第X章 音楽学習指導過程の構成法

 

第1節 音楽学習指導過程構成法の種類

 音楽教育の内容をどのように組織し,それらの学習指導をどのように進めるかは,音楽教育の実施上,きわめて重要な問題である。

 今日,一般に行われている音楽学習指導過程の構成法にはいろいろあるが,次に,そのおもなものについて述べてみたい。

 1 基礎技能の系統的発展に重点をおく構成法

 これは,発声・運指・読譜その他,音楽学習上重要な基礎的技能の系統的発展を中心とする構成法である。したがって,この方法では,基礎練習用教材を難易の順に配列し,その学習に重点を置き,楽曲は,基礎技能の応用教材となる。

 この方法は,音楽の専門教育では効果が多い。しかし,基礎技能の発展的系統を重視するあまり,教師本位となって,ややもすれば,生徒の興味・経験が軽んぜられるきらいがある。そのために,かえって,予期どおりに学習効果があがらず,ときに,生徒を,音楽から遠ざけるような結果をきたすことも希でない。それゆえ,この場合には,性急に生徒の技能の発達を期待することなく,常に反復練習を重ねながら,しかも,その技能を,ただちに楽曲の演奏に応用し,生徒に演奏の喜びをもたせるとともに,生徒の音楽経験を豊かにすることがたいせつである。そのためにも,教師は,生徒の実力に合った,興味と変化のある教材を多数用意して,随時,利用できるようにすることが望ましい。

 2 楽曲中心の構成法

 この構成法では,ひとつひとつの楽曲の演奏が中心になる。したがって,楽曲の種類やその系統的な配列に主眼がおかれる。基礎練習用教材は,直接その楽曲の演奏に必要なもののみに限定され,鑑賞・知識・理解事項などが,楽曲と関連して取り扱われる。すなわち,楽曲のよりよい演奏を可能にするために,よい演奏を聞いたり,また音楽的な解釈を深めるために,楽曲の構成や形式,あるいは詩の研究をするのである。

 この方法は,教材の選択や配列のいかんによっては,生徒の必要と興味に合致することのできる利点をもっている。

 しかし,この利点は,他面から見ると,大きな欠点ともなるのである。なぜかというに,ひとつひとつの楽曲の学習が中心となるために,それを演奏したり鑑賞したりする,基礎的な技能や鑑賞などの系統的発展が困難になりやすい。そのうえ,楽曲の選択が,教師の個人的な趣味に片寄ったり,あるいは,生徒の興味に迎合する危険がある。その結果,全体的な音楽教育の建全な発達が阻害されることが多い。

 それゆえ,このような構成法をとる場合には,楽曲の選択や配列で,難易の順だとか,楽曲の構成・形式あるいは,拍子・リズム・和声等の種類を考え,また,広い範囲の音楽経験を与えるようにくふうしなければならない。

 以上述べた二種類の構成法は,いわば,科学的教育課程の類型に属するもので,どこまでも,音楽独自の体系と組織の確立に重点がおかれる。そのため,ややもすれば,生徒の全体的な生活が無視される。

 この欠陥を補うためには,学習計画の立案や学習指導の実施にあたって,生徒の立場をよく考えて,かれらの必要に合う道を見いだしていかねばならない。

 現在,多くの教科書は,だいたい,ここに述べたような線に沿って編修されている。それゆえ,教科書の順を追っていくならば,生徒の必要を満たしながら,しかも,教科独自の体系的な学習が,ある程度可能になるだろう。しかし,ここで注意しなければならないことは,教科書は,概して,特定の地域社会の生徒を対象とせず,どの地域社会の生徒にも適応するようになっているという点である。それゆえ,教科書を使用する場合には,その順を追うとはいうものの,ときに,その地域社会にとって不必要なものは省き,その学校の生徒に不適当なものは捨て,それに代る最適の教材を補う必要が起るのである。

