第4節 創作の学習指導

 

(T) 創作の学習指導の要点

 創作は,歌唱・演奏・鑑賞の諸活動に比べて最も主観的な活動である。すなわち,歌唱・演奏・鑑賞は,提示された楽曲によって自己表現にある程度の制約をうけるのであるが,創作では純粋に自分の感情・思想を自由な立場で表現できる。したがって,創作は創造活動そのものである。しかし,自分の感情や思想を自由に,しかも,最大限に表現するためには,表現に必要な基礎的な知識や技術を,学習を通して身につけなければならない。

 それには,次のようなものがある。

 1 音楽理論との関連(第5節“音楽理論と音楽史の学習指導”参照)

 音楽理論は,単なる知識として学習するのでなく,これを身につけるために創作の実習に結びつけていくならば,問題は具体的になり,しかも,その知識は技術の裏づけとして生きてくる。

 2 他の作品の模作

 創作の基礎的な段階としては模作をすることがたいせつである。それは,絵画において,模写が表現技術の基礎となっているように,模作は創作技術の修得を助成し,さらに鑑賞力を高めるからである。

 3 作品の分析研究

 多くの作品をリズム・旋律・和声・楽式などの諸点から分折してみて,それがどのような要素によって構成せられ楽曲を特徴づけているかを知る。このことは逆に創作をまとめあげる力をつける上に役だつ技術となる。この方法は単に譜面上においてのみ行うのでなく,実際の演奏やレコードなどを聞きながら進めていくことが必要である。

 4 作品の個性尊重

 理論的には禁止された法則も,自由作曲の場合には許されることが多い。したがって,生徒自身の手によってまとめあげられた作品に対しては,教師は作品の個性を重んじる意味で,大きな誤りを見いださないかぎり手を加えないほうがよい。これは生徒のもつよい面を伸長させる上にきわめてたいせつなことである。

 5 発表の機会

 まとめあげた作品を,ただちに音にかえして演奏することは,指導上たいせつなことであるが,さらに,発表演奏会を開いて,多くの生徒の批判をうる機会を持たせたい。これは,創作意欲を刺激する上によい効果がある。

 

(U) 創作の学習指導計画上の諸問題

 1 時間割

 創作の指導は音楽理論と深い関連をもっているのであるから,この両者を含めて毎週15分〜30分くらいが適当であろう。

 なお,基礎的段階を経て自由作曲をする段階に至るならば,正規の時間は,その作品に対する教師の助言と指導のためにあてられることになるだろう。

 2 高等学校における単位の付与

 創作は,音楽理論と合わせて1/4単位を与えるのが適当だろう。

 3 教師の資格

 創作の教師は,既述の一般教養のほかに,さらに次のような知識・技能・理解その他が必要であろう。

 

(V) 創作の学習指導

 創作の指導にあたっては,音楽理論と結びつけ,音楽理論の実習として旋律の作り方・リズムの統一・和声づけ・転調の方法・形式の構成などに習熟する。これと平行して基礎的学習によって得た知識を,生徒の自由な創作活動に応用して自由作曲をする。教師はこれに対して適当な指導と助言を与える。

 T 創作の基礎的学習の指導

 旋律は,音の高低と同時に拍子・調子・速さ・リズム・ダイナミックを伴うものである。したがって旋律を作る場合には,これらのことを考慮に入れる必要がある。

A 旋律の作り方

 1 旋律の構成について,次のようなことを理解し実習を試みる。

2 主題を示して,リズム・拍子・音程を変化する実習を試みる。

 主題

〔注〕 上例の4)においては,経過音・補助音について事前に説明するとよい。

3 簡単な旋律の変奏曲を作る。

 1および2において経験した旋律の作り方と変化の方法によって,簡単な旋律の変奏曲を自由に作ってみる。

B 旋律への和声づけ

 1 旋律に和声をつけるための基礎的学習には,次のような方法がある。

 2 和声づけのいろいろな方法  3 和音をいろいろな形の伴奏型にする方法 C 唱歌形式の理解と作曲

 1 一部形式

 2 二部形式

 3 三部形式

D 対位法の理解と作り方

 対位法の中の最も実際的な二声の1対1,1対2,1対3,1対4を理解して,その使用法に慣れる。

 1 定旋律(Cantus firmus,略してC.f)と対位(Counterpoint,略してC.p)の関係を理解する。

 2 対位法における一般的法則を理解する。

 たとえば

 3 1対1  4 1対2  5 1対3  6 1対4  7 混合 U 自由創作の学習指導

 基礎的学習と平行して,その理解を確実にするために既習の唱歌形式に基づいて自由作曲を行うのであるが,この自由作曲では,自己表現の力をさらによりいっそう進めるために役だつ。基礎形式による自由作曲では,次のようなものがあげられる。

 1 唱歌形式による歌曲を作る。

 生徒自身の手によって作られた詩,教師,あるいは詩人によって作られた詩に対して曲をつけるのである。歌曲を作る場合には,詩の情緒を楽曲の中に盛ることは当然であるが,さらに,詩のフレーズ・抑揚・アクセントなどに対する考慮が,音楽のもつ楽句・旋律の抑揚・アクセントづけなどによりいっそうの深い注意と理解を深めるゆえんともなるからである。

 したがって,歌曲を作るには,次にあげるような注意事項が必要である。

 歌曲では,独唱曲とコラールおよび合唱曲について経験をもつことがよい。なぜならば,独唱曲では旋律を作る上によい経験を得るだろうし,コラールと合唱曲は和声や対位法の扱い方を経験するのに最もよい場であるからである。

 2 唱歌形式による器学曲を作る。

 器楽曲では,歌曲において発揮し得ない多くの点がある。たとえば,速い楽句とか,広い音域にわたる旋律の自由な駆使などが広範囲に許される。また,音色の点からみても人声よりははるかに変化に富み,ダイナミックも豊かである。したがって,器楽の作曲は表現力をさらに拡大するためにぜひ必要なことである。

 器楽曲を作る上に必要な注意事項には,次のようなものがあろう。

 3 その他の諸形式について楽曲を作る。

 基礎形式である唱歌形式について,じゅうぶんな経験を得たならば,音楽理論の楽式編において学習した他の形式によって楽曲を作る。すなわち複合三部形式・ロンド形式・カノン・組曲・変奏曲・幻想曲などは皆この中に含まれるのであるが,これらについては,生徒それぞれの能力に応じて行うべきであり,その程度は教師の判断に委せられているものである。いかなる形式でも,必ず前もってじゅうぶんな分析研究が行われて後に実際にはいるべきである。応用形式に使われる手法はすべて基礎的学習指導がその根本となるのであるが,さらに,研究事項を付け加えうるならば,次のようなことがあげられよう。

 4 編曲をする。

 編曲は純粋な創作ではない。しかし,この経験は創作上役だつ多くの点をもっている。すなわち,次のようなものがある。

 編曲の基礎的学習指導には,次のような事がらが必要である。  以上の基礎的理解は,実習のうちで行われていくのであるが,さらに次のことを考慮に入れることがたいせつである。 V 創作の応用活動

 創作学習は,音楽理論・音楽史・鑑賞などの活動と深い関連のもとに行われるのは当然であるが,さらに生徒は,いずれかの楽器を選択して,演奏グループの活動に参加することがたいせつである。それは単に楽器の演奏法を習得するという目的ばかりでなく,自分のパートを通して,合奏内における各種楽器の使用法や,合奏全体の効果を直接知る上に,また,合奏がどのようなふんい気において最も有効に進められるかなどの経験が得られるからである。