W 鑑賞の指導法

 

1 鑑賞指導の意義

 よい音楽を聞くことによって,児童の音楽性を引き出し,健全な鑑賞能力を養い,文化的な社会人としての教養を高めるところに鑑賞指導の意義が見いだされるのであるが,音楽教育の立場だけから考えても,すべての音楽表現能力の発達やその指導は,広い意味で音楽を聞く活動から始められるといってよい。つまり,音楽の美しさを味わってそれに感動できるような心を育てることは,あらゆる音楽教育の根本であるということができる。特に鑑賞能力の最も大きな要素となる音についての感受力の発達は,この幼年期より少年期において著しいのであって,この時代における豊かな音楽鑑賞は,その児童の将来の音楽活動の源泉となろう。

2 鑑賞指導の方法ならびに指導上の注意

 音楽の鑑賞は,その曲全体,演奏全体を感覚的に,あるいは感情的に味わうことができるし,一般的にはそのように行われるのが普通であろう。しかし音楽教育の一つの過程として,より広く,より深く音楽美を味わえるためには,要素的な聞き方,分析的な聞き方の指導が必要である。すなわち,音楽の要素や組織を理解しながら,聞き味わう指導がなされなければならない。

 たとえば,低学年では主として,楽曲のリズミカルな面を,感覚的かつ身体的にとらえることが適当であるし,高学年に進むに従って,漸次旋律的なもの,和声的な美しさを特徴とするもの,さらに音楽の構成的な美に中心を移し,感覚的のみならず知的にも鑑賞できる指導をするのが,児童の音楽的な発達段階に合った指導法であるといえよう。

 上に述べたような鑑賞指導の内容は,適当な教材の選択とともに,低学年から高学年へと系統的に,また発展的に取り扱うことがたいせつであって,特に鑑賞動がが他のすべての音楽経験を土台とし,また,それらに含まれているという有機的なつながりにじゅうぶん留意して指導する。

1) 静かに聞く態度を習慣づける。

 聞く態度としては,あまり堅くならず心を自然にして,音楽を心から楽しみ味わいながら聞く習慣を,低学年からもたせる。消極的には,黙って聞く,静かに聞く,他人の邪魔をしないという気持をもたせることは非常に必要なことである。ただし,積極的に児童がその音楽の中に何かをとらえてとけ込んで味わう態度を養うことが望ましい。たとえば,リズミカルな音楽を聞く場合,児童がそれにほんとうに聞き入っているならば,首が揺れ,からだがリズムに合って動くことは自然であろうし,また何度も聞いた音楽の旋律を,場合によっては小さく口ずさむことさえ自然である場合もあろう。しかし音楽会のような場所では,単に音楽を聞く態度のみならず,集会のしつけや作法としての態度を身につけさせることに注意したい。

2) 児童の音楽的な発達に即して聞かせる。

 低学年の児童は,一般に未分化であり,かつ,感覚的な生活が主であるから,その指導も短い時間,変化に富んだ指導を,しかもできるだけ感覚的,身体的にとらえさせることが必要である。そして高学年になるに従って,こうしてただ楽しんで聞くことから除々に,いろいろな要素を総合的に理解して味わう段階に進める。

a. 児童に親しみやすいリズミカルな軽快な曲を聞かせる。

 低学年では,短くまとまった,リズムのはっきりした明るい曲を聞かせて,それを身体的な動きでとらえさせる。たとえばマーチに合わせて歩いたり,リズミカルな音楽に合わせて身体を振ったり手をたたいたりするのもよい。その音楽の中に流れる美しい旋律を口ずさみながら,簡単な動きのリズム表現をするのもよい。

b. 音のいろいろな性質や楽器について理解する。

 このようなリズミカルな音楽を聞いたり,また歌唱経験などを通して,音楽における音のいろいろな性質,たとえば,高い――低い,強い――弱い,速い――おそい,などに気につけさせる。

 また音楽を通して,楽器についてもできれば実物,やむを得なければ模型・掛図・絵画などによって,その特徴や音色を理解させる。なお,楽器については次のような段階で理解させる。

