第 十 学 年(高等学校第一学年)

 

単 元 一

 市場・仲買い業者・貸し附け・取引所及び経済的企業は,われわれの経済生活においてどんな機能を果たしているか。

要 旨

 われわれの経済生活は,時代が進むにつれて次第に複雑になって行く。家族が自分の衣服や食糧をとゝのえ,自分で住居を建てて自給自足の生をしていた経済から発展して,今日では,すべての個人の生活が,直接間接に多くの人たちに頼らなくてはならない状態になっている。個人は,自分に必要な物資をすべて生産しようとはしないで,今では普通専門化して,たゞ一種の物資を生産することに従事し,あるいは医師のような専門の職務に従事して,製品や働きを交換することによって自分の必要なものを得ているのである。そこで,昔の自給自足の,家庭生活と,現在の工場労働者の生活や労働と比較することは,生産における大きな変化を理解させることになる。交換や分配の方法の発展について理解するためには,昔の単純な物々交換から,定期の市日や常設市場の発生を経て,今日の大百貨店に至るまでの,市場の発展のあとをたどればよいであろう。こういう大規模な交換について理解するには,製品の売買が実際に現物を取り扱わないで,大量に行われる株式取引所や,物産取引所を見ればよい。

 近代の経済組織は,たしかに複雑ではあるけれども,この学年の青少年男女はもしその経験を教師が慎重に指導すれば,かれらの生活に影響を与える経済組織について,十分理解を深めることができる。この単元に掲げている学習活動は,経済学の形式的な学習を意味してはいない。その目的は,銀行とか,保険会社とか,製造企業とか,卸売りや小売りの企業とかいうような,生徒の生活に影響を与えている経済的な制度に親しませることにある。そのようなことがらに近づく方法は,いつも特殊なものから始めるのがよい。例えば,インフレーションの学習は,インフレーションの定義から始めてはいけない。生徒の住んでいる地方における物価を正常な年の物価と比較したり,物価騰貴の原因について調ベたりすることから始めるのがよい。もしこの学習の結果,生徒自身のことばでインフレーションの定義ができれば,それにこしたことはない。われわれの経済組織について学習するには,まず第一に,収入についての学習,即ち収入源,その分配,その用途についての学習からはいって行く。第二には,物価の生産と分配に関する面である。生徒は,自分の使う物資が,いろいろの製造,卸・小売りの径路を通って,自分の手もとまで来る過程を正確に理解しなくてはならない。生徒はまた,仲買い業者の存在や,自分の家庭まで物資を分配する機構のうちで,仲買い業者の受けもつ役割などを知らなくてはならない。第三には物資の生産と分配制度を助けるはたらきに関する面,即ち貨幣制度,信用制度,銀行取引所などに関する面である。

 われわれの経済組織についてこのように学習してゆく間,教師と生徒が常に心していなくてはならない原則は,経済制度は,十分物資の生産と職務の遂行とをなし得るためにあり,また,生産された物資を広く分配して,すべての人々に,満足すべき生活水準を保障するためにあるということである。

目 標

(一) 収入源と収入の分配といことについて,はっきりとした理解を深めさせること。

(二) 生徒が,改善を要する実際の運営に関心を持つように,日本の経済生活の様式をいっそうよく知らせること。

(三) 経済生活は,生産・流通・消費の過程が相互に調和を保って関係することによって,発展するものであることを理解させること。

(四) われわれの経済生活における,市場・仲買い業者・金融機関・取引所の行う重要な役割について理解させ,交換制度を絶えず改善してゆく必要を悟らせること。

(五) われわれの経済生活並びに日本の経済の再建における銀行の仕事を理解させること。

(六) 市場の健全な発展に,進んで助力しようとする態度を養わせること。

(七) 消費組合のような配給機関に対する積極的な態度を養わせること。

(八) ある種の経済問題を,絶えず興味をもって学習する習慣をつくること。

(九) 新聞や書物によって,経済現象に関する図表や統計表を読んで,理解する能力を養うこと。

教材の排列

(一) 収入は国民の間にどのように分配されているか。

(二) 生活水準は,どのように生産力によって規定されるか。(第七学年の単元四・五,第八学年の単元二,第九学年の単元一・五,を見よ) (三) 日本における生産組織の要な特色はなんであろうか。 (四) われわれは日常生活をいかに市場に負うているだろうか。 (五) われわれの経済生活に対して,仲介業者はどんな役割をしているか。 (六) 金融は,われわれの生活とどんな関係をもっているだろうか。 (七) 日本では,取引所はどのように発展して来たか。現在はどんな機能を持っているか。 (八) 経済的な企業は,どのように行われているだろうか。 学習活動の例

