単元2「生産技術が近代化されていない地域では,どのような生産活動が営まれているか」

 

 要 旨

 産業革命によって近代産業は発達し,社会は進展した。世界各地の人々はそれぞれ特定の自然環境の中にあって,生産活動に従事しながら,それぞれ特色のある生活を営んでいる。

 狩猟・漁業・遊牧・林業・農業の諸部門において,丗界にはおおざっぱにいえば,産業革命以前の生産技術におもに依存していて,未開社会といわれるものがある。また,このような社会と近代文明の生産技術がじゅうぶんに取り入れられた社会との中間に位するものもある。これらの社会の住民の生産活動を中心として,その生産様式と自然との関係や社会生活の特色というようなことが,この単元のおもな学習対象をなしている。

 近代文明の影響をあまり受けていない世界の諸地域の人間活動に現れた諸事象には,人間と自然との関係が単純な姿で展開されている場合が多い。したがって第1単元の学習によって自然環境の諸事項について基本的な理解を得た生徒に対して,人間と自然との関係を理解するのに,比較的容易な資料を提供することができる。

 ある社会において,その生産技術が近代化されているか近代化されていないかということを定めることはむずかしい。それは「近代化」ということば自体にも各人異なった見解がある上に,それぞれ特色のある個々の地域における人々の生活の合理化とか,進歩ということと考え合わせてみると,いっそうむずかしくなってくるからである。

 しかし,このような問題が,この単元の学習では解決されることをねらってはいないし,このような問題の抽象的論議で多くの時間を空費しないようにしたほうがよい。なお学習は通論的でなく,地誌的方面を主体とし,これを基礎として原理・原則を見いだすように指導されなければならない。したがって指導にあたっては,必要な地域名や地名などの知識も軽視されないように注意することが必要である。

 

 目 標

1.現代の世界では,地域によって,生産技術の発達程度が違うことの理解。

2.生産技術が幼稚な地域の分布に関する知識。

3.これらの地域では,住民の生活は自然環境から一般に多くの制限を受けていることの理解。

4.自然経済に関する基本的な地理的術語・用語についての知識・理解。

5.これらの地域において,生産技術の進歩を妨げている種々な条件についての知識と理解。

6.生産技術が幼稚なことも,これらの地域の住民集団の生れつきの劣等性に由来するものではないことの理解とこれらの住民に対する正しい態度。

7.未開社会が,近代文明に接触したときに生ずる種々社会的現象に関する理解。

8.自分と違った生活様式を取り入れるに際しての,正しい批判的態度。

9.種々の科学的旅行記・探検記などを読む関心,およびこれらの内容を正しく解釈する能力。

 

 内 容

1.わが国では,種々な物資の生産技術の上で,たとえばどんな点がまだ近代化されていないであろうか。

2.原始的な狩猟生活や漁業生活は,どこでどのように営まれているか。

(1) ツンドラやタイガでは,どんな狩猟や漁業生活が営まれているか。

(2) 熱帯雨林やサヴァナの原住民の狩猟や漁業生活には,どんな特色があるか。

(3) 原始的な狩猟生活や漁業生活は,近代文明との接触によって,どのように変りつつあるか。

3.遊牧地域では,どんな生活が営まれているか。

(1) 遊牧地域はどのように分布し,その地域の自然はどんな特色を持っているか。

(2) アジアやアフリカの乾燥地域の遊牧民は,どんな生活を営んでいるか。

(3) ツンドラの遊牧民の生活には,どんな特色があるか。

(4) アメリカ大陸やオーストラリア大陸の草原では,なぜ遊牧生活がほとんど営まれていないか。

(5) 遊牧民は歴史的に,どんな役割を果たしてきたか,また現在は,どんな役割を果たしているか。

(6) 遊牧民の生活は,どのように変りつつあるか。

4.原始的農業は,今日,まだどんなところに残され,そこではどんな生活が営まれているか。

5.アジア季節風帯の農業はどのように営まれており,どんな特色があるが。

(1) アジア季節風帯の自然にはどんな特色があり,住民の衣食住の様式と,どんな関係を持っているか。

(2) アジア季節風帯の農業のやり方には,どんな特色があるか。

(3) アジア季節風帯の農業生産技術を近代化するために,どんな努力がなされているか。

(4) わが国の農業を発達させるために,どんな努力がなされなければならないか。

 

