単元3.「近代産業はどこでどのように営まれているか」

 

 要 旨

 産業時代の社会といいながらも「京にいなかあり」といわれているように,われわれの社会生活の諸部門には,近代的なものと非近代的なものとが共存している場合多いのが現実の姿である。したがってこの単元は,前単元の学習と深い関係を持っている。そしておもに近代的な生産技術をじゅうぶんに取り入れた社会の生産活動を中心とした諸事象が取り扱われる。

 農業・林業・水産業・牧畜業・鉱業などの第一次産業による生産物がさらに人間の利用価値を高めるために,加工・変形される過程が工業である。工業は現代社会では機械文明を形成する中核的な産業として諸産業の中でも産業主義の傾向を最もよく具現している。この産業主義の傾向は工業以外の産業にも取り入れられてきている。そこには生産技術が近代化されていない社会の生産活動において見られるよりも,人間と自然の相互関係は複雑なものとなり,人的要素が深く介入してくる。したがってこの単元の学習では,自然環境というよりも社会環境ということが強く前面に出てくる場合が多い。

 このような近代産業は世界各地においてどのような事情のもとに発生し,どんな発展過程をとってきただろうか,またこれに伴って人々の生活はどのようにその地域の環境諸条件と相互に関連し合って,どんな事象を展開してきただろうか。このようなことなどが,この単元の学習対象を構成している。

 生産技術が近代化しているか近代化していないかということは,世界各地の事象を通じて見れば,それ相応の理由があることである。そして近代化の事態そのものからも種々の社会的問題が発生している。このような世界各地のそれぞれ特色ある社会環境と,そこに生起してきた諸事象を認識することによって生産技術の近代化と人間生活の合理化に関する課題を解決していこうとする地理的態度が第2単元とこの単元を通じて一応形成されることが望ましい。

 最後に,わが国を経済的に再建するためには,近代産業の発達に必要な天然資源の種類や量その他の問題に関連して,どんなに困難な事情に直面しつつあるかを認識して,わが国の将来に対する安易な気持を一掃するように指導されなければならない。

 

 目 標

1.近代産業の発達が,世界の人々の生活に,大きな変化をもたらしたこと,およびその地理的条件との関係の理解。

2.現代のおもな近代工業地帯の分布に関する知識。

3.各近代工業地帯の発達の自然的,社会的背景の理解。

4.各近代工業地帯の特色に関する知識・理解。

5.天然資源の重要性や開発利用の条件および愛護の必要性の認識。

6.近代化の傾向を取り入れた世界の農牧業の分布と特色に関する知識・理解。

7.経済に関する基本的な地理的術語・用語についての知識・理解。

8.近代産業の発達に伴って生じた種々の社会的問題の解決に,人々と協力する態度。

9.わが国の近代産業の再建に対して,人文地理の立場から,生徒としてできる範囲で寄与する態度。

 

 内 容

1.近代産業は,どこで,どのようにして始まったか。

(1) 産業革命は,いつごろどのようにして起り,また伝わっていったか。

(2) わが国の近代産業はいつごろから,どのようにして始まったか。

(3) 近代産業の発達によって,われわれの生活はどのように豊かになったか。

2.近代工業に必要な天然資源は,どのように開発されているか。 (1) 石炭や石油の開発はどのように行われているか。

(2) 水力はどのように利用されているか。

(3) 鉄・銅・その他,近代工業に必要な鉱産資源は,どんな開発状態か。

(4) 林産資源は,近代工業に,どんな程度に役だっているか。

(5) 水産資源は,どのように開発されているか。

(6) 天然資源の愛護はどうして必要になってきたか。

3.近代工業地帯は,どのようにして発達してきたか。 (1) 世界の近代工業地帯は,どのように分布しているか。

(2) それぞれの工業地帯では,どんな工業が行われているか。

(3) 近代工業地帯の発達には,どんな条件が必要か。

(4) 近代工業の発達は,商業や貿易と,どんな関係があるか。

(5) わが国の近代工業地帯には,それぞれどんな特色があるか。

4.近代的農牧業は,どこでどのように営まれているか。またそこの農牧業はいつごろから,どのようにして近代化されてきたか。 (1) ヨーロッパや新大陸・オーストラリアでは農牧業はどのように営まれているか。そしてどのような点が近代化されているか。

(2) 寒帯・熱帯・乾燥地帯などの近代的開拓はどんな程度に行われているか。

(3) アジア季節風帯の農牧業の近代化は,どんな程度にまで進んでいるか。

5.近代工業の発達によって,人文地理に深い関係を持つどんな社会問題が生じてきたか。またわが国の近代産業の再建について,人文地理に関係のあるどのような問題に直面しているか。

 

 学習活動の例

1.産業革命ということは,いったいどんなことであるか。これまでに学習したことをもう一度整理して,何ゆえに産業革命がイギリスに最初に発生するのにつごうがよかったかを,箇条書きにまとめてみること。