(一) どんなところからでもよいから,日本の国民所得についての知識を集めること。収入源,平均家庭の収入など,国民所得の平均と,自分の地方のそれとを比較すること。

(二) 労賃,株の配当,職務の提供(医師・弁護士など)によって収入を得ている人々の実例を見出だすこと。

(三) 自分の地方の一定の範囲を限って調査を行い,無収入者を(類型により)表にしてみること。

(四) どこからでもよいから,役に立つ知識を得て,自分の地方のおもな職業と,その職業に従事する人々が通常受けている収入のおよその額とを表にすること。その表を,日本全体としての同様の表と比較すること。

(五) 自分の地方の人々の収入が,どのように消費されるかを明らかにするため,調査すること。わが国の平均所得に関する数字を得ることに努め,この所得を支出する正常な方法について,学級で討議すること。一家庭の生計は,どれくらいが満足すべき水準と考えられるかということをも,討議すること。満足すべき最低生活水準に必要な一定品目とその量とを示し,その価格をきめ,平均所得を基礎として,それらの品物がどれくらい手に入れられるかを明らかにすること。満足すべき最低水準の生活必需品の表を作り,地理その他の教科書から,それを生産するためのわが国の天然資源について,知識を得ること。どの程度まで必需品が実際に得られるか,その大略を明らかにすること。日本は,表中のどの項目について,全人口化対し十分に供給し得ると考えるか。国は,輸入品に対し,どんな余剰物資で支払うことができるか。

(六) 手工業の方法が用いられている家庭や小工場をたずねること。生産の質や量,労働者の収入,労働条件などについて,手工業の方法と工場のそれとを比較すること。手工業はどの程度まですたれて来たかを,明らかにすこと。

(七) 工場に行って,近代的な機械の活動を観察すること。短時間に多量の製品を生産することのできる機械の見本・写真などを集めること。人が手で同じ仕事をするのに要する時間数を機械の生産と考え合わせて比較すること。

(八) 日本で,市場はいつごろ発声したか。奈良(なら)時代,鎌倉(かまくら)時代,室町(むろまち)時代及び江戸時代には,どんな市場があったか,そこでは,どんな品物が取り引きされていたか,以上のことがらについて,市場の分布図を書き,また,市場の歴史的な発展を作文に書いて報告すること。

(九) 近隣に,二日市とか五日市とかいう地名があれば,それは,昔の定期市のたった地点が地名となって残っているものであるから,そこにいって,その立地条件,市場の歴史,取り引きされた品物,集まった人間の地理的範囲などについて調ベ,現在はどうなっているかも考え,学級に報告すること。(県史,地方に関する古文書,古老からの話などによるがよい)。

(一○) 附近に歳の市や縁日の市などがあったならば,その歴史的な事情,立地条件,交換物資,商人はどの方面からくるか,それが現在の生活にどんな役割を果たしているかなどについて調ベ,学級に報告すること。特に古老などについて,昔の市と現在のそれとを比較して,話を聞くこと。

(一一) 常設の市場にいって,そこで売っている品物,価格及び市場に品物がはいってくる場合,その出荷方法,出荷範囲,配給方法などについて調ベ,それが,われわれの経済生活に対する意義について,学級で討論すること。

(一二) 露天市場について,そこで売っている品物・価格・組織などについて,調べること。特に封建的な親分・子分の関係について調べ,その可否について,学級で討議すること。

(一三) 百貨店が品物を入手し,販売するまでに,どんな方法が採られているか。百貨店が現在の経済生活に対して果たしている役割について,学級で討議すること。

(一四) 消費組合の歴史や機構・機能について調ベること。

(一五) 魚市場や野菜市場にいって,その評価方法につき話を聞くこと。

(一六) 職業(労働)安定所の人を招いて,その組織や機能,一年間の就業実績に関し話を聞き,職業(労働)安定所をもっと能率的に働かすためにはどうしたらよいかについて,学校で討議すること。

(一七) 市場に対して政府がとっている政策について,経済学者から講義をしてもらうこと。

(一八) 問屋について,その歴史・機能及びそれが当時の経済界に果たしていた役割に関し,作文を書いて報告すること。

(一九) 統制組合,統制会社をおとずれて,物資の統制はどういうふうに行われているか,現在,物資は相当横流れしているが,それは機構にどんな不備があるかを調べ,それをもっと効果的にするにはどうしたらよいかについて,学級で討議すること。

(二○) 現在われわれの経済生活に対して,ブローカーはどんな役割をしているか,それは日本の経済再建に対しどんな得失があるかについて,討議すること。

(二一) 農業会の役員を訪問し,農業による物資の売買・配給・所有工場・金融のことについて,できるだけ調べること。

(二二) 自分の町や村の小売業を調査し,そのなかで,農業生産品の売上高の占めている割合は,全体のどれだけかを明らかにすること。五つの農産品について,数箇月間における小売値段を示す表をつくること。農民が買わなければならない品物の価と,それらの値段とを比較すること。

