五 幼児の一日の生活

 

1 幼稚園の一日

 

 幼稚園における幼児の生活は自由な遊びを主とするから、一日を特定の作業や活動の時間に細かく分けて、日課を決めることは望ましくない。一日を自由に過ごして、思うままに楽しく活動できることが望ましい。そして、その間に教師は幼児のひとりびとりに注意を向けて、必要な示唆を与え、個個に適切な指導をし、身体的にも、知的、感情的にも、社会的にも、適当な発達をはからなければならない。幼稚園の毎日の日課はわくの中にはめるべきでなく、幼児の生活に応じて日課を作るようにすべきである。次に標準的な一日の保育の内容を考えてみよう。

 登園 ―― 風通しよく窓の開かれた保育室、気持よく清掃され、すべての遊具等が適当に配置されている庭に、先生の笑顔(えがお)に迎えられて幼児が登園して来る。

 朝の検査 ―― 教師は登園して来た幼児の顔色・目つき・皮膚の異常の有無を調べ、熱があったり、かぜ・百日ぜき・はしか等の伝染病の疑いのある時は直ちに帰宅させる。

 自由遊び ―― 朝の検査が済んだら、園庭や保育室で幼児にとって楽しい自由な活動が始まる。幼児が思う存分全身を動かして愉快に遊び、のびのびした精神と身体を養成することができるように十分な設備を整えておく必要がある。また教師はこの時間に幼児の個性をよく知り、各自に必要な指導を与えるべきである。

 幼児を一室に集め、一律に同じことをさせるより、なるべくおのおの幼児の興味や能力に応じて、自らの選択に任せて自由に遊ぶようにしたいものである。興味のないことがらを教師が強制することは好ましくない。自己表現・自発活動を重んじ、草花の栽培、動物の飼育やそうじの手伝い等を楽しむ習慣をつけなければならない。

 間食と昼食 ―― 間食と昼食の前には、必ず手を洗わせ、うがいをさせ、台ふき、弁当運びなどをさせる。食べる場所は保育室に限らず、遊戯室も用い、また気候のよい時節には、庭園や近くの公園などに、木陰を求めて食事をとらせるのも、幼児たちを楽しませる。いずれにしても、ゆっくり、静かに話し合いながら、楽しい食事をさせるのがよい。

 間食は、午前はくだもののジュースやくだもののような軽いもの、午後はできれば牛乳などの少しおなかにもつものにして、日に二度与えるのがよい。

 給食することがむずかしければ、手近にととのえられる材料をじょうずに使って、暖かいおしるのようなものでも与えるようにしたい。

 休息と昼寝 ―― 間食ののち十五分ぐらいの休息と、昼食後、約四、五十分間手足を伸ばして昼寝をする。寝台やふとんがなければ、ござを用いてもよい。休息・昼寝の時間は、季節や年齢によって異なる。窓には、暗幕があれば暗幕を、なければカーテンだけでもひいて暗くし、雑音を防ぎ、よく眠れるようにする。目をさまさせる時刻には、明朗な曲のレコードをかけるか、軽く背中をさすって起す。幼児がぐっすり眠っていても、一定の時間を過ぎたら起すようにした方がよい。

 集団遊び ―― ハンカチ落し、スキップ鬼のような集団遊びは、幼児たちに集団行動の楽しさを味わわせ、協同及び自律の態度を養う。またこの時間に、お話・レコード鑑賞・紙芝居・指人形芝居などをするのも一方法である。

 排便・排尿(にょう)―― 健康の習慣上、排便はなるべく定時、たとえば登園前に家庭でさせることが望ましい。排尿(にょう)は登園して来た時、昼食・昼寝・帰りの前等定められた時間にする方がよい。

 帰りじたく ―― 保育室に入り、みんなそろって「さようなら」の歌などを歌い、家庭への通知や連絡帳、持ち帰るべき製作品等を渡し、あすの予定事項があれば話して、弁当箱・帽子・オーバー等を忘れないように持たせる。母親が迎えに来たら、その日のできごと、注意すべきことを話す。

  2 保育所の一日

 

 年少の幼児の遊びはひとり遊びが多いが、やがて、自然に二・三人のグループを作って遊ぶ。こんな年少児を受托する保育所では、幼児のための楽しいふんい気を作ってやり、その中で楽しく遊ばせる。歯みがき・手洗い・排便・昼寝等のような日常生活の良習慣を養うように努める。

 次に標準的な一日の保育の内容を述べるが、だいたいは幼稚園と同じであるから、重複するところは省略する。

 登園 ―― 帽子・オーバー・くつを脱いで所定の場所に置くことは、手を添えても幼児にさせる、母親が送って来た時などを利用して、家庭との連絡をとる。

 自由遊び ―― 遊具・おもちゃは年齢に応じたものをたくさん設備する。年少の幼児に譲り合うことを期待するのは無理だからである。また年長児に遊びを妨げられたり、遊具・おもちゃを取り上げられたりしないように配慮する。

 間食と昼食 ―― 保育所では午前・午後の二回間食を与えることが必要である。幼児はおのおの、自分のエプロン、前かけ、あるいは胸かけを用意し、間食・食事の時には必らず用いるようにしたい。楽しく歌などを歌いながら友だちのしたくが終るのを待ち合わせ、「いただきます」を言ってそろって食べる。年少児は口の中に食物を入れたまま歩きまわったりしないようにして、よくかむ習慣をつけるように注意する。

