第一章 序  論

 

第一節 健康の意義

 

 学校において児童の保健計画をたてるには,まず第一に健康とは何かということと,生活における健康の重要性についてじゅうぶんに知らなければならない。

 それでは,健康とは何かということであるが,これを一言で言い表わすことは困難である。健康とは,単に病気ではないという状態だけではなく,生活を営むことのできる心身ともに完全な状態にあることをいうのである。したがっで健康ということは,次のようないろいろの条件を,備えているものであると考えられる。

l 毎日の仕事を円滑に遂行することのできるような体力,持久力,忍耐力と身体の環境に対する適応性があって,毎日の疲労はよく熟睡することによって回復することができる。

2 身体が順調に成長発達する。必ずしも毎日同じ量ではないが,成長期を通じて身長,体重等が増加する。

3 いつも食欲があり,楽しみながらよく食べられ,何をどれだけ食べればよいかを知り,これらの食物を適当に取るような習慣態度ができている。

4 治療しなければならないような病気を持っていない。もし,病気を持っていても,治療することの必要のない状態にあって,何の苦痛も感じない。たとえば,むしばがあって,そのすべてが処置されているような場合である。

5 姿勢がいつも正しく保たれている。

6 自分の健康についてはもちろん,他人の健康についても関心を持ち,そして自分自身の健康に注意し,また他人の健康についても協力する態度ができている。

7 自分の健康,子孫の健康を増進させる科学的な理由を理解し,そしてこれらの原理に基いて行動する意志を持っている。

 以上のようないろいろの条件の備わっているものが,健康であるということができよう。したがって,健康は,われわれの生活の全領域にわたって深い関連のあるものであって,健康は,すなわち生活であり,それは,発育であるということができ,また,それは各個人の生活において機能的なものであるということができる。

 健康は,特定の場所,時期に限られたものではない。すなわち,家庭とか,学校とかいう一つの場所に限られるものではなく,人間の生活するあらゆる場所において考えられなければならないことであり,また,幼年期とか青年期とかに限られるものではなく,母の胎内から,生れてから死ぬまでの一生を通じて,考えられなければならない問題である。

 わが国における国民の健考状態は,全般的にみて,文明諸外国に比してよい状態にあるということはできない。すなわち結核の死亡率・病気にかかる率は高く,急性伝染病・寄生虫卵保有者や,むしばのある者が多く,また社会一般の衛生状態も悪く,国民の衛生思想も低い。

 小学校の児童は発育の過程にあり,病気に対する抵抗力も弱く,また自己の健康に対する認識も浅い。

 小学校時代は望ましい健康習慣をうえつけ,学校・家庭・社会生活を通じて,健康生活に対するよき理解を与えるには特に適した時期である。

 小学校における保健計画の目的には,児童の健康を保持増進するだけでなく,児童自身が現在はもちろん,将来も自身の健康のために何をなすべきか,何が必要であるかについても指導することが含まれなければならない。したがって,小学校における健康教育は,教科として取扱うだけでなく,あらゆる機会を通じて健康に関係ある知識・習慣・態度を向上させるような経験を与えなければならない。すなわち,小学校における保健計面の特殊な目的は,各個人における健康に関する資質を向上させることにあるといえよう。

 

第二節 学校保健指導及び協力機関の編成と管理

 

一 学校保健関係職員

 小学校児童の健康を,保持増進するためには,合理的な保健計画をたて,これを実行に移すことが必要である。

 小学校において適切な保健計画をたて,またこれを実施に移すためには,それに必要な職員をおき,その職員の責任分担を明らかにしなければならない。このための職員としては,教師はもちろん,学校医・学校歯科医・保健主事・養護教諭等をおき,それぞれその責任分担を定め,学校保健計画がよき協力のもとに運営できるよう考慮しなければならない。