 3 単元による構成法

 以上のほかに,単元によって学習内容を組織だてる方法がある。

 これは,生徒が当面しているある一つの問題を見いだし,それを解決しようとする目的をもち,その目的に到達するために,一つの計画をたて,さまざまな学習活動を発展的に展開して,その過程で,音楽に関するいろいろな知識や理解を深め,望ましい態度を養い,表現技能を練り,鑑賞を高める方法である。

 この構成法のうちで,現在行われているものには次の二つがある。

 次に,これらについて簡単に述べてみよう。

 A 他教科と密接に関連した単元による構成法

 これは,各教科をばらばらなものとせず,連絡のつけられるものは,なるべく密接に関連させて,ひとつの統合体として,学習を進めようとするものである。つまり,他教科と関連した問題を取り上げて,その問題を音楽の面から学習するのである。たとえば,中学校の社会科の単元

については,どのような音楽を,いつ,どのような方法で用いるとよいかを研究するようにすれば,音楽はこの問題の解決や家庭や地域社会の生活に大いに役だつだろう。こうなると音楽と生活とは一つのものとなり,したがって,それに必要な音楽を学習することもできるのである。

 こうすれば,いくつかの教科が,協力して一体となり,強力に教育目標を達成することのできる便宜がある。しかし,この方法の欠陥は,音楽独自の系統的な学習が犠牲になりやすい点であろう。ことに,基礎的な技能の体系的発展をはかることはきわめて困難である。

 この方法によるときは,現行の教科書は,そのまま使えることは少ないだろう。もちろん,それらは,他教科との関連を一応考慮してはあるが,どこまでも,楽曲や基礎練習用教材などの系統的発展に主眼が置かれているために,他教科との関連は,きわめて消極的な態度で取り扱われているにすぎない。すなわち,他教科との関連は,可能な範囲と可能な程度において取り扱われているのであって,いわんや,あるいくつかの教科との統合は,思いも及ばないのである。

 それゆえ,この方法による場合には,他教科の教育目標や教育内容を研究して,各教科の担任教師相互の密接な連絡と協力のもとに,教師みずから,音楽学習内容を組織だてなければならない。

 B 音楽独自の単元による構成怯

 これは,どこまでも,音楽独自の立場から単元を構成するのであって他教科の単元との関連は,第二義に考えられるのが普通である。

 この構成法には,次のような利点がある。

 しかし,この方法においても,取扱上注意を要する点も少なくない。次に,それらについて述べてみよう。

(1) 組織のない要点を逸した学習になりやすい。

 目的を果し,問題を解決するための活動は,どのような方向にも,またとめどもなく発展するのが普通である。そのうえ,活動を選ぶ主体が,教師から生徒に移るために,組織のない要点を逸した活動になる恐れがある。

 学習活動は,一つの目標をもつ営みであるから,それらの活動が枝葉にわたって,本筋を離れることはよくない。どこまでも,学習の目標に到達するに必要な活動だけが選ばれ,それらが,互に密接に関連し合いながら,全体として,一つのまとまった形をとって,一筋に発展していくことがたいせつである。

(2) 学習活動が片寄る危険がある。

 たとえば,歌唱だとか,器楽における表現技能のみに,目が向けられやすい。 しかし,たとえ,どのような単元がとられるにしても,さまざまな学習活動――鑑賞・創作・話し合い・調査・読書・その他――が,広範囲に採用せられ,それらが有機的に結び合って,目標の達成に参与するよう,注意しなければならない。

(3) 基礎的な技術訓練の機会を逸しやすい。

 単元による学習は,学習者の目的を中心として,心理的に組織せられ,学習者の必要を満足させる直接目的のために行われる。したがって,生徒の欲求のみに任せておくと,ときに,音楽学習上必要な,基礎技術の発展的な訓練の機会を逸しやすい。 それゆえ,教師は,生徒に対して,基礎練習の重要性を自覚させるとともに,常に練習の機会をとらえるように奨励し,かつ,基礎練習用の多くの教材を用意して,それらをじゅうぶんに利用するようによい助言や指導を与えるようにしなければならない。

