第V章 社会科の指導と評価

 

 社会科の指導法には一定の型があるわけではない。指導に固定した型を作ることは避けなければならない。教師は,生徒が単元の目標をよく達成できるように,場合場合に応じて,最も効果が上がると思われる種々な方法によって,弾力性のある指導をすべきである。とはいえ,単元による指導にはだいたいの順序が考えられる。以下これについて述てみよう。

 指 導 の 準 備

 この学習指導要領に示されている諸単元は,各学年のものを通じて示唆的なものであるから,このとおりに実施しなければならないわけではない。教師はこれを基礎にして,自分が教える生徒に対して,最も有意義であり,また教育効果が上がるように修正するがよい。それにつけても,教師は各単元の要旨・目標・内容・学習活動の例・評価等の項をよく読んで,これらの大要を理解しこれに基いて自分の指導計画を立てなければならない。この場合,本書の第X章「社会科の指導計画および指導法の地方への適応」には,参考になる部分が含まれているであろう。

 自分自身の指導計画の粗案ができたならば,教師は単元の提出に際しての材料をはじめ,学習に関係のある教材を広くさがさなければならない。たとえば,教師は次の質問に対する解答をみずから発見することは,教材をさがす上の助けになるであろう。

さらに教師は,自分自身の能力についても反省する必要がある。すなわち  学習は生徒のためになされるものであることを考えて,教師がよく知っていることをおもにして指導計画を立てたり,よく知らなかったり,指導の能力が足りないからといって,その単元の中に当然含まれなければならない重要な事がらを除いたりするようなことがあってはならない。

 単 元 の 提 出

 単元の指導にあたって常に留意すべき原則は,生徒が関心をもたなければ,有意義な学習経験にはならないということである。すなわち各単元は,自分たちの学習すべき問題であると考え,進んで熱心にその学習に従事するように指導しなければならない。そこで単元を提出するに際しても,たとえば,学習指導要領によれば,次には「近代工業はどのように発達し,われわれの日常生活にどんな変化を与えたか」を学習することになっているというようなことばで提示したら,おそらく成功は望めないであろう。

 単元を提出する効果的な方法には,いろいろと考えられる。その単元に関係のある身近かな問題,たとえば日用品の機械生産について討議するのも一つの方法であろう。あるいは近くの工場を見学して,近代工業の諸問題に関する関心を高める方法も考えられようし,郷土における昔の工業の話をしてやったり,近代工業に関する書物中の興味のある部分を読んでやることも,この単元への導入に役だつであろう。また新聞の切抜きや視覚教育なども場合によっては有効に用いられよう。

 このような配慮は,中学校生徒には必要であるが,高等学校生徒には無用であるように考えることは誤りである。もちろん中学校低学年生徒に有効な方法が,そのまま高等学校生徒にも適当であるとはいえない。しかし自我意識が発達した高等学校生徒であればこそ,教師から与えられた問題であるというような気持では,ますます学習の効果は期待できないであろう。したがって高等学校の社会科においても,単元の提出にあたっては,生徒の関心に訴えるようないっそうの努力が必要である。

 このようにして学習の興味を引き起すことができたならば,次に学習する問題を定めなければならない。生徒が取り組むべき問題をはっきりつかむことは非常に重要なことであり,問題をもたない学習は,ほとんど無意味に終るであろう。この学習指導要領に示してある問題(各単元の題目)は試案にすぎないが,これを参考にして教師は,生徒がこれから取り組む問題の示唆を与え,生徒自身の問題になるような適当な表現を考えるのがよい。

 問題(単元の題目)が一応をきまったならば,生徒がその学習に関して,どれだけの関心・理解等をもっているかを調べるために,予備テストを行うこともこれからの仕事の計画に役だつであろう。それはともあれ,次になすべき活動の一つは,目標と内容についての討議でなければならない。単元の目標によって内容も違ってくるから,まず目標をしっかり設定することがたいせつである。しかし目標と内容とは表裏の関係にあるから,この両者をはっきり切離して討議することは困難である。特に生徒には,目標と内容の区別すらつけにくいことも多いであろう。元来,実際に学習する単元は,教師と生徒との協力によって作られなければならないのであるが,目標と内容の設定の段階までは,教師は相当に強い指導力を働かせてこれを組織立てていくことが必要である。そして目標も学習によって達成される見込みのあるものをできるだけ具体的に上げ,内容の配列は,抽象的な概念や定義から出発しないで,生徒の身近な経験から出発し,しだいに概念や原則に導くように配慮するのがよい。また,その結果を黒板に書いて,学習の目標および内容の全体を生徒にしっかりつかませることが必要である。

