第二章 芸能科書道の学習指導はどんな計画をもったらよいか

 

ま え が き  芸能科書道の学習指導をするには、教師が、それぞれの地域の実情や、生徒の実態に応じて、独自に計画をたてるべきである。その参考として、一般的な手続とおもな注意事項を述べる。 (一) 高等学校の芸能科書道は、高等学校の教育課程においてどのような地位にあるかを考える。  指導の計画をたてるためには、教師は、まず高等学校の芸能科書道の学習とは何かを考えておく必要がある。高等学校では、第一章に述べたように教育の目標を、芸能科書道の意義に基いて実施しなければならない。 (二) 生徒の経験・興味・能力の実態をじゅうぶんつかんでおく。  教師にとって何よりもたいせつなことは、生徒の書道に対する経験・興味・能力の実態を確実につかんでおくことである。

 高等学校の生徒は、興味の方向に、生活上の要求に著しい変化を示し、特色を表わす。興味や関心のないところに妥当な学習はない。生徒の経験や能力を考えない指導計画は効果が少ない。教師は絶えざる観察、諸種の調査統計の結果の利用などのほかに、他の教師、父兄、卒業生などの協力を求めるなど、各種の方法によって、生徒の実態をとらえなければならない。

(三) 生徒の実態を見きわめた上で、第一章にあげた芸能科書道学習指導の目標に基いて計画する。  第一章に述べた芸能科道学習指導の目標は、概括的な広いものであるから、ここではそれをもとにしてさらに、具体的にして、書道学習指導の計画をたてなければならない。地域や学校によって、生徒の個人差もじゅうぶん考慮して、種々の段階に即応して、弾力性に富む計画をすべきである。 (四) 計画の実施にあたっては、常に反省を加えて、再計画をするとともに、他の人々の必要な援肋を求めたり生徒と協同の計画をしたりする。  計画は、絶えず評価され改善されていく必要がある。学習指導はそのつど、計画に新たな反省を加えていくことが望ましい。計画にあたっては、地域社会の人々、同僚その他の助言を求めなければならない。また生徒が習計画に参加するとも望ましいことである。
次に、芸能科書道学習指導計画をたてる上の一般的な注意をあげる。 (一) 芸能科書道の学習指導計画を、学校全体の教育計画と調和させ、その必要に応じさせること。

(二) 学習指導は、具体的な経験に即して行われるのであるから、あまりに孤立的、分析的な学習を計画しないようにすること。

(三) 学習指導計画には、あらゆる機会と環境を有効に利用すること。

 

一 高等学校教育課程における芸能科書道の位置

 文字は本来ことばを視覚化するという生活上の必要から生れたものであるが、これを長く使用する間に、人間の美的要求が加わって、単に生活上の必要を満たすだけではなく、美的に表現するようになって、ここに書が生れ、書道が発達したのである。純粋の書道は、すでに日常の実用をいでて、芸術として鑑賞に堪えるものになっている。しかし、書道を教育の内容とするときには、それを芸術として取り入れると同時に、社会的要求に答えるものでなければならない。

 言語生活における文字の書写は、見る者、読む者を予想し、文字がことばの表現としてりっぱであり、かつ、文字として美的であればあるほど、相手に与える効果が大きく、書写の目的を達することが深い。文字をことばの表現として、正しく、速く、美しく書くことは、文字の生活においてたいせつなことである。この文字書写の実用面は、鉛筆・鉄筆・ペンなどの硬筆によることが多いが、大字を書くとか、長い保存を必要とするとか、改まった場合とかに毛筆を使うことはもちろんである。また、芸術的書道の大半が毛筆であることはいうまでもない。毛筆は手の筋肉の水平運動に加えて、上下運動の自由が大きいから、これを使いこなすことは高度の技術に属し、精神の集中と、平静な心構えとを必要とする。かくて、毛筆を主軸とする書道上の学習は、その文字の生活をより効果的にする上に、ことごとく役だつのである。かくて、毛筆で文字を書くということ自体と、その結果得られる書道上の心構えが、直接、われわれの日常の生活の上に役だつのである。

 書道は、われわれの生活の中にしみこみ、これを創作することができなくても、これを鑑賞できるということは、人間としてその精神生活を豊かにし、その社会生活を美しくする上に役つ。まして、書道の学習が日常の生活にうるおいを与えるのはもちろん、書道芸術を鑑賞することによって、その美的感覚を鋭くし、さらに、個性的な、創造的な自己表現が可能であるならば、その人間成長に役だつことが大きい。

 かくて、芸能科書道は、文字や書道に関する望ましい習慣を身につけることによって、日常の実用に働きかけるとともに、その美を鑑賞し創作することをとおして、個人として、社会人として、また、職業人として必要な豊かな情操を養う上に役つのである。

 由来、芸術は、あらゆるむだを排除して、最も効果的に自己を美的に表現したものである。実用に直結し、芸術に発展する書道の学習は、そのまま日常の生活技術の中にとけこんで行くべき性質のものである。