(二三) 日本における近代産業の発展に関する文献を読むこと,例えば織物工場の設置,製品,各種産業の成立,それが消費者の手にわたるまでにどんな径路をとるかを調ベて,学級に報告すること。

(二四) 政府の経済政策,例えば,経済安定本部や物価庁などの活動について新聞記事を勉強すること,できればそこの人を招いて話を聞くこと。

(二五) 自分の家で通常用いられている品物について,それがどのような径路をたどって入ってきたかを調べること。製造,卸売及び小売りまでの経過,即ち商品の出所,原料の価格を調ベ,生産価格と消費者価格を較してみること。

(二六) 衣食に関する商品の一つを取りあげ原料価格,労貸,運賃などをできるだけ正確に算定してみること。

(二七) 運賃が,家庭で購入する商品の価格に及ぼす影響を明らかにすること。現在の商品の価格を戦前のある時期の価格及びその時期の運賃と比較してみること。輸送組織を改良する可能性について討議すること。

(二八) 現在の各家庭の生活費と,戦前のある時期(昭和五年ごろが適当である)のそれとを比較し,現在の生活を合理化するためには,どうしたらよいかという問題について,討議すること。

(二九) 町や村の人たちが小売市場で購買する品目,その価格を,思いつけるだけたくさん表につくり,あらゆる方面から手をつくして,同じ品物の一箇月前,六箇月前,一年前,五年前の正確な価格を入手して,商品ごとに価格の変化を説明し,それを供給の変動と関連させてみること。物価指数について,先生から話を聞くこと。

(三○) 自分の町の小売業のもうけを調べること,農夫が,生産価以上の値段で自分の生産品を売ろうとする状況,くつ屋が,同じく高く売ろうとする状況など正確な数字が得られる場合には,種々の品目について利益の歩合いを算定してみること。

(三一) 自由価格は,何を標準にして決定されるか,需要と供給の関係がら,調査討論すること。米の自由価格の変動を調ベ,その理由を考えること。附近の市場について,その種類・組織の機能を明らかにするために委員会をつくること。その詳細な報告を得て,市場の価値及び改良案を,討議すること。

(三二) 自分の市・町・村の小売販売で,商品が掛け売りされている程度を明らかにすること。適当な品物の値段について現金販売と掛け売りの場合の相違を調べること。

(三三) 物便の変動の表,主要物資生産高の変化の表,及び通貨発行高・銀行預金高・貸出し高の表を作製し,その相互関係を調べること。「グレッシャム」の法則について,先生から話を聞くこと。

(三四) 価格統制について政府の施策を調ベること,食糧品の取り扱いについて,法律あるいは規定があるかどうか,あれば,それらの性質を調ベること。

(三五) 貸付金の利子,株式の配当率などを,いろいろな方面からできるだけ多く集めて比較し,学級に報告すること。

(三六) 日本における信用機関について,できるだけ勉強すること,利まわりに注意して,貯金したり投資したりするために,町につくられている施設を調査すること。

(三七) 自分の町の銀行の位置と名を示し,銀行員の仕事を調査すること。銀行に勤めている人を学級に招き,銀行業務の技術について,説明してもらうこと。銀行の営業種目について,表をつくること。銀行を町の役に立たせる方法について,論ずること。自分の学級で,仮の通貨を発行し,銀行を設立して,実際に行われている方法で,それを運用してみること。利率を調ベ,自分の町の生活上信用の演ずる役割を調ベること。郵便局の業務のいっさいを表につくり,電報をうったり,為替をくんだりする手続き,その他を実習してみること。郵便局と銀行の仕事とを,比較してみること。

(三八) 日本における銀行発達史の要点を書いて,報告すること。それを学校に読んでもらうために提出すること。

(三九) 江戸時代の両替商の歴史を調ベ,報告を書くこと。両替商は,明治時代になってから,どういう近代的な企業を始めたか。

(四○) 生命保健や損害の保険は,どんな点で役に立っているか。また,その種類や,組織や機能を調ベること。信託会社・信用組合・無会社とは,どんなものか,いろいろな方法で,その組織や機能を明らかにすること。保険のことについて,専門家から講義を聞くこと。

(四一) 現在流通している各種貨幣の見本を集めること。日本の戦前の貨幣制度の知識を得て,比較すること。自分の家族で現金取り引きでないものと比較してみること,貨幣の用途を明らかにするため討議すること。

(四二) 日本における大きな産業会社の起源及び歴史のあとをたどること。大きな産業会社が国家にもたらした利益と,会社によって引き起された悪弊とについて,論ずること。同一商品に対する大規模の生産と小規模の生産の優劣を例にとり,それを比較することによって,資本の集中について討議し,それと関連して,財閥会社の発達を調査研究するにと,大企業の発展を,特定の企業について調査し,その発展の経過の表をつくり,さらに,それが国民経済及び世界経済に及ぼす影響について,討議すること。