 次に,学校保健関係職員の職務を述べる。

(一)学校長――学校保健計画におけるその職務

 学校長は児童および教職員の健康と保健活動に関心を持ち,また学校の状態が児童および職員の健康に及ぼす影響を理解しなくてはならない。そして教職員の健康教育,最も望ましい保健活動の助長に最適な学校の状態の維持,じゅうぶんな保健事業の促進援肋と保健問題に教師の関心を高めるようにすることなどに,絶えす積極的に働くべきである。各種の保健機関と協力して学校保健計画をたてることと,これらの目的達成のために各個人の職務を明らかにすることは,何よりもたいせつなことである。学校長は学校の保健上の必要とそれに要する資料について,卒先して地域社会にじゅうぶん認識させ,保健関係機関の協力を求める責任がある。

 児童および職員に対して,完全で健康な学校環境を提供することは校長の責務である。また優良な学校施設の基準に精通して,施設とその事業計画を維持するためそれを評価するにあたり,学校医・学校歯科医・地域社会の保健機関の助力を求めるべきである。新しい学校施設や古いものの近代化を企画する際は,安全で健康な生活の助けになるような衛生施設と,その他の条件において,最高可能の標準にかなうような施設の様式を推薦する適切な助言を採用しなくてはならない。児童および職員が,与えられた施設や用具を協力してじゅうぶん利用しているか否かを確かめ,かつ精神的,情緒的,社会的に健全な環境を学校内に作りだす助けをすることは,学校長の仕事である。校長は,学校保健計画を絶えず評価するための措置を講じなくてはならない。これは,保健主事,一般教師,学校医,養護教諭,その他健康状態や個人と団体の保健活動における改善の結果を観察する機会を持つている人々からの観察報告を集めることである。

学校長の職務は次のように要約することができる。

1.学校職員に対して学校保健計画を提出して説明し,保健主事その他のすべての職員の仕事の責任を明らかにする。

2.保健主事を命じ,その仕事のための時間を割り当てる。

3.学校保健計画の諮問機関として学校保健委員会を組織する。

4.学校医・学校歯科医・養護教諭を推薦し,その仕事を割り当てる。

5.学校保健計画について地域社会の理解を深め,かつその計画を支持協力するよう指導する。

(二)学校保健主事――学校保健計画におけるその職務  小学校における保健活動の調整は,学校保健計画を効果的に発展させるためには必要欠くべからざるものである。この調整の仕事にたずさわるものを任命することは,各学校においてきわめて緊要なことである。

 学校保健主事は,各学校における保健計画に対し,これを管理監督する責任を持つべきである。保健計画は,学校保健委員会と保健主事が企画しなくてはならない。学校保健計画の詳細は,この実施要領の諸原則にしたがって遂行されるべきでものである。保健主事は,すべての関係教職員の能力を利用して,その計画の運営に責任を持つべきものとする。

 大多数の小学校では保健主事の地位は,定時制のものになる。こういう仕事に対して最上の訓練を受けた職員にその職務を割り当てなくてはならない。体育科の教師・要養教諭・その他学校保健計画の管理について専門の経歴を有するものが,この地位に適する。保健主事の職責をいっそう明らかにするため,調整の目的と学校保健主事の職務とを次に説用する。