(4) 他教科との関連が忘れられやすい。

 音楽のみの立場が強調されるために,生徒の全体的な生活が無視され,他教材との関連が忘れられがちになる。それゆえ,音楽担任教師は,他教科の担任教師と協力して,できるだけ密接な連絡をつけることがたいせつである。

 以上述べた構成法のうち,どれをとってもよいだろうが,要は,それぞれの長所と短所をよく理解して,長所を生かし,短所を補って,学習効果をじゅうぶん発揮し,音楽教育の目標の達成をはからねばならない。

 ただ,単元による構成法は,効果のある望ましい方法ではあるが,わが国では,新しい方法で,そのうえ,多くの問題を含んでいて,その方法を誤るときは,かえって音楽教育を混乱させる恐れがあるので,ここでは,特に,その方法について述べてみたい。

 

第2節 単元による構成法

(T) 単元の構成

 1 単元構成の準備

 単元を構成するにあたっては,準備として,次のような事がらを調査研究しなければならない。

 2 単元の選定

 単元の選定にあたっては,次のような手続が必要であろう。

 ☆ 問題の発見

 問題は,生徒自身のものであると同時に,音楽教育上有意義なものでなければならない。

 すなわち,教師は,生徒が,音楽に関してどのような問題をもち,どのような能力や資質をもつかを知り,その生徒の個人生活や社会生活に貢献するような特定の問題を発見するのである。

 ☆ 問題の選定

 このようにして発見された問題は,さらに,具体的な各学年の指導目標に照し合わせて評価し,それらの中から,教育的に有意義なものが選定されるのである。

 問題の選定にあたっては,次のような諸点が考慮されなければならないだろう。

 3.単元の範囲と系列

 以上の手続によって単元が選ばれたならば,次に考えなければならぬ重要な問題は,単元の範囲と系列である。

 すなわち,その単元に,どのような学習活動が取り上げられ,どれだけの目標が達成せられるかということと,単元相互の関係である。次に,その点について説明してみよう。

 一つの単元で,一つの目標が達成せられるというのではなく,なるべく広範囲の目標に関連することが望ましい。たとえば,ある単元は,鑑賞の目標のみを,他のある単元は,理解の目標のみをとるようなことでなく,一つの単元で表現技能・鑑賞・創作・理解などの各部門にわたるいくつかの目標が達成せられるように,さまざまな活動が関連し合って,まとまりをもつような総括的な単元を選ぶことがたいせつである。

 しかし,こうはいっても,一つの単元で,学年の全目標を達成することは不可能にちかい。それゆえ,当然,1年を通じていくつかの単元が選ばれるのであるが,それらの各単元は,相互に有機的な関連をもって,発展的に配列せられる必要がある。すなわち,各単元の学習によって,生徒の態度・技能・鑑賞・理解その他が,不断に成長しつづけ,1年間を通じて,学年の全目標が達成せられるように,系列づけられなければならない。そればかりでなく,ある学年の最後の単元は,次の学年の最初の単元へと発展することがたいせつである。

 

(U) 単元の学習指導計画

 単元を選定するにあたっては,すでに,各単元の内容,すなわち,学習活動の選択と組織の輪廓が描かれているわけである。しかし,実際に単元の学習を進めるためには,あらかじめ 具体的な学習計画をたてておく必要がある。

 その場合にじゅうぶんな検討を要するのは,次の諸項であろう。

 1 単元の目標

 2 学習の構想

 学習活動を,生徒の興味のおもむくままに放置するときは,さまざまな方向にとめどもなく発展しやすい。しかし,学習活動は,一つの目的をもつ営みであるから,それらの活動が,枝葉にわたって,本筋を離れては困る。どこまでも,学習の目ざすところに向かって,一筋に発展していくことがたいせつである。それゆえ,目標を達成するうえに不必要な活動は捨て,必要な活動だけが選ばれるのである。