(四三) インフレーション,デフレーションとは何か,また,その原因をいろいろの人に聞いて調ベ,その経済生活全体に及ぼす影響を,調査してみること。これらの現象で,歴史上著名なものについて,勉強すること,前大戦後のいわゆる恐慌とは,どんなものであったか。種々の資料を調ベ,その対策について専門家の意見を聞くこと。

(四四) 質屋について,質入れ品物,融通金額,利子,質に入れる人はどんな収入程度の人たちかということ,などについて聞き,それが,現在の生活にどんな役割を果たしているかを考えてみること。

(四五) 質屋の歴史を調べること,できれば中国,朝鮮のそれについて,専門家から話を聞くこと。また,それに関する文献を学級で読むこと。質屋は必要であろうか,またそれはわれわれの経済生活の正常な部分だろうか。

(四六) 昭和二年発布の銀行法を学級で読み,銀行について,その定義や,その許されている業務,禁止されている事項などについて,研究すること。

(四七) 高利貸の利率附加の方法につき,その道の人に調を聞くこと,また,高利貸の存在意義,可否の点について,学級で討議すること。

(四八) 自分の町の銀行の意義,一箇月にどれくらいの資金が,どんな事業に融通されているか,また,預金はどのくらいあるか,それによって,町や村の経済状態を考え,それについて報告を書くこと。

(四九) 日本における株式取引所の歴史について,報告を書いたり,口頭で報告すること。

(五○) 株式取引所の人,または株式にくわしい人を招き,取引所の機構・機能・取引方法・取引物資及びおもな証券の種類などについて,話を聞くこと。

(五一) ロンドンのロンバート街及びニューヨークのウォール街は,世界的金融市場であるが,それが世界の経済界に及ぼす影響について専門家から話を聞いたり,その機能や影響について,書物によって勉強すること。

(五二) 日本における資本主義の発展について,専門家から話を聞いたり,広く本を読んだりすること。

(五三) 企業の社会化ということについて,専門家から話を聞いたり,本を広く読んだりして,これまでの日本の企業について,特に社会化の得失を主題として,学級で討議すること。

(五四) 自由経済の長所と短所とについて,できるだけ多くの意見をまとめて,討議すること。独占企業には,どういうものがあるか,それがどうしてできたか,どのような影響をもつかなどについて,先生の講義をうけ,その長短,必要の有無,国民に対する利害などを,論じ合うこと。

(五五) ある生産企業体について,その会社が生産を行うためには,どんな要素が必要かを調ベ,自然・労働・資本の三要素が,業種によってどんな割合を占めるかを調査し,表をつくること,また総収益が,どんな部面に,どんなに分配されているかを,実際について調べ,おもなものについて,その割合を調査すること。

(五六) 最寄りの倉庫に行き,倉庫業とは何か,その仕事にはどんなものがあるかを調査すること。運搬業について町の組織を調ベ,倉敷き料及び運賃と小売り価格との関係を,ある製品について,明らかにすること。

(五七) 自分の町,または近隣の生産会社の表をつくり,そのいくつかをたずねること。いろいろな型の生産を研究するため,種々の委員会を組織すること。直ちに調査するに先だって,その産業について,十分研究しておくこと。学級の者が,興味をもっている問題の表を作り,その調査を進めること。例えば,各産業企業について,原材料の出所,製品を生産する工業の問題,商品の市場,機械生産の過程,手工業生産の過程,会社に対する財政的援助,広告,産業に影響する政府の統制,生産品配給の方法,労働問題などを,研究すること。委員会の仕事がすっかり終れば,各委員会は,学級に報告すること。どの報告についても,学級で討議を行うこと。学級への報告に当たって,通常,絵入りその他のわかりやすい資料を添える必要がある。

(五八) 産業革命について勉強し,簡単な世界地図によって,それが全世界及び日本へ波及した状況を示すこと。他の諸国における重要な工業の進歩について,おのおの報告を用意して,学級に提出すること。日本で現在使われている多くの機械の起源をたどってみること。綿繰り機・紡織機・蒸汽機関などの発明を論ずること。日本における産業革命の功罪を論ずること。産業革命によってどんな問題がもたらされ,未解決のまゝになっているであろうか。

学習効果の判定

(一) 生徒は,市場の仲買い業者・金融機関・取り引き及び企業について,またこれらのものの活動が自分たちの生活とどう関係しているかということについて,知識と理解とをもっているか。