1.保健調整計画の目的

(1) 教職員全体の保健活動の調整

(2) 学校保健活動・公衆保健活動・その他の地方地域社会の諸機関との調整

(3) 児童および教師に対する保健指導と教授計画をたてて,保健についてじゅうぶんな理解と認識を持たせるようにすること。

2.保健主事の職務 (1) 学校保健委員会に参加して次の仕事を行う。 イ 学校保健計画の作成

ロ 具体的の問題を処理するため教師および児童から特別委員を定める。

(2) 適当な保健所職貫に依頼して学校環境条件の定期的調査を行い,その結果改善すべき事項について学校長と相談する。

(3) 教職員に対して学校保健計画について関心を高める。

(4) 教師およびその他の学校職員のために,健康教育に関する現職教育計画の編成をする。

(5) 学校医・養護教諭および保健所長と協力して,児童の身体検査の実施計画をたてる。

(6) 児童の健康異常の発見,児童の学習計画の調整,医療機関との連絡等について養護教諭および教師に協力する。

(7) 健康に関して児童の出席,欠席,および拒否の事項をつかさどる。

(8) 健康記録の整備に関し,養護教諭に助力を与える。

(9) 救急処置のための計画に援助を与える。

(10) 健康安全に関する調査を行う。

(11) 保健事業を教育と調整させるための計画の指導をする。

(12) 学校保健委員会の助力を求め,健康教育の教育課程の編成について指導する。

(13) 児童の疲労防止対策について援肋する。

(14) 栄養計画の向上をはかる。

(15) 精神的保健計画の助長をはかる。

(16) 学校保健計画について対社会的に活動する。

(三)養護教諭――学校保健計画におけるその職務  養護教諭は,学校教育法第二十八条第五項にしたがって,児童の看護および保護を受け持つものとする。その職務は次のようである。

1.学校保健事業に対する方策と計画を発展させ遂行させる助けをする。

2.学校身体検査の準備をし,その実施を援助する。

3.学校医・学校歯科医・教職員らと協力して,身体検査の結果の処理を計画し,実行する。

4.学校医の指導のもとに保健所と協力して伝染病の予防について補助する。

5.安全計画を実施するために具体案を立て,かつ突発事故による障害,急病,その他救急処置に助力する。

6.学校給食については,炊事場の清潔の維持,調理場の清潔,給食準備の際の清潔,食物の栄養と衛生について助言を与える。

7.安全で,健康的で,魅力に富んだ学校環境の設置基準を精細に承知し,この基準に達しかつそれを維持できるよう実際的な援助と助言を与える。

8.学校健康相談の準備をし,その実施を援助する。

9.健康教育に協力する。

10.健康に関する記録を整備し,この資料を有効に活用するよう教師に助言を与える。

11.教職員の健康保持のため必要な助言を与える。

12.学校保健事業を評価するため資料と情報を入手したり解釈したりする助けをする。

13.教師・児童および両親との接触によって知悉した事項が,学校の環境の健康的調整に関係があると認められたときは,その旨,学校長と学校医に報告し,その解決に助力する。

14.教職員が利用しうるよう,地域社会に現存する保健および社会的資料に関する情報を確実に収集しておく。

15.必要に応じ,児童の家庭訪問をなし,健康指導について助言を与える。

16.公衆衛生全般についての理解を深めるために,保健婦と連絡する。

(四)学校医――学校保健計画におけるその職務  学校医は,学校保健計画の全体を熟知していなくてはならない。そして学校保健計画を遂行するために,他の学校職員・保健機関・その他のものと緊密な調整をとらなくてはならない。また学校保健委員会の仕事を行い,同委員会運営の中心指導力にならなくてはならない。

 学校医の職務は,次のようなものである。

1.全般的な保健計画を企画する上に学校長および保健主事を援助し,かつその実施について専門的に職務を遂行する。

2.児童の身体検査を既定の計画にしたがって実施する。

3.家庭および一般社会の保健機関に学校保健計画に対する責任をじゅうぶんに理解させ,また必要な協力を促す。

4.健康と行動に現われる徴候の観察のしかた,発育生長の検査方法,医学的な注意を必要とする症状の報告のしかた等について,医療にたずさわらない職員の現職教育について手順を定める助けをする。

5.保健に関係を有するすべての分野において教育課程企画委員会に参加し,学校身体検査,欠陥のきょう正,免疫,および疾病の経験その他の事がらが児童の健康教育の内容として建設的に活用されているか否かを確かめる。

6.児童の個人的な健康問題に関して教職員と個別的および集団的に相談する。

7.学校保健事業の定期的評価に対する事業上の資料を準備し,説明する助けをする。

8.児童および教職員の影響を及ぼす環境上の条件を敏感に感得し,安全で健康的な学校生活に必要な物的条件を与えようとする学校長の努力に対して,助言者および監督者として援助する。

