第X章 生徒の発達と図画工作

 中学校・高等学校時代における生徒は,心身の成長発達に,どのような傾向が見られるかを理解しておくことは,図画工作の教育課程を組織し,またこれを展開していく上には必要である。第2,3,4章において,その一部分には慣れてきたが,以下その概略と,この時代における生徒は,図画工作の学習にどのような傾向を示すか述べる。

第1節 青年期の特徴

 小学校時代の児童は,心身の成長発達の段階において児童期に属しているが,中学校・高等学校時代の生徒は青年期に属している。

 青年期は普通12才から21才ごろまでをさしており,12才から14才までの中学校時代の生徒は,児童期を終り青年期の初めにあたり,15才から17才までの高等学校の生徒は,青年期における中期にあたるわけである。

 生徒の先天的素質・能力,さらに生徒の成長発達に関連の深い生活環境などの相違によって,必ずしも一致はしていないが,一般に青年期には次に示す特徴が見られる。この特徴について理解しておくことは,この期の生徒を的確に教育する上に必要なことである。

1 青年期の成長発達の特徴

 1) 身体的な発達が,著しく成人の段階に近づくものである。

 2) 小学校時代の傾向としては,具体的な現実の事がらに無自覚にひたる傾向に対して,青年期においては,自我にめざめることが強い。このため自我が他のものよりも興味深い関心の中心となる傾向が強い。このため,成人・同年輩・年下のものに対する態度の変化が認められる。

 3) 異性に対する関心がめざめるものである。

 4) この期になると急激に,未知の世界が展開される。すなわち新しい経験を持ちたいと希望し,また思想とか,人生に対する考えや,人生における自分の位置や役割を見いだそうと努力する傾向が見られる。

 以上あげた青年期に現れる特徴は,あるいは自己批判となり,自分の空虚を満たそうとする強い要求となって現われるものである。このような特徴を示すこの期の生徒の傾向をよく理解して,生徒の必要に答え,かれらに好ましい行動の変化を持ちきたすようにして,人格の確立をたすけてやることがたいせつになる。

 上に述べた,青年期の一般的な特徴から,この期の生徒に共通した要求や傾向を認めることができるが,それは次に示すものなどであり,指導上どのような考慮が必要であるかを示してみる。

 1) 健康でなければならないのであるが,とかく健康に対して自覚をかく行動をするものを多く見かける。

 2) 他人から認められ,ほめたたえられ,尊敬されることを望むものである。

 3) 自分に適したと信ずる仕事に対して熱意をかたむけ,その結果,成功の域に達し,自尊心を高めようとする要求がある。

 4) 家庭・学校・社会において,自分が認められ,情緒の安定感を得,それによって,自分がそのグループに属しているという感じをいだくものである。

 5) 他人から愛情を受け,また他人に愛情を与えることを望むものである。

 6) 他人から理解され,また同時に他人を理解しようとするものである。

 7) 真の解放と自由をしだいに増す経験を多く持たせ,それによって得た能力を賢明に用いる機会を与えることが必要である。

 8) 健全な方法で創造的な個性を発揮する機会を学校やその他の社会において持たせるようにすることが必要である。とりわけ,クラブ活動などにおいては,この機会に恵まれている。

 9) 種々の状態やできごとに対して,洞察力を深めるため,経験を持たせることがたいせつである。

 10) 自分の将来向く職業を選択する基礎的な経験と機会を与えることがたいせつである。

 11) 健全な個人的および社会的娯楽を経験させるための機会を得させるようにすることである。この経験が将来の娯楽方面の傾向を決定することにもなり,重要な時期である。

 12) 自分の行動やその他いろいろな問題に対して,満足する解決を得させるために必要な理想を持たせることがたいせつである。

 13) 生徒の必要を満たすに足れる学校教育をうけさせるようにする。

 以上あげた傾向については,学校や社会が協力して,この期の生徒の要求に答え,生徒を健全に発達させなければならない。

 図画工作教育においても,指導上いろいろな問題が起るが,個々の生徒や集団の問題を上にあげた生徒の傾向や必要に照合して検討し,適切な計画をたて,実施することによって,好ましい結果に到達することを期待しなければならない。

 

第2節 中学校生徒の発達と図画工作

 第1節において,中学校・高等学校生徒の属する青年期の一般的特徴や,指導上注意すべき大綱について,きわめて概略について触れたのであるが,これを基礎にして,さらに中学校生徒の図画工作の各種の学習に現われる特徴を理解しておくことが必要である。