 学習活動の例

1.わが国の農業・水産業・工業などの産業で,その生産技術がまだ近代化されていないと思う点や近代化されていると思う点を幾つかあげてみよ。

2.生産技術が近代化しているとか近代化していないとかいうことは,どんなことをいうのかについて討議し,この問題について今後どのように考え,かつ検討を進めていったらよいかという態度を決めよ。

3.世界で比較的に近代文明の恩恵に浴していない地域はどのように分布しているかについて調べてみよ。

4.エスキモー・ラップ・ヤクーツなどの種族の分布を地図上で示してみること,そしてその地域の自然環境について調べてみよ。

5.これらの種族の生活を示した写真やフィルムを鑑賞すること。

6.ツンドラ地域に住むエスキモー・ラップ・ヤクーツなどの衣食住や社会生活について書いてある本を読んで,その話を学級ですること,そしてそれらが自然環境とどのような関係があるかについて討議せよ。

7.ロシア人がシベリアのタイガ地域の毛皮獣を求めて,シベリアを開拓した歴史を調べよ。

8.エスキモー・ラップ・ヤクーツなどの未開の人々が文明人と接触して,どのような恩恵や不利益を受けつつあるかを調べて報告せよ。

9.上の例は,われわれが外国の文化を取り入れるに際しての態度に,どのようなことを教えてくれるかについて討議せよ。

10.熱帯雨林やサヴァナの原住民の生活の写真や絵葉書を集めたり,原住民の分布図を作成しかれらの生産活動について比較研究してみよ。

11.熱帯へ行ったことのある人から,熱帯の自然や原住民の日常生活の話を聞け。

12.熱帯雨林やサヴァナの自然環境が文化の発達に対して,どのような障害を与えているかについて討議せよ。

13.リヴィングストンやスタンレーのアフリカ探検や一生についての書物を読み,かれらによってアフリカのどのような点が明らかになったかを紹介したり,その人となりや功績について報告せよ。また旅行記などを書く場合には,どのような着眼で土地を観察するかについて考えたり,平常の旅行における紀行文を書いてこれを学級で読んで,みんなに批評してもらえ。

14.世界の非自治地域の人々の文化向上や後進地域の開発について国際連合はどのような仕事をしているかを調べよ。

15.遊牧民の生活を示す写真・絵・フィルムなどを集めて,学級で鑑賞し,種々な話し合いをせよ。

16.世界における遊牧地域の分布図によって,それが気候とどのような関係があるかを調べよ。

17.スヴェン=ヘディンやオーレル=スタインなどのアジア探検記を読み,特に印象の深かった点を紹介せよ。

18.マルコ=ポーロの旅行記の中には,ロプ砂漠についてどんなことが書いてあるかを読んで,その話を学級でせよ。

19.蒙古の遊牧民の衣食住や社会生活を調べ,自然環境との関係,その進歩を妨げている点などについて話し合え。

20.蒙古人が,かっては,どのように活躍した時代があったかを,歴史の本によって調べること。そして今はあまり振わない理由について討議せよ。

21.中央アジア・アラビヤ・アフリカなどにおける遊牧民の生活について書いてある本を読め。

22.オアシスの生活の特色をまとめて,表にしてみよ。

23.世界の遊牧民をツンドラ・ステップ・さばく別とか,平地・山地別とかに分類して,それぞれの遊牧民の生活の特色をまとめて表にしてみよ。

24.乾燥地帯を流れる河川の例として,ナイル川・タリム川その他をあげ,その性格にはそれぞれどんな特色があるかについて討議せよ。

25.現代の回教徒の分布図を調べること,そしてその生活の特色・風習やかれらが果たした歴史的役割や今日の国際上の地位について討議せよ。

26.蒙古人と漢民族との接触が歴史的にどのような役割を演じたか,また今日どのような問題が起きているかについて調べよ。

27.アジアやアフリカの内陸部では今日でも遊牧が行われているのに,新大陸やオーストラリアの草原では近代的牧畜が行われている理由について書物で調ベたり,学級で討議せよ。

28.内陸地域ではどのようにして灌漑(かんがい)が行われているか。アジア・アフリカ・アメリカ・オーストラリアなどの例について,それぞれの特色を調ベよ。またこれらの場合において自然はどのように利用されているかについて,話し合ってみよ。