9.学校保健計画の内容が児童の保健に役だつように,すべての教職員とともに絶えず努力する。

1O.学校保健計画を評価するにあたって,身体検査の結果や,両親・養護教諭・教師および児童との面接の結果得られた保健上の習慣態度について資料を提供し,説明して保健主事を援助する。

11.学校身体検査に関連して両親を教育すること,必要な事後措置を取ること,病気を予防する手段をとること等にたずさわる。

12.学校保健措置に関係のある法令を学校長に説明したり必要な改変を行うために協力する。

13.有効な事後措置をとるために,児童の疾病の治療について民間の医師・保健婦および医療機関その他専門家の援助を求め,また個々の児童の養護については,児童の有する欠陥について共通の理解を持つため教職員や民間の医師その他の専門家と必要な報を交換する方法をきめる。

(五)学校歯科医――学校保健計画におけるその職務  学校医の職務に準じ,主として歯科衛生に関する職務を遂行する。 (六)一般教師――学校保健計画におけるその職務 1.担任学級児童の健康増進をはかる。

2.受持の児童について毎日観察を行い,特別な注意を要する児童はこれを養護教諭に報告する。

3.担任学級児童の健康教育の指導をする。

4.保健主事,養護教諭に協力する。

5.学校保健計画の方針の樹立につき学校長,保健主事,およびその他のものに進言する。

二 学校保健運営組織

 学校保健指導の計画の樹立と運営を適切にし,児童の健康増進をより効果的にするためには,学校保健委員会を設け,学校保健計画の樹立,運営に協力させることが必要である。

(一)学校における保健委員会

 委員会は,学校長・P・T・Aの保健委員・保健主事・学校医・学校歯科医・養護教諭・一般医師・教師・児童保健委員等で組織する。

 この委員会は,毎月一回開催し,必要に応じて小委員会を開くことが望ましい。委員会の決定事項は必ず実行するという強力な権限を持たせるようにしなければならない。この委員会の協力事項としては,年間の学校保健事業計画・校内保健施設の改善,整備・保健関係法規の遵守.保健関係記録の作成等があげられる。

(二)郡市区における学校保健委員会  委員会は,学校の保健委員会の代表者・保健所長・児童福祉委員・教育委員・教育委員会出張所長・教育課長・市町村衛生係長その他学校保健関係団体の長等で組織するのが望ましい。

 この委員会は,その地区に即した学校保健施策の樹立,各学校保健委員会との連絡,各学校の保健活動に関する調査資料を収集,年聞学校保健事業の計画,公衆衛生との連絡等について調査研究する。

(三)都道府県における学校保健委員会  委員会は,郡市区の学校保健委員会の代表者・教育委員・教育長・指導主事・衛生部長・学校保健関係団体の代表者・学識経験者等で組織する。この委員会は,地方教育行政において,学校保健問題を強力に推進するよう努力し,また一般衛生行政と連絡を密にするよう尽力する。 三 公衆保健組織

 公衆保健に関する最高責任者は厚生大臣で,厚生省には公衆衛生,医務,薬務等の各局があり,もっぱら公衆保健行政事務にあたっている。また社会,保険,児童の各局の業務も公衆保健と大いに関連がある。

 各都道府県では知事の下に衛生部があり(東京都では衛生局),さらにその出先機関として保健所があって担当地区の保健行政,保健指導に努力している。

 厚生省直轄の診療機関として国立病院,国立療養所があるし,公衆保健に関係ある民間団体としては,結核予防会,母子愛育会,済生会,日本赤十字社等がある。

(一)保健所

 保健所は昭和十二年保健所法によって,保健指導機関として設置されたのであるが,その後多くの変遷を経て昭和二十二年四月七日にはこれを画期的に拡大強化すべき総司令部の覚え書が提出されたのである。

 現在保健所は全国で689箇所あり,だいたい十万に対して,一箇所存在する事になるので,市又は大きい町にはほとんど設けられている。

 それによって在来警察署の取り扱っていた衛生警察の仕事も今回全部保健所に吸収されたために,保健所の受け持つ業務の範囲は,取締り方面から指導方面,さらにまた診療方面をも加えて広範なものとなった。