(二) 生徒は,現在の市場特に露天商のあり方について,考えているか。

(三) 生徒は,一般に経済に関心をもち,経済関係の文献を読み,新聞や雑誌の経済記事に注意しているか。

(四) 生徒は,消費組合のようなものに関心をもち,それに積極的な態度を示しているか。

(五) 生徒は,資本主義経済に関する正しい知識と理解とをもっているか。

(六) 生徒は,日本の工業の特色である中小工業と関連して,一般に企業について考え,あるいは討議しているか。

 これらの態度や理解が,発展されているかどうかをきめるに当たっては,教師は,生徒の行動を観察すべきである。即ち,自席で行う生徒の報告の表現,文章や討議を記録しておくこと。また,到達している理解の程度を明らかにする種々の客観的なテストをすること。

 

単 元 二

 われわれの経済生活に対して,政府はどんなことをしているか。

要 旨

 現在国民が,その力とその能力のすベてをあげてなさなくてはならない重要な仕事は,わが国の経済的基礎の再建である。政府が,この再建に重要な役割を果すことは,もとより当然である。この単元の学習では,生徒に,わが国の経済生活における政府の役割と,将来向かうであろうその傾向とを,理解させることを目ざしている。現在の政府の経済上の役割を,よく理解するためには,生徒は,日本における政府と産業との歴史的な関係,及び政府と一定の他国の産業との関係を学習しなくてはならない。

 古くは,わが国においても主として自給経済が行われ,農業を基本としていた。工業は,はじめ農業と結合して行われた。しかし,次第に交通が開け,商業が発達し,工業も農業から分離するようになって,交換経済と信用制度を生み出した。長い封建時代には封建領主は,その領土内の経済活動を統制していた。中央集権的な徳川幕府が成立した後,幕府及び諸藩は,国内及び領土内の経済活動を統制したのである。江戸時代を通じて,わが国の経済的基礎は農業であり,工業も発達したが,手工業の段階に止まっていた。職人は株仲間に組織され,それは,都市においてそれぞれの部門で独占権を持ち,その権利は,幕府及び諸藩によって保護を加えられていた。

 徳川幕府が倒れ,明治の中央集権政府が成立するとともに,わが国は,近代経済に向かって第一歩を踏み出し,封鎖経済がとかれ,外国貿易も開かれた。日本経済の近代化は,しかし主として官僚政府の手によって行われたのである。まず,紡績業などの軽工業が移植され,近代工業の端諸が開かれたが,それらは,官業であったり,政府の補助金によって育成されたものである。鉄道や電信の設置にも,官僚政府みずからこれに当たり,また,後に発展した重要企業や重工業も,ほとんどすべて政府によって保護されるが,その手によって行われた。

 金融とか,重要な大企業は,家族会社の手に委ねられ,私的企業も許されたが,政府はこれを保護奨励し,鉄道及び電信は,国営として現在に及んでいる。このように,日本産業の近代化は,政府の保護と統制のもとに行われたのである。

 最近の日本経済の特色の一つは大規模な産業を,少数の財閥会社が支配していることである。金融・海運及び重工業の多くは,少数の財閥の手に集中されてしまっていた。多くの製造業は,無数の小会社によって経営されてはいるが,これらは金融的に大会社によって支配されている。そうして,これらの財閥と政府との間には,密接な関係があった。財閥は,明治の初期に政府に資金を融通するというような特殊な関係によって,勢力を得たのである。それ以来財閥は政府の欲する領土・権益の拡張に財政的援助を与え,逆に政府は,これに特殊な恩恵を与えて,これを保障してその目的のために利用した。このようにして,日本資本主義経済は成長したが,ついに完全な意味での民主主義的自由経済方向に発展することはできなかった。そうしてそれは,ついに独占的段階に達したのである。昭和六年から昭和二十年に及ぶ戦時及び戦争準備の時期には,政府は,物資・通貨・労働・取引・価格など,ほとんどすべての経済活動に厳重な統制を加えた。この時代は,独占資本主義的,官僚的統制経済にほかならなかった。

 政府が,将来の経済生活で,特に果たすべき役割は,現在では,いろいろな方面において見ても,あまり明瞭であるとはいえない。しかし,それが重要であることは,疑いない。日本経済は,現在非常に疲弊している。その経済の基礎はまだ再建されていないし,再建に達するまでに解決されなくてはならない経済問題は山積している。まず,政府は,生活の安定を確保するために,生産を大規模に再開するよう,経済政策を行わなくてはならない。金融政策・財政政策・労働政策などが,重に考慮される必要があろう。その他,賠償問題や,補償問題・土地制度改革・交通通信機関の再建も,また重要な問題であり,政府の活動をまって解決されるものである。

 新憲法のもとでは,政府は,国民が自分の問題をたがいに協力して解決するための組織的な機関にほかならない。経済の諸問題のあるものは,地方的に,農業や商業や工業の組合の手によって,また,地方当局や,その他の地方的・地域的な社会の機関によって,解決されるであろう。その他の問題は,国家的に政府の手によって解決される。政治活動が,国民の手によって行われるかぎりは,経済の分野における政府の活動は,全国民の協力して行う活動にほかならないのである。政府が独裁的であって,主権が国民の手にないならば,生活の経済面も,他のすべての生活の面と同じように,官僚統制に陥ってしまう。政治的発展と経済的発展は,並行して行かなくてはならない。