 このように効果的な学習を進めるためには,あらかじめ,学習の進路の大路を予定し,所要時間の割当をしておく必要があろうが, それには,全体を通じて,教師と生徒との協同計画を要することはいうまでもない。

 3 学習計画

 単元の学習計画を,学習の順序に述べると,次のようになるだろう。

 このようにして,単元の学習が計画されるのであるが,その際,なお,考慮しなければならない点には,次のようなものがある。  

第3節 単 元 例

 ここにあげた単元は,どこまでも,一つの参考例である。各学年の音楽教育目標に照らし,前節で述べたような注意のもとに,単元を選定すると,このような単元の系列もできるだろうとの意味から,各学年の単元を列挙したものである。したがって,これがそのまま,適用されることは予期していない。これを参考として,各学校の実情に即した単元を選ばれたい。

 なお,ここにあげた単元は,一見,知識や理解をおもにねらうかのように考えられるかも知れないが,音楽の性質上,演奏や鑑賞が,常に重要な面として,取り上げられることを忘れてはならない。

(a) 第7学年(中学校第1学年)の単元

 1 唱歌形式を生かした演奏はどうすればよいか。

 じょうずに歌ったり,ひいたりしたいというのは,生徒のひとしく切望するところである。しかし,そのためには,まず,歌曲の気持をとらえなければならない。それに巧みな演奏技巧が加わって,はじめてよい演奏となる。歌曲の気持をとらえるためには,さまざまな面から研究してみなければならないが,中でも,旋律の組立や形式を理解することは,基本となる要件である。生徒たちも,すでに,そのようなことの重要性や必要性をじゅうぶん感じている。それゆえ,この単元を取り上げて,これまでに学習した多くの歌唱教材や新歌曲の旋律の組立や形式を調べ,それらをじゅうぶんに理解した歌い方に習熟しようとするのである。この目標を達成するためには,歌唱や楽器の演奏はもちろんのこと,鑑賞や創作などの活動が重視されなければならない。

 2 声楽や器楽の演奏形態と音楽的な情緒の表現には,どんな関係があるか。

 ソプラノ・アルト・テナー・ベースの種類,女声合唱・男声合唱・混声合唱などの区別,弦楽器・木管楽器・金管楽器・打楽器・けん盤楽器などの分類とその内容となるおもな楽器,各種の独奏・ピアノ三重奏・弦楽四重奏・吹奏楽オーケストラなどの楽器の組合せ,ならびに,それらの音楽の鑑賞や生徒に可能な演奏を,この単元の内容とする。

 唱歌形式を理解し,その形式の美しさを有効に発声するような学習を積んだ生徒にとっては,それらの演奏形態について当然関心がもたれ,声楽の演奏形態に関連して,さらに,楽器の演奏形態へと興味の発展する道が考えられる。ここに,この単元を選んだおもな理由がある。

(b) 第8学年(中学校第2学年)の単元

 1 わたくしたちが,日常,ひいたり,聞いたりする器楽曲は,どのように構成せられ,どのような音楽的な表現をするか。

 生徒の学習する歌唱教材には,器楽から取材せられたものも少なくない。そのうえ,器楽・鑑賞などの学習が進むにつれて,かれらの器楽曲に対する音楽経験は,ますます豊かになる。そうなると生徒たちは,器楽曲をいっそう広く深く学習して,各種の器楽曲の特徴を知り,それらを身につけることを要望するようになるだろう。この単元は,生徒のこのような必要に答えるために選ばれたものである。

 この単元では,舞曲――メヌエット・ワルツ・ガボット・ボレロ・ポルカ・ポロネーズ――ラプソディー・ファンタジー・カプリチォ・スケルツォ・マーチ・前奏曲・変奏曲・ロンドなど,いろいろな形式の小器楽曲の形式やその特徴が取り扱われる。これらは,歌唱・楽器の演奏,鑑賞,ときに創作などの活動をとおして学ばれるとともに,舞曲については,それを生んだ,民族生活にも触れる。こうしてかれらの音楽的文化生活の背景となる音楽経験が深められるのである。