 とはいえ,このようにしてできた目標や内容を,最後的なものと考えてはならない。その単元の学習の間に,さらに別な目標や内容をつけ加えたいと思うようになるかも知れない。その反対に削除したいと思うものが出てくるかも知れない。そして,このような場合を通じて,常に単元の改善が行われなければならないわけである。

 いずれにしても,このようにして取り組むべき問題を定め,目標に従って問題を分析し,さらに次に述べるように,これらを解決するためにいろいろな資料を集めたり,解釈したり,結論をうるような種々な活動は,生徒にとって重要な経験であり,有能な社会人として,だれでも身につけておかなければならない過程である。

 しかし,このような活動にはいる前に,あらかじめその単元の学習期間を定めておかなければならない。この学習指導要領には,中学校・高等学校を通じて,各学年に4―6単元が示唆されているが,各単元の学習期間を同一にすることを期待しているわけではない。これらを参考にして各学校で計画された単元でも,生徒の必要や関心に応じて,その学習期間には弾力性が考えられてよいわけである。けれども,生徒の関心が強いからといって,いつまでも長く学習を続けたり,関心が乏しい故をもって,たいせつな事項の学習も除外してしまうことがないように注意が必要である。たとえ生徒の深い関心が続いていても,単元の目標が多く達成されたと認めたら終結するがよいし,むしろ関心が盛んなうちに終結するほうが教育的効果がある。また生徒があまり気乗りしない場合には,関心をわかせることが教師の重要な任務の一つであることを思い起さなければならない。そして一年間の指導計画が,円滑に運営されるように常に心がけることがたいせつある。

 計画の実行――種々な学習活動

 問題および学習目標が一応定まり,さらに問題の分析が終ると,生徒はこれらの事項と取り組んだ種々な学習活動を始める段階にはいる。そして,この種の活動が単元の学習中で最も長い期間を占める。ところで社会科の学習活動といえば,分団学習・面接・討議・報告などをおもに行いさえすればよいというように考えてはならない。もちろん,これらも社会科の学習の中に必要に応じて取り入れられなければならない重要な活動形式であるが,このような形式をなぜとらなければならないかを考えて指導しなければ,いたずらに形式に堕した学習に終ってしまうであろう。

 いま,われわれが何か社会科学上の研究問題に取り組んだと仮定しよう。問題および研究の目標を定めたら,次になすべき仕事は事実をよく知るために,資料を集めることでなければならない。これがためには文献をさがさなければならないであろうし,読書・観察・実地調査・面接・通信なども利用されるにちがいない。こうして集められた資料の価値を批判し,選択・整理してから,これをいろいろな方法で処理して客観的な解釈を下し,ある結論に到達する。そして,これまでに至る間には,討議もしばしば行われる。そしてこの結論も新しい資料の増加やその解釈のしかたによって,絶えず改善されなければならない。しかも,このような過程は,ひとり学問上の問題に関してばかりではなく,広く日常生活の人間関係の諸問題にも適用されているわけである。ところが,もしも社会科の指導がいつも教師の講義だけで行われているとしたら,こんなに現実社会における問題解決の活動とかけ離れたものはないわけである。だから上のような過程を,社会科の学習に取り入れることは非常に有意義であり,また有能な民主的社会人育成の上に有効であることは疑いない。

 けれども,このような過程の活動をはじめから年令の若い生徒自身に求めることは困難である。そこで計画の実行の段階にはいっても,教師の指導が依然として重要な役割をもつ。それに社会科として,その単元の学習を通して,達成を助けてやらなければならない知識・理解・態度・能力等に関する教育目標がいろいろある。このように考えるときには,教師の指導には親切な,細かい配慮が必要となってくる。

 有効な学習活動の種類には,いろいろなものが考えられよう。読書・読図・講義を聞く,報告・討議・造型その他のように教室内で行われる活動もあれば,資料や知識を得るために工場や社会施設などを訪問したり,専門家その他の人に面接するような校外活動もある。また個人個人でやるのがよいものもあろうし,分団活動をやったり,あるいは学級全体がいっしょになってこれに従事するほうが効果の上がる場合もあろう。しかし,これはどれも単元の目標の達成に密接につながっていなければならない。そして教師は常に活動の全体に系統を与え,雑然とした皮相的な経験や型にはまった活動にならないように,特に基本的知識や,理解・技能等を身につけることがおろそかにならないように親切に指導しなければならない。

 単元の終りに近づくと,これまで個人・分団・学級全体などでやってきた仕事を統一し,これを完成し,またその単元の重要な面をふりかえるために,しめくくりの活動を計画し,実施することは有意義である。この活動としては,作品の展覧会・報告会・劇・パネル討議やフォーラム,クイズその他の遊びなども有効であろう。