 民主主義には,政治的原則と同じように,経済的原則もある。この二つは,不可分のものである。経済的民主主義のうちに国民の資源・技術,その経済及び政治を,一定の階級の特権を排して,国民全体の福祉や,できるだけ高い生活水準や,すべての国民の安泰な生活を促進するように,用いることが含まれている。政府の経済生活における役割は,この目的を進めて行くようなものでなくてはならない。

 この単元は,まず経済生活における政府の役割を研究するのであるが,これはまた,私的な企業についても常に関係をつけて学習させなくてはならない。事業の民主的運営が高度に発展している国々では,私有財産と私的な企業が,国家の経済生活の主要な部分を占めてることを注意しなくてはならない。

 学校では,官営事業や私的企業について,何か経済理論についての主義を,教えこもうとしているような印象を与えることのないように,教師は注意すベきである。この単元の目標は,生徒に,経済上の問題について政府が演じてきた役割や,現に行っている役割,また将来における種々の傾向を,はっきりと示してやるところにある。

目 標

(一) 民主主義には,政治的な面と同じように,経済的社会的な面があるということ。また,経済的民主主義には,国の天然資源や,経済組織や,政治が,一定の階級の特権を離れて,国民の共通の福祉や,すべての国民のできるだけ高い生活水準や,その幸福を維持するために用いることが含まれていることを,理解すること。

(二) 政府の経済的な機能というものは国民が,その経済上の目的を達成するために,協力して行う手段であることを,理解すること。

(三) 経済生活における政府の現在の役割を理解すること。この目標を達成するためには経済生活が,今までに発達して来た有様を理解することが必要である。

(四) 国の金融財政問題についての知識と理解。

(五) 現在の重要な経済問題の意味,及びその解決のために計画された方途を,理解すること。

(六) 政府によって,経済政策を決定し,遂行して行くのに,他人と協力して行かなくてはならない自分の義務を認識すること。

(七) 個人的または集団的な経済生活を改善する能力を,発展させること。

教材の排列

(一) われわれの経済生活はどのように発達してきたか。

(二) 政府は産業の増進のためにどのような施策をしているか。 (三) 政府は,金融及び財政に関して,どのような施策をなしているだろうか。 (四) われわれの日常生活に関する政府の仕事はどんなものであろうか。 (五) 日本の経済は,いかにして再建されるであろうか。 (六) 国計画は,いかに樹立したらよいだろうか。 学習活動の例

(一) 自分たちに関係のある経済史の上の重要な出来事について,先生から話を聞くこと。またいろいろな書物,雑誌その他から,日本の過去の経済生活について,知識を得ること。過去と現在の経済生活を比較すること。

(二) 自分の家の一箇月または一年の収入と支出とを記録しておき,どの程度まで自給自足できるかを調ベて,報告すること。

(三) 自分の部落または村内で,自給自足はどの程度まで行われているか。また自給自足できる品物にはどんなものがあるかを調ベて,報告すること。

(四) 自分の村から近隣の都市に,どんな品物を,どれくらい出しているか,また,都市から,どんな品物を,どれくらい受けているか,その間の収支はどうか,輸送機関及びその賃銀はどうかを調ベて,報告すること。(都市の生徒はその逆を考えてみること)。

(五) 明治のはじめから,外国との貿易に,日本からどんな品物を,どれくらい出し,国からどんな品物を,どれくらい買っていたかを発達史的に調ベて,作文をつくること。との作文を学級に読んで聞かせ,それにもとづいて,学級討議を行うこと。

(六) 農業に関する官庁や団体をおとずれ,自分の村に対して,どんな施策が行われているかについて,話を聞くこと。

(七) 農業会や水産業会や森林組合などをおとずれ,事業の性質について話を聞き,集めた資料にもとづいて,さらに自分の村を発展させるためになし得るいろいろなことを,学級で討議すること。

(八) 附近の農業学校・農事試験場・水産試験場・研究所をおとずれ,そこではどんなことを研究しおり,それがどの程度具現されているかについて話を聞き,それをまとめて報告すること。農業学校や,農事試験場などは,どのようにして農業技術の改良について,農民の力になっているだろうか。

(九) 最近五年間の農産物の公定価格とやみ価格とを調ベ,グラフに表わして報告すること。

(一○) 政府による農産物の配給は,どの程度に需要をみたしているか,不足分を各家庭ではどうしているか,不足分の買い出しは,どんなものを,どうして行っているか,配給の改善についてどうしたらよいかなどを,学級で討議すること。

