第U章 図画工作教育における児童の発達

 多くの児童は,就学前から絵をかいたり,細工らしいことをしたりするような,造形的表現活動をしている。したがって入学当初の児童に,何か絵をかかせてみると,たいていの児童は何かしらかくものである。しかし,中には容易に手をおろそうとしないものもある。この容易に手をおろそうとしない児童も,かくことに対する先天的な素質を持っていないということは少なく,これまでの環境がよくなかったために,描写生活のとびらが開かれていなかったことに起因することが多いのである。

 各児童はそれぞれ先天的な素質を異にし,またこれまで周囲に絵をかいたり,物を作ったりする兄姉や,友だちのあるなし,手近にクレヨンや,積木,その他の表現材料が豊富にあるかないかによって,かれらの入学当初に持っている造形的表現力には相当の個人差が認められる。

 児童が入学してから後,学校教育によっていろいろな経験を積み,かれらは年とともに漸次発達していくのであるが,その発達の状態は児童の自然的な発達に教育効果が加わったものが現われてくるのであるから,教育のいかんによって発達の様相に差異が生じてくる。

 このように児童の発達は,その先天的素質のいかんにより,生活環境や教育効果のいかんによって著しい差異のできるものであるから,概観的に第1・2学年児童はこのような発達をする。第3・4学年になるとこのようになるというようなことをいっても,個々の児童には当てはまらないことが多いのである。したがって実際の指導に当っては個々の児童の発達をじゅうぶん精査して,個人個人の児童に適合する指導をしなければならない。

 この章においては,図画工作教育において,児童をいかに発達させるべきかについて述べるので,児童の自然的な発達のままの姿を述べたのではない。そして小学校の全学年を大きく,児童前期というべき第1・2学年,いろいろな意味での転換期に当る第3・4学年,児童後期というべき第5・6学年の三つに区分して述べることにした。

 

  1.第1・2学年児童の発達

 (1)絵をかく場合,見たものや,見ているものを直接にかくのではなく,経験として心の中に持っているものをかく。

 一例をあげれば,この時期の児童がいわゆる図式的な表現をすることや,家をかく場合,戸や壁でさえぎられていて実際に外から見えない電燈をかいたり,電車をかくときに,外からは見えない乗っている人の足までかいたりするような,いわゆる透明描写とか,透視描写とかいわれている表現をするのはこの例である。このような表現は未開人の絵にもしばしば見られる。

 (2)第1・2学年児童の絵は物の大きさの割合というようなことは無視してかく。たとえば人物をかけば肩幅を頭より小さくかいたり,家よりも大きい草花をかいたり,家をかけば多くの場合電燈をかくが,その電燈は著しく大きくかいたりするようなことである。

 (3)絵をかく場合,物と物との関係についての見方や考え方が非常に単純で,多くの事項を関係的に見たり,表現したりすることはできない。

 たとえば,樹木をかく場合,電柱のような幹をかき,それに葉のかたまりのようなものをつけたりして,幹から大枝,大枝から小枝,そして葉というような関係に注目したり,表現したりすることは少ないようなことである。進んだ児童でも,電柱のような幹をかき,それから小枝を放射状にかいたり,ろっ骨状にかいたりするくらいである。

 (4)絵をかいたり,物を作ったりする場合,かいたり作ったりするものを客観的な存在と見ないで,みずからその中にはいりこんでかいたり作ったりする。

 児童が人の絵をかくとき,そのかいている人と,ぶつぶつ話をしながらかいたり,粘土で自動車を作るときは,みずからその自動車に乗っているようなつもりで作ったりするのはこの例である。

 また町をかくとき,家を道の両側に倒したようなかき方をすることがあるがこれは一種の移動視点の描怯で,これも画面の中にみずからはいりこんでいることを物語るものである。なお移動視点の描法は東洋画にはおとなの絵にもしばしば見られる。

 (5)以上の諸点から見て,第1・2学年の表現は,たいへん主観的であるとか,自己中心的であるとかいわれている。物を作る場合も,だいたい絵をかく場合と同様であるが,工作的なことは,幾分おくれて発達するといわれている。これは用具,材料の面から見て,絵をかくよりも技術的な抵抗が多いためかもしれない。

 (6)この時期の児童は,身体発達の状況から見て,手と目の共同動作による細かい仕事を長時間続けることが困難である。したがって小さい絵をかかせたり,こまかい細工をさせたりすることは不向きである。

 (7)第1・2学年児童は,かくことや作ることそれ自身に魅力を持ち,できた結果については,まだそれほど関心を持たない。すなわち成就のいかんよりも表現行動そのものの喜びのほうが大きい。

 (8)この時期の児童の表現は,知識にとらわれることなく,また表現方法や,表現技術について,疑問や迷いを持つことも少なく,自分の思っていることを率直に表現する。そこに純一無雑なものがあって捨てがたい味わいが生ずるのであるが,児童は必ずしもそれを自覚しているものではない。