1 表現力の発達

 小学校児童に比較して,心身が発達し,筋力の増大も目だつので,工作的な表現に対しても,相当程度の硬材料や,用具などを使いこなす段階になるのである。

 小学校の段階が,創造的な表現が,盛んであったに対して,中学校の段階になると,この期の生徒の心身の発達の特徴から,ものを合理的・客観的に考えようとする傾向が高まり,それが表現にも現われる。

 また個々の生徒を観察して,その表現に現われる傾向としては,生徒の気質の型ともいうべき,内向型と外向型とが見られるが,内向型の生徒は表現の裏にひそむ精神の現われが,とかく控目がちのため,表現は,はなばなしくはないが,反対にじみな点に特徴があり,外向型の生徒は,その気質の特徴からいって,その表現結果は一見はなやかなものである。指導にあたっては,よくその表現に現れる特徴を理解して,生徒各自の個性に沿った指導をすることが必要になる。

 また一面,物事を合理的・客観的に考えることが進んでくるので,作業を計画的に進めて,望ましい結果に到達しようとする意欲が増大するものである。他人と協力して仕事を進める共同作業の段階にもじゅうぶん達しているのであるから,共同作業用に自己の責任を自覚し,個人がそのグループの一員として,好ましい協力を示すように導くことがたいせつである。

2.知識や理解力の発達

 中学校段階になると,知識や理解をうるための思考活動も急激に発達して,真の理解に達し,知識を獲得することができるものである。

 図画工作教育においても,この理解や知識力が,表現活動・鑑賞活動・技術熟練の活動に必要であると同時に,造形的な教養としても重要になる。

 物を構成している材料にたいする知識や理解,色彩・図案に対する基礎的な知識や理解,描画に関する表現方法や技術・材料などに関する知識や理解など,数えあげれば無数にあるもので,これらに対しても,相当程度,徹底して指導することができる段階になっているものである。

3 鑑賞力の発達

 鑑賞力は,生徒の置かれた家庭・学校・社会の環境の相違や生徒が過去に受けた教育のいかんなどによって異るもので,個人差の著しいものである。

 鑑賞力の発達は,図画工作教育目標の重要な一つである。中学校生徒の時代になると,相当程度鑑賞力も発達するものである。表現の方面に興味を示さない生徒でも,鑑賞方面の活動には相当の興味をもつのが普通である。

 対象の持つよさや美しさに直接ひたることもでき,また知識や理解の裏づけによって,そのものの特徴や価値を批判することもできるようになる。

 鑑賞力の発達は,創造的な表現力の裏づけになるものであり,この関係はこの期の生徒にも相当理解され,関心を示す段階になるから,この傾向を巧みにとり入れて,指導を効果的にする必要がある。

4 技術力の発達

 前にも述べたように,学校の段階になると心身の発達にともない,相当程度の技術の習得に堪えうる域に達するものである。小学校時代においてむりな表現用具なども,中学校時代になると相当程度こなせるようになるものであり,技術の習得においても,くりかえし実施した結果,熟練の域に達するような学習も可能である。また共同して相当大じかけな表現もかれらの筋力の発達によって可能となる。職業的な基礎技術の経験を得させることも可能になるのはこのためである。

5 態度及び習慣の発達

 個人生活・社会生活に限らず,よい態度や習慣を身につけさせるためには,図面工作の学習中にはよい機会に恵まれている。

 小学校の児童は,指導者の意図通りにしたがって,行動をするのが普通であるが,中学校の段階になると,物事を批判的にみるようになる結果,自己が理解できない命令や規約には,服従しないものである,教師が必要だからと信じた意図でも,生徒に納得のいかないものは,これに対して反抗を示すものである。生徒自身において,かれらの従来の態度・習慣に批判を加えて,時には態度・習慣を一変するようなこともあるものであるから,適切な指導によって,よい態度や習慣を身につけさせるようにすべきである。

 図画工作の学習を通して,合理的・実践的に物を進める態度とか,整理整とんの習慣,公共物をたいせつにするとか,物資の節約の習慣,他人と協力して物に当る態度とか,自己の作品および他人の作品に対して尊敬の態度で臨むとか,美術品を作製する態度というようなことは,強調されなければならないことであるが,生徒が自覚をもってそれらに対する望ましい態度や習慣を形成するには,中学校の段階になれば,それを真に身につけさせるよい時期になることを理解しておくことがたいせつである。

 