(一一) 青空市場で,農産物の種類・価格,その移入径路などを調ベてみること。

(一二) 商・工・鉱業に関する官庁,例えば商工省・地方商工局・県庁の商工課,鉱山監督局などをおとずれ,それぞれの施策について話を聞くこと。

(一三) 日本の主要工業について知識を集め,製品の価格,国内消費量,国外輸出量について,統計を作って報告すること。

(一四) 附近の土揚や鉱山を見学すること。

(一五) 附近の経済関係の専門学校の先生を招いて,統制経済と自由経済及び計画経済について,講義してもらうこと。その際,特に社会主義的計画経済について,理解を深めること。

(一六) 交通関係の官庁や団体をおとずれ,一般に交通についての話を聞くこと。ある問題を選んで自分の地方によい影を与えるようにその問題を解決する方法について,討議すること。

(一七) 最近十箇年における国有鉄道及び国道の増加を,グラフに表わして報告すること。それは,どんな問題を生ぜしめたろうか。これは国民生活をどのように変えたたろうか。

(一八) 交通に関する規則――道・自動車・車・道路などについて,できるだけくわしく調べて,学級に報告すること。

(一九) 貨幣使用の発達の歴史を調べ,作文を書くこと。

(二○) 自分の銀行・信託会社・農業会・郵便局をたずね,村の財政状態について知識を得ること。

(二一) 政府の物価対策につき,物価庁や経済安定本部の当事者や県庁の経済関係の人を招いて話をしてもらうこと。新聞やその他の出版物から,物価統制について知識を得ること。物価統制の目的は,どこにあるのだろうか。

(二二) 近隣の代議士を招き,予算と決算につき,最近の議会のそれをもとにして,簡単な説明をしてもらうこと。

(二三) 租税の種類を調べること。自分の村,あるいは町では,どのような租税が,一年間にどのくらい,支払われているか。村の予算と決算はどうかにつき,報告すること。予算表に表われている費用が,村民にどんな恩恵を与えるかを明らかにすること。

(二四) 官営の企業,例えば塩・たばこなどによる収入が,どの程虔政府財政に役割を果たしているか,最近五年間のそれを統計に作り,報告すること。

(二五) 政府は,繊維製品の統制を,どのようにして行っているか。近くの繊維統制会などに行って話を聞くこと。なぜ配給制は必要か。自分の地方ではその目的通りにうまく行われているだろうか。

(二六) 食糧の統制について,食糧営団をおとずれ,詳細に話を聞くこと。食糧の不足分に対しては,どしたらよいか。各自で調ベ,学級で討議すること。

(二七) 自分の村の供出量と消費量を調ベ,需給関係はどうなっているか,また供出を理想的に行うにはどうしたらよいか,それは収穫量によるべきか,耕地の質を考慮して,あらかじめ割合を決定しておくべきか,などについて討議し,結論を得て学級で発表すること。

(二八) 住居に関し,一般にその統制及び法規はどうなっているか,なお戦災都市住居の復興に対して,政府は,どんな具体的な施策をすゝめているか,戦災復興院・建築会社などをおとずれて特殊な問題について質問し,話を聞くこと。住宅問題についての対策を,学級で討議すること。

(二九) 最近・数箇年の間に,公定価格は幾度か改変されているが,その変化の原因である社会的,経済的事情について調べること。公定価とやみ価格とのへだたりについて,なぜそうなるのかを討議すること。対策としてはどうしたらよいか。

(三○) 日本経済民主化の出発点は農業の近代化と,農民の生活水準の向上にある。現在及び将来にとって農民が多すぎることは一つの問題であるように思われる。自分の村の耕地と農民の数によって,ひとり当たりの耕地面積を算出し,その過剰人口に対して,附近都市の工場に収容能力があるかどうかを調ベ,なお余剰があるときは,これをどうするか。この問題について十分知識を得た後,学級で討議し,結論を出して報告すること。

(三一) 自分の村に未開発の土地がどのくらいあるか,その開発によって過剰農村人口は,どの程度緩和することができるか,詳細な調査を行った後,学級討議にもとづいて開発計画を立て,これを村役場,あるいは県庁に提言すること。

(三二) 経済の民主化の内容につき,近隣の高等専門学校の先を招いて,話をしてもらうこと。経済の民主化の最も重要な問題の一つを選び,いろいろなところからその問題について知識を得た後,それについて討議すること。

(三三) 世界経済への参加は,将来許されるであろうが,その際,日本が世界の経済に寄与するにはどうしたらよいかを学級で討議研究して,報告すること。

(三四) 日本の満足すべき最低生水準と考えられるものについて明らかにすること。各自の家の最低生活費はどのくらいを要するかを調ベて,学級に報告すること。自分の地方の普通一般の家庭は,最低生活水準にどのくらい近いだろうか。