保健所で日常行われている基本的な仕事は,次のとおりである。

(1) 公衆衛生看護事業

(2) 母子衛生

(3) 人口動態統計

(4) 細菌検査および各種試験検査業務

(5) 口腔(くう)衛生

(6) 栄養改善事業

(7) 環境衛生その他一般衛生

(8) 衛生教育

(9) 医療社会事業

(10) 伝染病予防

(11) 結核予防

(12) 性病予防

 保健所長はその地区の保健衛生上の責任者の位置にあり,その重要性を近時大いに増したのである。

 保健婦は,保健所の手足ともみるべき重要なメンバーであって,そのおもな任務は,各個人および家庭の健康を保持増進するためのよき相談相手となることである。したがって,重要な日々の仕事は,病者,妊産婦,乳幼児等のある家庭を訪れ,(1)生活環境,(2)栄養の改善,(3)急性伝染病,結核その他の病気の予防,(4)家庭における看護の指導等につき注意を与え,また育児や妊娠中の摂生について入念な指導をすることである。また地方によっては学校児重の養護に協力しているものもある。

(二)病院,診療所  病院,診療所は医師または歯科医師が公衆のために医業を行うところであり,病院は患者を収容して,科学的な医療を提供するところである(医療法,医師法,歯科医師法)。病院には,国立,都道府県市町村立,公益法人立,私立のものがあり,それぞれの立場で活動している。

 病院は医師を中心として,看護婦が協力し,その他の診療の補助員.管理職員で組織され,(1)患者の世話はもちろん(2)医師,看護婦および医療従業員の教育(3)疾病の予防および健康の増進(4)医学の研究を行って公衆保健に活躍することを理想とする。疾病の対象により総合病院(内科・外科・整形外科,眼科・耳鼻咽喉科を含むもの)各診療科の一つまたは二つ以上を存する病院があり,特殊な病院として急性伝染病を隔離収容する伝染病院,癩(らい)を隔離収容する癩療養所,国民病とまでいわれる結核性疾患を収容する結核療養所,精神衛生に関係の深い精神病院,難治病である癌(がん)に対する癌病院,温泉治療を目的とした温泉療養所等がある。

 伝染病院は市町村の責任で,結核・癩療養所は主として国営で,精神病院は県の責任で運営されている。なお国立病院は,旧陸海軍病院が一般国民に解放されたもので適正医療の普及を目標としている。

 病院における看護と給食が従来じゅうぶんでない傾向にあったが,傷病の治癒(ゆ)には,患者の環境と生活の合理的な管理により,体力気力を回復させることが必要であるから,看護業務の向上と給食の改善が要望されている。医師,看護婦の教育の水準が引き上げられ,また病院の管理の指導が行われるようになり,傷病による死亡率,治療日数の低下,治癒率の向上が期待されている。なお医療費の問題については,各種の社会保険の普及と改善と社会保障制度の進展が企画されている。また貧困者の傷病者の治療の完成を期するために社会事業上の活動が期待されている。

(三)児童福祉委員会,児童福祉司,児童委員  児童福祉法の規定によって中央,地方に児童福祉審議会がおかれ,児童・妊産婦等の福祉に関する事を調査審議し,厚生大臣や府県知事の諮問にも答えることになった。また各都道府県には,児童福祉司といって児童の福祉増進に関する仕事に専従する職員ができた。この福祉司は,一種のケース・ワーカーであって,不幸な児童の個々の例を一つ一つ処理していくことが,おもな任務であるが,目下,これらの職員の数ははなはだ少数なために,じゅうぶんな活動ができないので,各市町村に児童委員がおかれ,これに協力する事になっている。児童委員の仕事も福祉司の仕事と全く同じである。児童福祉司も児童委員も各自担当地区の児童の状況をよくするためには,学校と密接に連絡をとらなくてはならないが,学校側もまたこれらの機関を活用する必要がある。児童委員は目下のところ,民生委員が兼ねている。 四 学校保健と公衆保健