 (9)主観的,自己中心的であるこの時期の児童は,他の作品を批判的に見る力はまだ発達していないから,ほんとうの意味の鑑賞はまだ困難であろう。

しかしよい作品を環境において,常にそれに親しませることは,よい影響を与える。

 (10)第1・2学年における図画工作の指導は,以上述べたような特色にかんがみて,もっぱら表現意欲を刺激し,進んで表現しようとする態度を養い,表現の喜びをじゅうぶんに味わせ,表現をとおして生活経験を豊富にし,自分の仕事に対する誇りと自信とを持たせることが肝要である。そのためには,技術的な指導は必要な最小限度にとどめるがよい。

 

  2.第3・4学年児童の発達

 (1)第1・2学年のときは,見たものや,見ているものをかくことよりも,経験として心の中に持っているものを表現したのが,第3・4学年になると,直接に客観界をかこうとするように漸次変っていく。したがって透明描写をするようなものはほとんどなくなる。

 (2)物の大きさの比例に漸次注意してかくようになる。それでも家などをかく場合は,幅よりも高さを高くかき,幅の割合に高さの高い家をかくと,家が小さく見えるというようなことはまだわからない。また電柱のようなものは,実際よりも太く短くかく。

 (3)物と物との関係にも漸次注意してかくようになる。

 (4)記憶しているものをかくことは,この期に至ってますます高潮する。

 (5)移動視点的の表現は,まだ幾分残っているが,漸次少なくなる。

 (6)工具とか材料とかについて関心が高まってくるから,なるべくいろいな工具や材料を使経験をさせるがよい。しかし木材とか金属とかいうような硬材料は,まだ筋肉の発達がじゅうぶんでないから,使いこなせるというわけにはいかない。

 (7)かくことや作ることに対する興味や喜びはやはり強く,表現力は著しく進むが,一方においてはできた結果に対する関心が漸次高まってきて,自己の作品や他人の作品を批判的に見る傾向が生じてくる。その結果自己の作品の不備な点を発見し,それを克服するための表現技術に対する要求が徐々に起ってくる。

 (8)理智の発達,批判力の発達に伴って,鑑賞や,造形品の実用価値,美的価値についてのいくらかの評価ができるようになる。

 (9)表現力が著しく進歩するといっても,点と点とを結ぶ直線をひいたり,直角を正しくかくとか,物の陰影をうまく表現するとか,遠近の関係をうまく表現するとかというようなことは,まだきわめて幼稚である。

 (10)以上のような発達の情況にかんがみて,この時期の指導は,表現意欲を盛んにして,創造な表現に対する喜びの情を発達させ,必要に応じて徐々に表現方法についての指導をしなければならない。

 工作的な表現は,想のおもしろさは持っているが,表現技術がそれに伴わないためじゅうぶんな表現ができないことも少なくない。したがって漸次,材料・工具の使用法,工作方法等の指導をしなければならない。しかしあまり技術的なことをやかましく言い過ぎると,かえって表現意欲を減退させることもある。

 また,批判力の発達に応じて,鑑賞や,造形品の評価に対する指導を徐々に進めことも肝要である。

 

  3.第5・6学年児童の発達

 (1)事物を客観的に見,知的に判断する力が増し,観察力が漸次鋭敏になる。したがって描写においては,形・色・明暗・陰影などを注意してかくようになる。

 (2)工作的な表現においては,理智的な働きが漸次発達し,工具・材料の使い方や構成方法もある程度理解できるようになり,合理的,計画的な表現がだんだん可能になる。また筋肉も相当発達して,金属・木材といったような硬材料も,ある程度こなせるようになる。

 (3)批判力が漸次発達して,物の実用価値や美的価値を評価することも,ある程度まで,できるようになる。この物を評価する力は,自己の作品にも向けられるから,それをよく利用すれば,自己の作品の向上に役だつ。しかしどうかすると自己の作品に対する不満足感が強くなって,表現を喜ばないようになることもある。この点はじゅうぶん注意を要する。しかしこれが強く現われるのは,中学校に行ってからであるが,その初期的徴候は,すでにこの時期に現われる。

 (4)自分の作品がだんだんわかってくるに従って,教師にたよったり,他人の作品をまねしようとするような傾向を生ずることもあるから,自主的精神を高め,自分の力で表現したものの尊さを自覚させるように導かなければならない。

 (5)学年の進むに従って,漸次社会性が増し,また他人と協力して仕事をする可能性が増してくる。この点を利用して共同作業を課し,自己の属する社会のために,自己の能力を奉仕する気持を発達させる。

 (6)以上の諸点から見て,第5・6学年児童の図面工作の指導は,努めて表現の意欲や表現の喜びを衰えさせないようにし,児童の満足する程度の表現技術の指導をし,徐々に表現力を増すと共に,造形品を評価したり,鑑賞したりする力を発達させなければならない。しかし,技術的な指導に力を入れすぎると,かえって創造力を衰えさせたり,図画工作はめんどうな,むずかしいものだとの感をいだかせて,図画工作料に対する興味と魅力とを失ってしまうことがあるから,この点はじゅうぶんに注意し,技術は手段であって目的ではないことを忘れてはならない。