 2 民謡は,それぞれの土地の自然や社会生活と,どのように結びついているか。

 民謡は,近代音楽の宝庫である。また,生徒にとっても,これまでの単元によって,歌唱に器楽に鑑賞に,数多くの民謡や民族音楽に接して,民謡に対する関心が高められ,なお,広く民謡を体験し,あるいは,民謡をもとにした各種名曲を学習することによって,音楽経験を深め,音楽鑑賞を高める必要に迫られているだろう。ここに,この単元を選んだ重要な意味がある。

 この単元の学習内容としては,各国の著名な民謡やそれをもとにした民族的な特徴のある器楽曲および,それらの音楽に用いられる民族楽器,ならびに,それらを生んだ土地の自然や社会生活と音楽との関係が取り扱われる。

 この単元の学習によって,各種の表現技能がみがかれ,音楽鑑賞が高められるとともに,音楽と実生活との結びつきについて理解を深め,音楽によって,生活を楽しく明るくする技能や態度が養われるだろう。

(c) 第9学年(中学校第3学年)の単元

 1 音楽と劇とはどのように結びつき,どんな価値ある文化財を残しているか。

 劇と結びついた音楽には,オラトリオ・歌劇・楽劇・舞踊劇などがある。それらの中には,劇とともに,あるいは単独に音楽として,生徒に親しまれ,かれらの精神的,情緒的なかてとして,大きな役割を果しているものが少なくない。これまでの単元で学習した音楽の多くは,このような種類以外のものであった。それゆえ,このあたりで,当然,通俗的な劇音楽に目が向けられなければならなくなるだろう。

 この単元では,劇の中で演奏せられる,生徒に耳慣れた器楽や声楽を中心とし,さらに,それらを組み合わせた接続曲・組曲の学習にまで発展する。こうして生徒は,形式の美しさよりも,劇的内容の表出に重点を置く音楽を身につけて,音楽による文化生活の内容を豊かにすることができるだろう。

 2 名高い作曲家は,価値のあるどのような作品を残したか。

 理論や創作技術の細目について学習を押し進めるかわりに,大家の作品が,どのような構成や表現をもち,また,劇的変化に富んだ進行するかを,生徒自身に研究させることは効果が多い。

 この意味から,どのようにしてこの単元を構成するかが,この学年の生徒にも,容易にわかるように説明してやりたい。

(d) 第10学年(高等学校第1学年)の単元

 1 世界各国の音楽にはどんなものがあって,わたくしたちは,それらをどのように受け継いでいるか。

 現在,わたくしたちが,生活の中に取り入れている音楽には,ほとんど世界各国の作品がある。それらの発達・交流,わたくしたちの生活への影響などが,学習のおもな内容となる。

 作品は,生徒の耳慣れたものや,平易で,しかも魅力のあるものの中から,さまざまな種類――独唱・二重唱・三重唱・同声および混声合唱,独奏・二重奏・三重奏・弦楽合奏・吹奏楽・オーケストラその他――古典派・ロマン派・国民楽派・現代楽派などから,広く選ばれることが望ましい。

 この単元の学習によって,各種の音楽の鑑賞や理解を深め,各種,各派の音楽の特徴をとらえた演奏に上達するとともに,世界の共通語としての音楽が,わたくしたち人類の文化の交流や発達に,どのように貢献したかを知って,各民族間の共通の理解をうることができるだろう。

 2 標題楽には本質的に,どんな特徴があって,かつ,どのような文化的,芸術的価値があるか。

 前単元で,様式についても,一応学習されたのであるが,ここでは,それをいっそう掘り下げるのである。

 この単元では,出色のある多くの作曲家の作品を取り上げる。そして,さまざまな標題楽から,共通の特徴をとらえる。そのうえ,さらに,それらの特徴の背景となった生活や思想との関係を理解して,作品の芸術的な深さをいっそうはっきり認識する。こうして,音楽に対する高い水準の趣味・技能・鑑賞などをうる。

