、小・中学生と異なり、「暴力・体罰」が「攻撃型」に結びつく事例が減少する。これは、暴力・体罰を体験したのが過去のことであり、現在まで引き続いている事例は少ないためと考えられる。他方、「劣等感」に起因すると思われる「不満型」「不満+耐性欠如型」の割合は高く、「暴力・体罰群」ほど強い。これは、直接的な暴力はなくなっても、親が威圧的な態度で接する状況が引き続くためと考えられる。
 
 以上のことから、「キレる」子どもの発生においては、家庭の状況は否定しがたい影響力を持っており、それに比較し、学校等の影響は相対的に小さいことがわかる
 
(4)事例類型
 P.41 からは、類型別の事例紹介を行っている。
 
4.専門委員からの考察(P.85〜)
 第3章、第4章では、研究会に参加いただいた医学、矯正・保護分野の専門家の方々あるいは、事例を報告いただいた各分野の方々の考察・提言を取りまとめた。ここでは、上記事例分析では省略したADHD児等、医学的判断を必要とする事例に関する考察も含まれている。