 学習活動が型にはまったものにならないように,単調でなく,しかも雑然としたものにならないように,そして教育効果が上がるように指導することは,なかなかむずかしいことである。この学習指導要領の各単元には種々な学習活動の例が示されているが,もとよりこのとおり実施されることを要求しているわけではない。しかし,これらは有効な活動を計画していく上に参考になるであろう。これらの活動にはいろいろな種類のものがあるが,これらの中で教室内で行われるものをまとめると,だいたい次のような活動の期間に分類されるであろう。

 評 価 の 意 味

 生徒を指導していくに際して,はたして生徒が知識・理解・態度・能力・技能などの点で,それぞれりっぱに成長しつつあるかどうかは,常に教師の心配の種であるにちがいない。もしも教師が期待しているような教育効果が上がっていないようであったら,早くその原因をつきとめて対策を立てなければならないし,また次の単元計画や指導法にも改善を加えなければならない。教育効果が思ったほど上がらないのは,単元の目標が適当でないからかもしれないし,単元の内容がむずかしすぎたり,反対にやさしすぎたり,排列や分量が適当でなかったりするためかもしれない。あるいは学習に際して生徒が利用できる資料の不足が原因をなしている場合もあろうし,それよりも教師の指導のしかた自身に欠点がある場合もあろう。このように考えるときには,教師は常に生徒の成長に注意していなければならない。

 ところで教師が注意を払うべき生徒の成長としては,知識・理解・態度・能力・技能等いろいろな面があるが,その中には生徒自身の反省がどの程度になされているかが含まれていなければならない。元来,社会科の授業にとって最もたいせつなことの一つは,前にも述べたように,生徒たちが自分たちの問題であると考えて,積極的に学習するように指導することである。したがって,生徒たち自身が常に自分たちの学習について反省しながら活動を進めていくようにならなければ,ほんとうの指導とはなっていないわけである。だから,これは自分の指導に対する教師自身の反省に最も基本的な材料を提出してくれるものである。

 このように考えるときには,いわゆる評価は過去のように,学期末や学年末に,生徒の記憶の量をはかることを主体とした試験の成績によって,生徒の席次を定めるやり方とは,はなはだ縁が遠いものである。また,ある単元が終了するに際して生徒の知識や理解の進歩を調べるだけでも,まだまだふじゅうぶんである。それは指導の過程の一部として,生徒の望ましい成長の度合を知り,またこれを促進するために,あらゆる機会をとらえて,教師側からも,あるいは教師と生徒との協力によって絶えず行われなければならないものである。

 評価の観点と方法

 今日の教育における評価の重要性については,これをいかに強調しても強調しすぎることはない。ことに社会科においては,評価についてよく考えられているか否かは,学習の効果に重大な関係をもつ,と同時に,社会科の評価には具体的にはいろいろむずかしい問題を含んでいる。すなわちそれはできるだけ客観的でなければならない上に,態度・能力等の評価の場合は,長時間にわたって絶えず注意を払っていなければならないし,その発達を数量的に表わすこともむずかしい。

 ところで社会科は,それが一般社会科でも,分化した社会科の場合でも,学習全体の立場からの評価に最も重要な観点を与えてくれるものは,社会科の一般目標である。しかし,これらはさらに各単元の目標としていっそう具体化されており,これを基礎として各単元が構成されているわけである。そして生徒が学習するのは,これらの単元であるから,結局各単元の指導にあたって,評価に深い考慮を払うことが実際的である。

 この学習指導要領の各単元の目標としては,知識・理解・態度・能力・技能等が含まれている。もちろんこれらは,前にも述べたように,完全なものではないが,これらは各単元の指導に際して,評価の観点を定める上に有力な示唆を与えるであろう。

 評価の目的は,これらの目標に向かって,生徒がどれだけ成長しつつあるか,または成長したか,あるいはいっそうよく成長させるために教師はどのような助力をなすべきかを知ることにあるから,その方法も単なるテストだけに頼っては決して達成されるものではない。テストももちろん重要であり,必要に応じて客観テストや論文テストもしばしば利用されなければならないが,その他討議・観察・面接・記録等もこれに劣らず重要な方法である。したがってこれらも随時,有効に用いられなければならない。

 各単元に共通した評価法

 評価の有効な方法には単元によって特殊性がある。一方,また社会科のどの単元にも利用できる共通な方法も存在するはずである。そこで,ここでは共通した評価法をあげ,各単元の評価の項には,その単元の特殊性に重点をおいたものを掲げることとする。

 しかし,評価法も型にはまった形式主義に陥ると,その効果は期待できない。そこで各教師は各単元の指導にあたって,この共通的方法と,各単元の特殊性が生かされているものの両者を参考にして,弾力性に富む評価法を効果的に行うことが望ましい。