 休息と昼寝 ―― 間食後の休息と昼食後の昼寝は、四季を通じて全部の幼児に必ずさせた方がよい。寝具は備え付けのものがなければ家から持って来させ、各自のたなか箱・こうり等を備え付けて入れておく。ふとんを敷き、まくらを出し、上着を脱ぐ等のことも、ほとんど先生がしてやるような場合でも、幼児に自分でやっているという気持をいだかせるような手伝い方をする。寝かせる時は、エプロン、上着類を脱がせ、胸のボタンをはずし、ゆるくして寝かせ、ふとんを掛ける。睡眠時間は、寝具の用意、片づけの時間を加えて、一時間半ぐらいが適当である。

 排便・排尿(にょう)―― 排便は一日に一回、なるべく定時にし、排尿は早めにさせるようにする。

 手洗所の近くに記録記入紙を用意し、排便、排尿の回数、特に異常の場合等を記入する。ズロースの上げ下げは自分でさせる。そのためには上げ下げのしやすいものを用いさせ、また決して急がせてはならない。

  3 家庭の一日

 

 家庭の生活は幼稚園や保育所の生活と矛盾があってはならない。母親は幼稚園や保育所の保育に協力し、また家庭の一員としての必要な教育をしなければならない。すなわち家庭における幼児の生活は、両親はじめ家族の愛の中に、子供としての人格を認められつつ、心身ともに健やかに、朗らかに、自由に、自分のことは自分でしつつ、のびのびと生活ができるようにし、また家の手伝いをさせなければならない。家庭であまり無関心で放任されることもいけないし、あまり厳格に規則や時間で束縛することもよくない。

 起床 ―― 決まった時間に起すことが健康の習慣の基礎として必要である。だいたい、夏は六時半、冬は七時ごろが適当と思われる。着物を自分で着替え、寝巻は自分で片づける習慣をつける。

 排尿 ―― 起きたらすぐ排尿させる。

 洗面 ―― 歯ブラシで歯をみがかせる。歯みがき粉はのどにはいるおそれがあるから、練り歯みがきか塩水を使わせる方がよい。二、三歳児には、必ず水歯みがきか塩水を使って、飲みこまないように注意して使わせる。顔と手をていねいに洗いよくぬぐわせる。

 朝のあいさつ ―― なるべくみんながそろって落ち着いたところで「おはよう」のあいさつをする習慣をつける。

 食事 ―― 食事の時の注意は、だいたい幼稚園における昼食の項と同じ。幼児は好ききらいがあったり、おかずだけ食べたり、口に入れたまま物を言ったり、口に入れたままじっとしていたり、よくかまなかったりするから注意してやる。

 排便 ―― 人間は一日に一回規則的に排便することが健康のためによく、幼児たちには、なるべく朝排便する習慣をつけるのがよい。

 登園 ―― オーバー・くつ・弁当袋など幼児が自分で始末できるようなものを用い、また場所を低いところに定めておいて、幼児が自分で取り出し、用意ができるようにする。二、三歳児などのためには、手を添えてくつなどはかせるが、自分でやるという気持を養うようにする。母親の笑顔(えがお)に送られ、「行ってまいります」のあいさつをして家を出て、近所の友だちを誘い合わせて登園する。

 帰宅 ―― 「ただいま」のあいさつをする。オーバー・くつ・弁当袋など所定の場所に自分でしまい、必ずうがいをさせ、手を洗わせる。事情が許す限り、母親は幼児が幼稚園から帰る時間には家にいて迎え、連絡帳や通知等を受け取り、幼稚園でのできごと、身体の異常の有無などをたずねるのが望ましい。幼児が覚えた歌をいっしょに唱ってやったり、また質問に答えてやる。

 遊び ―― 母親とのお話が済んだら遊びに出るかまたは家の中の子供べやで遊ぶ。子供べやを別に設けることはむずかしいが、外廊下の片すみにでも、子供専用の場所を作り、手製の本だな・机等(みかん箱等を利用して)を備え、幼児だけの小さい世界を与えてやれば、自然に整理・整とんのよい態度と習慣を養成できるのである。また幼児はなるべく幼児どうしで遊ばせることが必要である。

 手洗いと入浴 ―― 身体の清潔は幼児の健康上特に必要なことで、遊びから帰ったら、必ずうがいをし、手足をていねいに洗い、夏なら毎日お湯をわかして行水をさせ、四季を通じて、なるべく入浴をさせる。

 夕食 ―― だいたい夕食の時間を定め、その前に遊びから帰るように習慣づける。手を洗い、できる範囲で手伝いをする。

 勤めに出ている父親もなるべく夕食時間にまに合うように帰って来て、一家そろってなごやかな食事をすることが望ましい。

 団らん ―― 夕食後しばらく家族の者が団らんをすることは、家庭・両親・兄弟への愛情と信頼の源泉にもなることであるからぜひ行いたい。この時いつも幼児を中心にしたり、おだてたり増長させてはいけない。また一週間に一度、土曜日や祭日の晩などは、一家そろってお話とか歌とか遊びをして楽しむのもよい。家族の誕生日などには特にそうありたいものである。

 就寝 ―― 季節によって多少の変動はあっても、睡眠時間は十分にとりたい。入園当時は疲れるからなるべく早く寝かせることがたいせつである。寝る前には、排尿し、口をすすがせる。そして静かな気持で寝につくようにしてやる。

 遠足 ―― 日曜日・休日などには、できるなら一家そろって、さもなければ家族のだれかにつれられて、田舎の親類や、名所旧跡など、幼稚園・保育所では行けない所を訪れるようにしたい。

 宗教教育は家庭で行われるべきものである。信仰心のあつい家庭に育てられれば、おのずからその感化を受けるであうう。神仏に対する朝夕の祈り、食前の感謝などのほかに、日曜は教会・寺院等で開かれる日曜学校に行くとか、教会の礼拝に参列するとかして、自然に信仰の素地をつちかってやることは望ましい。また先祖の祭りや命日の墓参なども守りたいことである。