第3節 高等学校生徒の発達と図画工作

 青年期の中期であるこの期の生徒は,中学校の生徒に比較して心身の発達も充実し,人生における最もはなやかな時期であるとともに,問題も多い時代である。

 青年初期にあたる中学校の生徒に比較して一段と個性もめいりょうになり,自己の将来向く方向もはっきりしてくる。この期の生徒の一般的傾向や特徴については,第1節で述べたので,それを出発として,高等学校生徒の図画工作の各種の学習に現れる特徴を理解しておくことが必要である。

1 表現力の発違

 中学校の段階で,表現方面に関心と能力を示す生徒と,鑑賞方面に関心と能力を示す生徒との区別が認められる傾向は,高等学校生徒になれば,いっそうめいっりょうになり,一般に表現力はのびてくるが,表現力のすぐれた生徒と他の生徒との差異が著しくなってくるものである。すなわち,表現方面に関心と能力をもつ生徒は,ますますこの方面に努力する傾向が見られ,相当進んだ程度の表現の域に達し,また,創造的な表現にも,科学的・合理的な表現方面も,進んでなしうる域に達するものである。

 生徒の表現方面に関心と能力を示すものに対しては,これは,問題はなく正常な表現力が身につくように指導を進めるべきであるが,表現に関心が薄く,能力も示さない生徒に対しては,なるべく多面的な指導題材や指導方法を考えて,生徒に表現に対する希望を失わせないようにする。そのためには,高等学校における図画工作の指導が,専門的な技術を習得させるというのではなく,大部分の生徒が満足をするように表現力の指導に重点をおいて考えて,かたよった表現力の指導に終らないようにすることがたいせつである。

2 知識や理解力の発達

 知識や理解力の発達は,中学校の段階に比較してさらに高められ,まとまった本格的な域にも達する時期である。これが高められる反面,この方面で物事を解決しようとし,また,理に合わないで自分の理解できない事は,これにあくまでも反対する傾向が強く,ために現実との食い違いになやむ時代でもある。いずれにしろ,論理的に物事を考え,抽象的な思考がますます発達する時代である。

 表現方面に関心と能力を示さない生徒でも,造形的ないろいろな点について,論理的には相当つっこんで考えることができるものであるから,指導題目の選択にあたっても,この事をじゅうぶん考えて,この方面の取扱にも手心を加えることが必要になる。

3 鑑賞力の発達

 表現方面に関心と能力を示す生徒と,そうでない生徒との間にはっきりした区別の認められるようになるのは,高等学校の時代である。表現方面に関心と能力を示さない生徒は,一般に鑑賞の方面に関心を示す傾向になるものである。

 直接手を下して,絵を描いたり,物を製作することはしなくても,絵を鑑賞したり,工芸品を鑑賞する方面には一般に関心をもつのはこの時期の生徒であって,実際には表現はできなくても,鑑賞する方面には関心をもち鑑賞も相当できるようになる。

 このような時期に到達する生徒であるため,表現方面に興味と関心を示さない生徒には,広く鑑賞の領域を求めて,広範な体験を積ませるようにし,広い造形的な教養を得させるようにすることがたいせつである。また表現方面に関心を示し表現力をもつ生徒にも,ますますこの表現力を高めるように指導すると同時に,鑑賞方面も適切に指導して,表現力と鑑賞とが,円満に身につくようにして,かたよらない能力が身につくよう考慮することは必要である。

4 技能力の発違

 表現を的確にするための基礎的な技能力の発達は,中学校の段階に比較して,ますます高まり,領域も広まるものであるが,前にも述べたように,表現そのものに興味と関心を示す生徒と,そうでない生徒とがめいりょうになるため,それらの生徒の間の技術力の相違は相当の幅と深さをもってくるものであるが,技術力の指導では,得意の生徒の技術力は,その技術力がますます高まるように指導する反面,他の大多数の生徒に対しては,日常生活に必要な造形的処理に関係する基礎的な技術力は,これを身につくように指導することがたいせつである。

5 態度および習慣の発達

 中学校の段階にひき続いて,真によい態度や習慣を身につけるよい時期であり,指導の好機に恵まれているから,かれらに納得のいく指導で,希望と熱意をもたせ,真によい態度や習慣を身につけようとする生徒の意欲に導いてやることが何よりも必要である。

 以上いくつかの観点から,高等学校生徒の図画工作に示す関心を述べたが,要するにこの期の生徒は,芸術に理想を求め深い関心を示す時期であるから,生徒に満足を与えてやるために適切な考慮が払われなければならない。