単元二 東洋の文化はどのように拡充したか

 

要 旨

 漢の衰亡の後,三国・西晋時代にわたって中国の政治力が弱まると,北方または西方よりする外民族の中国侵入ははなはだしくなり,遂には漢人の王朝を揚子江の南に追って華北を制するに至った。華南・華北の対立の形勢はここに開け,やがて華北に北族の国北魏が起り,華南に漢人の国宋が起ると,時代は南北朝となった。百数十年にわたる南北朝の政局はすこぶる安定を欠いたが,文化史の面からこの時代を見ると,江南には,豪族を中心とする文化が展開し,漢文化の中心は江南に移るのを呈した。一方,北方でも,北族の王朝がよく漢文化の長所を取り入れる態度を示した上に,残留の漢人は異民族を同化するのに大きなはたらきをなしたから,文化は必ずしも破壊されず,かえって清新の気風を添えた。

 かく異民族の圧力のもとにさらされながら,かえってその内容を更新して行った漢文化の根強さは驚くべきものがあり,また北方民族の文化史上における役割も看過しがたいものがある。

 華南・華北の別なく盛行した仏教の影響は極めて大きい。インドから西域を経て仏典が中国にもたらされ,名僧も来たり,教理も明らかとなり,宗派の別も生じた。その組織だった教理は中国の思想界に大きな影響を与え,道教発生の原因ともなれば,またもろもろの学問を発達させる動機ともなった。

 三百数十年にわたる中国の分裂は隋の出現によって終りを告げた。隋は北朝の外戚の出であっただけに,北朝の制度を多く受け継いだが,その目的としたところは南北の統一にあった中国の南北を結ぶ大運河の開通はその具体的な現われと見てよい。隋が第二代の煬帝の失政によってあえなく崩れた後,その政治形体や政策を受け継いだのが唐であった。

 実に唐代は久しく不振であった漢人が,再びその威力を四隣に示した時代である。その武威の及ぶところ,北ではトルコ人の国突厥を倒し,西では古くから独立していた西域の漢人植民地高昌を併せ,チベット・タングート等を討ち,南ではインド=シナ北部を領有して,更に南部の占城・真臘をも通貢させ,東では高句麗・百済を滅ぼした。

 外征の進展につれてインド・ビルマ・マレー及び東インドのことも唐に知られた。これらの地域には仏教やヒンズー教が拡がり,その造形美術にもはなばなしいものが残された。西南アジアにマホメットが起って,政治・宗教の両面からアラビア人の統一を成しとげたのもこのころである。アラビア商人が海上より東西の世界を結びつけたことは注目に値する。

 唐は外征によって国威を輝かしたばかりではなく,高祖・太宗の間においてあらゆる制度をととのえ,人々の生活や文化も向上した。唐の制度・文物に接した四隣の国々はその刺激によってにわかにめざめた。唐代における日本・新羅・渤海・チベット・南詔等の飛躍的な発展は,あたかも大きな燭光によって部屋の隅隅までも明かるく照らされたさまにもたとえられる。

 唐文化の隆昌は,玄宗の開元・天宝の世に極まった。だがその文化の真面目は単に中国固有文化の発展の上のみにあったのではない。絶えない外人往来によって,唐の文化は著しく国際的性格を帯びていた。ことに著しいのはペルシアを中心とする西方文化の影響であって,それは宗教の面にも,美術・工芸・音楽・演技などの面にも,また服飾や生活様式の面にも看取される。

 唐の文化が西伝して歓迎されたことも容易に想像されるが,ことに重大なのは中国の製紙法が西方に伝わったことである。

 思うに漢代に一応実を結んだ中国の文化は,外民族の侵入を契機として華北・華南の両地域にそれぞれ特殊の発展をとげ,隋・唐代に進んで,その両者を合した上に,更に国際的性格を備えた。日本が西方文化とのつながりを持つに至ったのも唐との交通によってである。

 

目 標

 

教材の範囲

 

学習活動の例

参考書の例

 一. 市村■(せん)次郎        東洋史統 巻一・巻二         冨山房     昭14・15

                     東洋中世史 一(世界歴史大系W)    平 凡 社   昭9

                     東洋中世史 二(世界歴史大系X)    平 凡 社   昭9

                     漢魏六朝時代 (世界文化史大系Y)   新 光 社   昭11

                     隋唐の盛世 (世界文化史大系Z)    新 光 社   昭9

    和田 C             支那 上(東洋思潮)          岩波書店    昭10

    ラトゥレット 岡崎三郎訳     支那の歴史と文化 上         生 活 社   昭15

    岡崎 文夫            魏晉南北朝通史            弘 文 堂   昭7

    和田 C 編           支那官制発達史 上          中央大学    昭17

    仁井田 陞            唐令拾遺               東方文化学院  昭8

    仁井田 陞            那身分法史              東方文化学院  昭17

    加藤 繁             支那経済央概説            弘 文 堂   昭19

    岡崎 文夫            魏晉南北朝時代に於ける社会経済制度  弘 文 堂   昭10

    玉井 是博            支那社会経済史研究          岩波書店    昭17

    鞠 C 遠 中島敏訳       唐代財政史              図書出版株式会社 昭19

    武内 義雄            支那思想史(岩波全書)         岩波書店    昭11

    常盤 大定            支那に於ける佛ヘと儒ヘ・道ヘ     東洋文庫    昭11

    佐伯 好郎            景ヘの研究              東方文化学院  昭10

    青木 正児            支那文学思想 上(東洋思潮)      岩波書店    昭10

    原田 淑人            漢六朝の服飾             東洋文庫    昭12

    原田 淑人            唐代の服飾              東京帝大    大10

    水野 C一            雲岡石佛群              東方文化研究所 昭19

    足立 喜六            長安史蹟の研究            東洋文庫    昭5

    池内 宏             通溝 上下              東亞考古学会  昭13−15

    原田 淑人            満蒙の文化(東洋思潮)         岩波書店    昭10

    羽田 亨             西域文明史概論            弘 文 堂   昭6

    石田幹之助            南海に関する支那史料         生 活 社   昭20

    桑原 隲藏            蒲壽庚の事蹟             岩波書店    昭1O

    チャルス=ベル 田中一呂訳    西藏 過去と現在           生 活 社   昭15

 二. 白鳥 庫吉            東西交渉史上より観たる遊牧民族(東西交渉史論) 史 学 会 昭14

    桑原 隲藏            歴史上より観た南北支那(東洋文明史論叢)弘 文 堂   昭6

    内藤 虎次郎           慨括的唐宋時代観(東洋文化史研究)   弘 文 堂   昭6

    日野 開三郎           支那中世の軍閥            三 省 堂   昭17

    石田 幹之助           長安の春               創 元 社   昭16

    桑原 隲藏            長安の旅(考史遊記)          弘 文 堂   昭17

    小杉 放庵            唐詩と唐詩人             青 磁 社   昭22

    田中 克己            李太白(東洋思想叢書)         日本評論社   昭19

    オーレル=スタイン 満鉄弘報課訳 中央亞細亞の古跡           朝日新聞社   昭和16

    宮崎 市定            菩薩蛮記               生 活 社   昭19

    多田 等             チベット(岩波新書)          岩波書店    昭18

    水野精一・駒井和愛・三上次男   北満風土雜記             座 右 宝   昭13