 われわれの国語生活、文字の生活の向上は、その根底に芸能科書道的な教育を必要とすることは、日本の文字の特殊性と、その長い伝統の必然の結果である。

 それゆえに、芸能科書道は、社会生活の上からも、個人の完成の上からも、その教育課程において、重要な位置を占めなければならないものである。

 

二 高等学校生徒の芸能科書道に関する経験・興味・能力の実態 一 芸能科書道学習指導の計画は生徒の経験・興味・能力の上にたてられなければならない。  学習指導が効果的なものになるためには、生徒がみずから進んで学習するように指導されなければならない。教師は手本を書いて見せたり、適当な資料を選んで鑑賞させたり、朱筆を加えたりなどするが、それらは、いずれも効果的な学習指導をねらって、生徒の自発活動を促すために払っているくふうであり、努力である。

 かくて、学習指導の計画をたてるには、生徒の経験・興味・能力がじゅうぶんに考慮されなければならないのである。すなわち、

二 生徒の芸能科書道に関する経験・興味・能力の実態はどうであるか。  などによって行われるが、それぞれ一長一短があり、強調される反面、見落されるということが伴い、実態はともするとゆがめられるのである。

 生徒が書道についてどんな経験をどれほどもっているか、その興味や能力はどうであるかといっても、それは容易につかめない。ことに書道については、その実態調査は、いまだ多く行われていない状態である。

しかし、だいたいのところは次のようである。

生徒の芸能科書道についての経験表 ――日常の書写経験や学習活動に伴う書写経験などは省く――  個人差が著しいのであるが、次のような経験は、だれでも多かれ少なかれもっているであろう。

一 書を書く経験

二 書を見る経験
 

三 芸能科書道学習指導の具体的目標

 

四 芸能科書道の学習指導計画のたて方

 

五 芸能科書道の学習指導上の注意

(一) 芸能科書道の学習指導においては、技術の面に力を入れるのはもちろんであるが、それのみに偏することなく、書道に対する理解、書に対する鑑賞、また、書道をとおして望ましい態度習慣を身につけるというように、書道全面にわたって、健全に発達するよう注意すること。

(二) 文化遺産の一つとしての書道の理解にあたっては、芸能科図画・芸能科工作・芸能科音楽との関連をじゅうぶんに考慮して、芸術般に対する理解に資し、豊かな教養を身につけるよう注意すること。

(三) 書道の学習指導にあたっては、他教科特に国語科との関連、商業料の文書実務との関連をじゅうぶん考慮して、実際生活から遊離することのないように注意すること。

(四) 特別教育活動特にクラブ活動・研究会などとの連絡をはかり、教室内の学習経験を最大限度に生かすことのできるよう注意すること。

(五) 小学校国語科書き方、特に毛筆による習字および中学校国語科習字との関連をじゅうぶんに考慮して指導すること。特に小学校・中学校における実用的方面との関連に注意し、小学校の語科書き方、特に毛筆による習字および中学校の国語科習字の学習指導の効果をじゅうぶんに達成し、書道に対する望ましい習慣・態度をますます助長するように考慮すること。

(六) 書道史など知的理解を主とする場合の学習指導は、なるべく広い理解と知識をもたせなければならないが、ある一面に深入りすることなく、しかも精選された資料については明確に理解させ、また、絶えず技術・鑑賞などの学習を伴うように注意すること。

(七) 大字と小字、漢字とかな、毛筆と硬筆におけるかい書・行書・草書などの書体・書風は、芸術的に技術を学習するにとどまらず、社会生活とも密着するよう注意すること。

(八) 技術の学習にあたっては、書を楽しみ喜ぶように習慣づけること。

(九) 技術の練磨にあたっては、特徴と欠陥を速く発見し、助長と補正に努め、各人の特微をじゅうぶんに表現できるように注意すること。

(十) 技術の練磨にあたっては、書を正確に書くともに、手本などの模倣に終らせず、創意を発展助長するように注意すること。

(十一) 示範や説明については、次の諸点を注意すること。

1 生徒の能力に応じ、わかりやすく説明すること。

2 説明の中心点を明らかにすること。

3 説明だおれにならないこと。

4 説明は実地示範によって行うこと。

5 示範は大書で明確にすること。

(十二) 批正については、次の諸点を注意すること。 1 生徒の能力の程度に応ずること。

2 用筆・結体・章法などについて、重点的に行うこと。

3 美点を称揚して、生徒の個性をじゅうぶん生かすこと。

(十三) 能力と興味に応じうるようくふうすること。理解・技術・鑑賞の各方面について、広く一般的、基本的事項を習得すると同時に、さらに進んで、生徒の必要と興味と能力に応じて、広く深い研究ができるように留意しなければならない。

(十四) 書道の学習が学校内にのみとどまらず、あらゆる機会をとらえて、書道に対する理解、書に対する鑑賞を深める習慣・態度を身につけるよう注意すること。