 学校保健は,学校という特殊な環境におかれているものを対象としているから,学校教育と分つべからざる関係にあることはいうまでもない。わが国ではもっぱら教育関係の分野からこれが取扱われているのは,このような理由であろうが,また一方からいえば,学校保健は当然公衆保健の一分野であって,この方との関係を切り離すわけにはゆかないことも明白である。学校が社会から孤立したものではなく,かえって社会から強い影響を受けている以上,保健問題に関しても同様に,一般社会から種々の制約や刺激を受けるのは当然であろう。学校保健は公衆保健の進展に伴って向上し,その退歩とともに衰えているのは事実が示している。しかしまた,反対に,公衆保健の向上進歩が学校保健のそれにまつところがまた大きい事もいうまでもない。ことに公衆保健の基礎的問題である健康教育の面においては,公衆保健は学校保健に期待するところが非常に大きい。健康教育の普及徹底には,学校は最も大きな効果をもつところだからである。結核予防についても同様の事がいえるので,日本の結核予防は,青少年の発病防止に,その重点がおかれるべきだが,これらの青少年の大部分を包含している学校において,結核予防対策が成功したとするならば,日本の結核問題の大きな部分が解決されたといってもよかろう。

 このように学校保健,公衆保健の相互の関係はきわめて密接なものであるが,さらに考えなければならぬ事は,現状では両者ともに人的,物的にじゅうぶん整備されていないということである。したがって二つのものはいっそう協力して互にその欠陥を補ってゆく必要があるので,学校保建は文部大臣に,公衆保健は厚生大臣に所管されるというような行政の系統上の違いによる不便は,この際当事者間の熱意と協調によって,取り除かなけれならない。

 学校保健を実際に担当している者は,その地区の保健所とは必ず連絡すべきである。保健所は目下建設の途上にあるので,完全に整つているとはいえない。しかしその地区の保健指導の中心機関として多数の専門家を有しているのだから,学校としてもこれらの専門家の技術的援助を受ければ,自分の対策を完全なものにすることができるだろう。

 たとえば,身体検査にあたっては保健所に援助を依頼する。身体検査は現在ではX線撮影を必要とする場合が多い。ところがその装置を有する学校はきわめて少ないだろうが,保健所はその設備をもっているし,その利用を望んでいる。両者の協力は簡単にできるわけである。またこれらの検査によって結核患者が発見されたとすれば,保健婦はただちに訪問するだろう。学童の急性伝染病を予防するには,たえす保健所と連絡して,その情報を得ておかなくてはならない。この他寄生虫卵の検査,駆虫,トラホーム予防,消毒,清掃,昆虫駆除等には,常に保健所を利用し,協力することが望ましい。

 要するに保健所は,公衆保健向上のためのサービス・ステーションであるから,学校でも,これを利用し,これと協力することが学校保健自体のためでもあり,公衆保健のためでもあるのである。

 

第三節 学校保健に関する法令

 

 学校において合理的な保健計画をたてるには,保健計画に関係のある法令についてよく知ることが必要である。

 これらの法令制定の精神をよく理解して,これを守るように,これを基として学校保健計画をたて,個人の衛生はもちろん,社会公衆の保健向上に寄与するように努めなければならない。次に学校保健計画に関係のある法令を掲げ,参考に供することとする。

1 教育基本法第一條

2 学校教育法

3 学校教育法施行規則

4 教育委員会法

5 教育委員会施行令

6 教育委員会施行規則

7 高等学校設置基準

8 学校医および幼稚園医令

9 学校医職務規程

10 学校歯科医および幼稚園歯科医令

11 学校歯科医職務規程

12 学校身体検査規程

13 学校伝染病予防規程

14 学校清潔方法(文部省訓令)

15 学校衛生統計調査規程

16 伝染病予防法

17 結核予法

18 寄生虫病予防法

19 トラホーム予防法

20 性病予防法

21 予防接種法

22 保健所法

23 食品衛生法