29.乾燥地帯の有用地化に向かって,現在どのような努力がなされているか。具体例について調べて,その話を学級でせよ。

30.世界において,焼畑の行われている地域の分布図を見いだして,それがどのような自然条件の地帯に多いかを考えよ。

31.焼畑地帯の人々の生活には,どのような特色があるか,アフリカ・南部アジア・南アメリカなどの例を調べて,共通点を見いだすこと,そして,どうしてそのような生活が今日も営まれているかについて討議せよ。

32.アジア季節風帯の範囲を地図の上で示すこと,またこの地帯の自然の特色について書いてある本を読んで,それが郷土の実際とどのように合致しているか,違っている点があれば,それはなぜであるかを討議したり,先生から説明を聞け。

33.世界のおもな米作地の分布,単位面積からの収穫量,産米の移動などについて調べて,それぞれの特色を説明してみる,そして先生から誤っている点を正してもらえ。

34.華北の黄土地帯の分布図・写真を集めて,その生活の特色について話し合え。

35.中国における農業区に関する地図を見て,それが気候とどのような関係があるかについて討議すること,また耕地と人口分布との関係,農民ひとりあたりの耕地面積,単位面積あたり収穫量,農地制度,農産物の商品化の状態などについても調べてみよ。

36.中国の自然と人間生活との関係について先生から話を聞くなり,あるいは本によって自分で読んでから,満州・華北・華南の自然環境,民族性,衣食住などについて,その特色を比較する表を作れ。

37.パール=バックの「大地」や,オーエン=ラティモアの「中国」を読んで,中国人と土地との結びつき,天災・農民生活・近代化が遅れている点とか,国民性などについて整理して学級で話をせよ。

38.インドシナ半島やフィリピンの地理について書いてある本を読むこと,さらに主要農産物の統計表や分布図を調べて自然との関係について討議せよ。

39.フランス領インドシナ・タイ・ビルマの農村における華僑(かきょう)やインド人の役割を調べ,農民の生活との関係について報告せよ。

40.インドの地理について書いてある本を読むこと,またインドにおける農産物の分布図を見て,自然との関係を討議せよ。

41.インドの農業がまだ進歩していない点,その進歩を妨げている原因について討議せよ。

42.近世になり,インドの産業や社会がどのような変化を受けつつあるかについて調べ,それが住民の生活とどのような関係があるかについて報告せよ。

43.南部アジアの農民の日常生活は宗教とどのように結びついているかを,本によって調べること,そしてその長所や短所,およびわれわれの日常生活と宗教との関係は現在のままでよいのかどうかについて討議せよ。

44.アジアでは古くから文明が起ったにもかかわらず,近代文明の遅れた原因について討議せよ。

45.わが国の農業について,次のことを学習すること。

(1) 都道府県別水田率分布図や,また裏作率の表によって,それらと自然との関係について討議すること。

(2) 明治以降のわが国の耕地面積・水田面積・収穫率の変化の表を作り,それらをグラフに示し,またその意味を説明すること。

(3) わが国の農業は,明治以降どのような点において改良の成果をあげてきたか。

(4) わが国の農業のやりかたについて,まだ近代化していない点として,どんなことが指摘されているか。

 

 評価の例

1.学習指導要領第T巻第26〜28ページの「各単元に共通した評価法」を参照すること。

2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。またそれをいっそう有効に利用することができるようになったか。

(1) 術語・用語の例

 焼畑・遊牧・包(パオ)・オアシス農業・集約的農業・粗放的農業・大農経営・小農経営・零細農・連作・二毛作・多毛作・二期作・裏作・治水・ツンドラ・タイガ・ステップ・熱帯雨林・サヴァナ・さばく(砂漠)・耕地率・水田率・畑地率・単位面積あたり収穫量,単位労働量あたり生産力・単作地帯・動力配分・毛皮獣・寒地農業・採集経済・りゃく奪農業・乾燥農業・休閑地・階段耕作・扇状地・河岸段丘・沖積平野・三角州・アジア季節風帯・アジア式生産様式・クリーク・南船北馬・華僑。

(2) 原則・事実・特色などの例

3.次のような能力・技能が養われたか。

4.次のような態度が養われたか。