2.イギリスに続いてフランス,それからドイツ,さらにアメリカ合衆国などと産業革命が広まって行った。その経緯を調べ,それぞれの国々における現れ方がその地理的環境とどんな関係にあるかを調べよ

3.わが国の産業革命はどういう形でどんな地方に盛大になってきたかを,歴史の書物によって具体的な例を中心として研究せよ。

4.わが国の繊維工業の発達過程を調べて,それが村の生活にどんな変化を与えたかについて考えてみること。

5.近くの工場を見学して,その工場では生産能率が過去の手工業の時代に比べてどのように高まってきたか,またその理由はどんな点にあるかについて調べてみよ。

6.燃料や動力の資源は歴史の時代によってどのように変化をしてきたか,また,石炭・石油・水力などの価値は科学の発達に伴ってどのように変ってきたかを,歴史の書物によって概観せよ。

7.世界のおもな炭田の分布・開発条件,さらに石炭の利用状態や,国際的需給関係について教科書その他によって調べよ。

8.わが国のおもな炭田について,炭質・産額・おもな鉱山町・配炭経路などについて調べ,できるだけ図で表現してみよ。さらにわが国の石炭事情について調べ,日本の再建について,どのような問題があるかを考えよ。

9.世界のおもな油田の分布,開発条件,さらに石油を中心として,これまでどんな国際問題が起ってきたか,国際的需給関係は,どうなっているかについて調べよ。

10.日本のおもな油田について,分布,地質構造との関係,産額などについて調べよ。さらに製油所の分布の特色とその理由についても考えてみよ。

11.目本の産油額と消費額は過去数十年の間にどのように変化してきたか,不足の分はどこから補ってきたか,今後の需給についてどのような問題があるかを調べよ。

12.世界および日本の水力資源の開発状態およびその理由について調べよ。

13.日本の水力発電所・火力発電所の分布,送電経路などを示した図によってこれらの現象を自然および人文上から説明を試みよ。また電力ききんの問題とか電源開発問題とかについて討議せよ。

14.世界における鉄・銅その他の重要な鉱産資源の分布,国際的需給関係などを図示せよ,さらにおもな鉱業地域の開発条件について討議せよ。また,わが国の鉄・銅の需給関係について,どのような問題があるかを考えよ。

15.わが国のおもな製鉄所と製銅所の位置について調べ,それが鉄鉱産地や銅鉱産地などの諸条件とどのように結びついているかについて考えよ。

16.世界および日本における森林の分布,開発状態,パルプ工業との関係を調べよ。特にわが国とカナダやアメリカ合衆国などの地方との木材・パルプの需給関係を明らかにせよ。

17.世界の漁場特に三大漁場の発達理由・特色・産額・漁獲法・漁業経営とかについて調べ,わが国の世界の水産業界における地位を明らかにせよ。

18.わが国のかつお漁業,まぐろ漁業を例にとり,近代化された漁業がどんなにわが国の近海で行われているかについて調べよ。

19.北海道の近海ではどのような近代的漁業が行われているか,またこの地方の漁業はわが国の漁業界においてどのような地位を占めてきたか,これらのことについて研究せよ。

20.南氷洋での捕鯨がどんなに大規模な近代的な方法で行われているかを,文献とか,映画や幻燈とかを使って理解し,また,実際の経験者がいたら,体験談を聞き,わが国の捕鯨業の将来について話し合え。

21.近代工業の発達は,各種の資源を急激に減少させて行くと思われるが,その対策として生徒としてできることとしてはどんなことが考えられるか。また貧鉱処理,代替物の発明,未利用資源の活用,資源の枯漏防止,増殖,その他について,わが国の特殊事情を考えて研究せよ。

22.合衆国のT・V・Aの開発について,先生より講議を聞き,わが国の只見川の開発計画のような例について,新聞や雑誌の記事から研究せよ。

23.世界のおもな国の産業別人口比率・工業生産額などから見て,工業の発達している国と発達していない国とを区別して,その理由を考えよ。

24.イギリスの工業地帯の詳しい分布図によって,工業地帯がそれぞれ特色ある地区に分れている事実を明らかにし,その理由や世界経済との結びつきについて考え,さらにおもな工業都市の名称・分布・特色などについても調べよ。

25.中部ヨーロッパ工業地帯における工業都市の分布図を作り,その特色,立地条件,ヨーロッパにおける重要性について調べよ。

26.スイスの工業の特色を調べ,わが国と比較して,小論文を作れ。

27.ソ連では,資源はどのように結合されて工業地帯が形成されているかを図示し,各工業地帯の特色や工業都市の分布について調べよ。またソ連のコンビナートや5か年計画について先生の講義を聞け。

28.アメリカ合衆国の工業地帯について,ニューイングランド地方,アパラチア山脈東部地方,五大湖沿岸地方,その他の地方について比較せよ。またおもな工業都市の分布・名称・特色などを記憶せよ。さらに代表的工業都市の写真を集めて展覧せよ。