(e) 第11学年(高等学校第2学年)の単元

 1 現代の楽器は,どのように発達して,音楽にどんな変化を与えたか。

 ピアノの発明は,ピアノ音楽を生み,その改良は,ショパン・リストなどの画期的なピアノ音楽の発達をもたらした。また,木管楽器や金管楽器の相次ぐ改良は,オーケストラの楽器の編成に改革をきたし,その音楽も異常な発達を遂げた。

 このように,新しい楽器の発明と改良とは,今日の器楽全盛時代を形づくったのである。

 楽器の発達と音楽との関係を理解して,音楽を学習することは,音楽の演奏技能にも,鑑賞にも,予想以上のよい結果が得られるだろう。さらにまた,楽器の性能に即した創作をする技能も発達させることができるだろう。

 このような意味から,現在使用せられているおもな楽器の発達と,音楽との関係を明らかにしながら,各種の音楽を学習しようとするのが,この単元の主要なねらいである。

 2 オラトリオと歌劇とは,社会生活とどのように結びつき,音楽文化の発達に,どのような点で貢献したか。

 前単元では,器楽が主になることはいうまでもないが,オラトリオや歌劇にも当然触れるだうう。なぜかというに,器楽は,それらの音楽できわめて重要な地位を占めているからである。

 また,生徒は,これまでに学習した多くの単元で,これらの名曲に親しみ,オラトリオや歌劇に対する予備的な経験をじゅうぶんに積んでいる。それらの経験を手がかりとして,オラトリオや歌劇の発生へと,歴史的発展の糸をたぐり,各時代の社会生活と,これらの芸術との関係,あるいは,各時代の劇音楽における声楽と器楽との地位の変化などをきわめ,さらに,それらの名作が,今日の音楽文化にどのように貢献しているかを学習することは,生徒にとって興味深い問題であろう。

 この単元では,オラトリオや歌劇の発達や構成の理解,演奏や鑑賞による,それらの名曲の経験,オラトリオや歌劇が,それら以外の器楽や声楽への影響また,一般の器楽や声楽から,これらの音楽への影響などが,おもな内容として取り上げられる。

 こうして,生徒の音楽経験は豊かになり,価値ある音楽文化財に対する理解が,いっそう深められ,かれらの生活によい影響を与えるだろう。

(f) 第12学年(高等学校第3学年)の単元

 1 和声音楽と対位法音楽とは,わたくしたちの文化生活とどのようにつながっているか。

 近代音楽の特徴は,一般的にいえば和声音楽といえる。しかし,純粋に和声的手法だけによるものは少なく,多少とも,対位法的手法が取り入れられている。また,対位法音楽も,やはり好んで演奏せられ,わたくしたちの文化生活の中で重要な地位を占めている。ここに,この単元学習の意義がある。生徒が和声や対位法の研究が進むにつれ,また,演奏・鑑賞・創作などの学習を積み音楽経験が豊かになるにつれて,この単元を学習する必要性が,切実なものとなるだろう。

 この単元では,和声音楽と対位法音楽の構成上の特徴,それらの音楽が,完成されるまでの発展的経路や,社会生活との関連の理解,価値ある作品の演奏と鑑賞,和声的手法に対位法的手法を加味した自由作曲などが,おもな内容として取り扱われる。

 2 音楽の様式にはどんなものがあって,それらはどのように発達してきたか。

 音楽の様式を知り,その特徴をとらえ,演奏における解釈を適正な方向に導くのがこの単元のねらいである。

 適切な指導が与えられるならば,生徒はこのようなことがらに興味を持ち,進んで学習するようになる。しかも,かれらは,作品を適正に解釈しようと努力する時期に達しているので,この単元は,かれらの必要を満たすことにもなる。

 この単元では,現代派・ロマン派・古典派の各様式の特徴や様式相互の関係の理解・鑑賞,様式に即して作品を解釈することなどが,おもな学習内容となる。