1年――リズム楽器類・おもちゃの楽器

2年――バイオリン

3年――トランペット・フルートを加える。

4年――チェロ・ハープを加える。

   
5年    日本楽器やオーケストラ・吹奏楽などで用いる楽
   } 器のうち,児童に身近なものを適宜加える。      
6年  
   

 また,楽器について理解させるためには,楽器の絵をかいたり,模擬演奏などをさせるのもよい。

c. 旋律や和声,およびその反復・変化・発展・対象などに注意させる。

 美しい旋律や和声の音楽を聞かせて,その美しさを味わわせるとともに,それがどのように楽曲の中に現れてくるか,たとえば,主題になる旋律が何度出てきたか,どう形が変ったかなどに注意させて開かせる。高学年になるに従って,楽譜を見たり,旋律を歌ったりすることによって,これらのことを理解させながら聞かせることもたいせつである。

d. 楽曲の形式,演奏の様式などを,単純なものより,複雑なものへと理解させる。

 旋律の反復や変化は,発展して唱歌形式となり,さらに器楽形式になることを理解させる。また,独唱・重唱・合唱・合奏・吹奏楽・オーケストラなどの音楽のいろいろな演奏様式を理解させる。

 このような理解は,常に実際の音楽を通して,知識と合わせて理解していくようにすることがたいせつであろう。

3) 音楽の表わす感じをとらえさせる。

 音楽を聞かせるのに,教師の主観的な説明をあらかじめ加えて,児童に先入感を与えることよくない。なるべく児童が音楽それ自体を聞いて,創造的に味わいとるようにすることが必要である。

 たとえば,低学年なら低学年なりに,簡単な旋律の感じを表わすことばでいわせたりする。ただし,これはあまりいき過きると児童は無理に音楽以外の要素,教師の期待しそうな答,主観的な空想などによって,感じを表現しようとするから注意しなければならない。

 ただし,描写音楽や標題音楽については,その描写や,標題の表現している範囲内にたいて,説明を加えることは,もちろんよいことである。

4) 楽曲のよさや演奏のよさを聞き分けさせる。

 高学年の鑑賞力の鋭い児童には,それぞれの楽曲の特徴・持ち味・よさ・演奏の特徴・個性・良否まで聞き分けられるように指導する。

5) 名高い作曲家やその作品について理解させる。

 小学校では,音楽史としてまとめて理解させるのでなく,個々の歌曲や楽曲を中心にしてその作曲家や作品について理解させる。名高い作曲の一部を口ずさんだり,自由に調ベさせて発表させたりするのもよい。なお,各国の民謡や日本在来の音楽にも親しませる。

6) よい歌曲や器楽曲の愛好種目を多く持つ。

3 音楽鑑賞の機会

 他の音楽学習の中でする。

1) 歌唱・器楽・創造的表現など,すべての音楽学習活動の中で,味わいながら鑑賞する指導がなされなければならない。

2) 教師や優秀児の模範唱・模範奏を聞く。

 日常の学習の中で,教師や優秀児の模範唱・模範奏を機会あるごとに聞かせることは,児童に直観的に音楽の内容や技能をつかませる

最もよい学習指導の方法であるばかりでなく,こうして手近に鑑賞の態度や聞き方を指導することができる。

3) 音楽会で聞く

 専門家による音楽会では,最もよい演奏を,音楽的なふんい気の中で聞くことができる。

 学校や学級における,親しい友人の演奏を聞いて,その進歩を認め,批判し合って自分の学習の参考とすることができる。

 このほか,家庭的な小音楽会や,地域社会の音楽会に出席したり,関心をもつことは,単によい音楽を聞いて楽しむばかりでなく,音楽的な生活を家庭や社会に広めるよい機会である。

4) レコード・ラジオ・音楽映画などで聞く。

 上に述べたいろいろの方法では,何といっても,教師が指導計画に合った音楽を自由に選択して聞かせることはできない。再生された音楽としてふじゅうぶんな点もあるが,レコードによればあらゆる種類の音楽を,自曲な機会に自由に選択して聞かせることができる。ラジオ・音楽映画も同様で,特に音楽映画は,視覚による直観的な指導をわせて行うことができる。

 ただし,このような機械によって再生する音楽を鑑賞させる場合は,じゅうぶんに,機械自体の音響再生能力に注意して行うことがたいせつであろう。