29.アジアにはどの地方にどのような近代工業が起り,どんな工業都市が生れているか。またこれらの地方の工業の将来性やわが国との関係を考えよ。

30.わが国の工業地帯の分布図を作り,それぞれの特色を調べて相互に比較してみよ。

31.たとえば九州の工業地帯における原料の入手経路,製品の販路はどのようになっているか。また富士山のふもとに発達した富士製紙や苫小牧(とまこまい)の製紙工場ではその原料をどこから入手しているか。さらにまた,福井地方の織物工業における原料の入手経路,製品の販路はどうなっているか。このような事項を調べた上で工業立地条件ということについて討議せよ。

32.わが国の工業は世界の国々に比べてどのような特色を持っているか。またわが国の産業上において工業はどんな地位を占めてきたか,さらに将来どのような進み方が考えられているかについて調べ,討議せよ。

33.オランダ・ドイツ・スイスなどにおいては不利な条件を克服して,どのように農業経営が近代化されてきたかについて分団で調べて報告せよ。

34.ソ連の農業改革の歴史を調べ,コルホーズやソフォーズにおける農民の生活について報告せよ。

35.フランスとイギリスにおける農業経営について調ベ,両者の特色を比較してみよ。

36.世界の地中海性気候地域ではどのような果樹栽培農業が行われているか,それぞれの地域の写真を集めて,それらの特色について討議せよ。

37.アメリカ合衆国の大陸横断鉄道で,大西洋岸から太平洋岸まで旅行したときの農業景観の変化について,文献を読んだり,写真を見た上で想像しながら書け。

38.ブラジルのコーヒー栽培の実情とその製品の販路が世界的であることをいろいろな資料から調べよ。特に日本人のブラジル移民の生活についても注意せよ。

39.アルゼンチンの農業や牧畜が自然環境をどのように利用して,豊富な生産をあげているか,その理由について調べ,その生産品がどんな国々に輸出されているかをも調べてみよ。

40.オーストラリアの農業や牧畜が降雨量とどんな関係にあるかを,小麦や牛や羊の生産分布図と雨量分布図とを比べることによって理解せよ。そして,乾燥に過ぎた地方では,堀抜き井戸という近代的技術によるなど,不利な条件を人間の力によって克服している点に注目せよ。また,それらがどんな国々に輸出されているかを調べよ。

41.カルフォルニアや,インドのパンジャブ地方のような乾燥地域では,かんがい農業がどのように行われているかについて調べよ。

42.たとえばオランダ政府によるジャワの農業開拓,マライ半島におけるイギリスのゴム栽培,キューバの砂糖など,熱帯の農業がどのように開拓されてきたかについて調べよ。

43.寒帯・亜熱帯においては,不利な自然的条件を克服して,どのように農業が経営されているか。たとえばソ連の寒地農業に例をとって研究せよ。

44.都市近郊ではどのような農業が営まれているかについて,その実態をできるだけ野外調査によってとらえること。特に多角経営とか園芸農業に注目せよ。また,都市より遠く離れていて都市を対象とした輸送園芸の地域について,その栽培作物・出荷状況などについて調べよ。

45.北海道の農業はわが国のその他の地方の農業に比べて,どんな特色があるか。その特色はどのような理由によるかについて調べよ。

46.たとえば岡山県の興除村,愛知県の安城付近などでは,農業の近代化のためにどのような努力がなされてきたかについて調べ,郷土の村の農業経営について批判せよ。

47.アジア季節風帯の農業は世界の他の地域の農業に比べて,どのような特色があるか。この特色はどんな点に原因しているか。さらに改良すべき点はどんな点かについて討議せよ。

48.わが国の農業のやりかたを近代化し,農業生産を高めるために,どのような対策が考えられているかを専門家にたずねて,その結果を学級に報告せよ。

49.わが国の明治初年より現在までの人口増加をグラフに書き,それと工業の発達との関係を考えよ。

50.わが国では,どの地方に都市の増加が著しく,また都市人口の膨長率が大きいかを,統計により地図化し,その原因を工業発達という点から考えよ。

51.わが国の近代工業の発達によって,人口・食料・住宅・交通・衛生・社会道徳などに関して,どのような問題が論ぜられているかを調べよ。

52.工場地帯を実地調査した上で,すでに調べた問題に関連して気づいた点を記録して,それをみんなに報告すること。そしてその改善に協力できる点について話し合うこと。

53.わが国の近代工業の再建および発展に関して,人文地理の立場から,解決に迫られているどんな問題があるか,これに対して,生徒として,どのように協力できるかを討議せよ。

 

 評価の例

1.学習指導要領第T巻第26〜28ページの「各単元に共通した評価法」を参照すること。

2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。

3.次のような技能・能力が養われたか。 4.次のような態度が養われたか。