(三五) 過去の日本の従業員の不合理な状態について,学級で討議すること。今後それに対して,どんな対策がなされなくてはならないかを調ベ,作文に書いて報告すること。

(三六) 労働組合法について,また,現在しきりに起っているストライキの問題について,学級で討議すること。従業員と雇よう主とは,いすれもどんな権利と義務とを持っているか。このごろストライキが起ることにはどんな理由があるだろか。

(三七) 経営管理・経営協議会・資本攻勢などという,現在の社会上の問題になっている事について,説明してもらうこと。

(三八) 日本の現在直面している大きな問題の一つは,金融財政の建てなおしである。この点に関し,だ換券・不換紙幣・金本位制・健全財政などの問題について,近隣にいる経済学者を招いて,講義をしてもらうこと。

(三九) 日本においては,農業と工業との均衡は重要な問題である。いろいろのところからこの問題について知識を得,学級でそれについて討議すること。

(四○) 農地調整法を,学級で研究討議すること。自分の村の地主の数と,その所有反別及び小作人の員数を調ベ,農地調整法によって,自作農は,どの程度,創設できるかをくわしく数字に表わし,報告すること。

(四一) 自村の農村人口が過剰である場合,それが,牧畜業や蚕業などにどの程度転換できるかを調ベて,報告すること。

(四二) 消費組合の目的と働きについて研究すること。従来の仲介業者を通した不合理をどの程度除できるか。各自が,健全な消費組合の発達を計るには,どうしたらよいか考えること。

(四三) 貿易は,わが国の将来にとって死活の重要問題である。将来,わが国から輸出され得るものは,どんなものが,どの地方に輸出されるか,また輸入物資としてはどんなものが,どの地方からはいるか,貿易再開のときにわれわれがとるべき国際信用の問題などについて,作文を書いて報告すること。

(四四) 日本の行政制度については,これまで種々の非難があった。これから日本の経済を再建するために,これをどうしたちよいか,学級で討議し結論を出して,先生に報告すること。

(四五) 近年における日本人の生活水準は,次の表の通りである。この表にならって,現在の日本人の満足すべき最低生活水準の表を作ってみること。またそれを維持するにはどれだけの収入が必要か。一家平均五人として算定してみること。(三四参照)。

          (日本内地人口ひとり当たり主要物資消費実績)
品目
単位
昭和五年
昭和十二年
昭和二十年
合衆国
昭和十二年
1,08
1,11
0,80
――
大豆
キログラム
14,7
15,7
11,9
――
砂糖
13,8
14,8
0,36
51
塩(食用)
11,5
12,4
7,6
――
肉類
2,2
-3,0
0,9
70
牛乳
(搾乳量)
リットル
3,0
4,0
1,6
360
鶏卵
43,0
51,0
11,0
290
魚介
(可食部)
キログラム
14,3
20,4
14,0
――
綿糸
ポンド
7,0
7,0
1,1
29,0
毛製品
0,97
1,66
――
5,7
キログラム
12,
17,
6
12,0
せっけん
0,83
2,05
0,10
11,3
石炭
0,49
0,69
0,30
3,4
石油
リットル
37
73
16
1370
銅材
キログラム
31
76
5
300
(四六) 日本の産業経済の再建のためには,徹底的な国土計画が必要である。この問題について,できるだけ多くのところから知識を見出だし,また読書すること。それはどうしたらよいかについて,学級で討議し,各自作文を書いて先生に報告すること。

(四七) 同本人の消費生活は,あらゆる意味において,近代化する前のよくない要素を含んでいるが,これは取り除かれなくてはならない。衣・食・住生活の改善について,学級で討議すること。

(四八) インフレーションの抑制に対し,われわれは今すぐ役だち,自分たちで,すぐできると思われることを考え,学級で討議し,結論を得て,それを実行すること。

(四九) 次の諸点を考慮して,郷土を中心とし,理想的な地方計画を作ってみること。

学習効果の判定

 生徒は,目標に定められているような,経済的民主主義の意味・内容を理解したであろうか。この点に対する態度を明らかにするには,生徒にいくつかの意見の中から選択をさせるというような,多くのすぐれた予備テストをよくやる必要がある。同じようなテストを単元の終り近くで行うと,理解の進歩を明らかにするのに役だつであろう。こゝでは,おそらく観察が,最も効果のある判定の方法であろう。成長を示す口頭あるいは文書による表現は,記録しておかなくてはならない。この場合,次の諸点を考慮する必要があろう。

(一) 生徒は,自由経済・計画的自由経済及び,独占的統制経済の区別,特に戦時中の統制経済と,これからの傾向と考えられる民主主義的計画経済の区別を,認識しているであろうか。

(二) 生徒は,生産に対する政策というような政府の経済政策は,一定の階級の特権から離れて,すべての国民のできるけ高い生活水準や,幸福のために計画され,実行されなくてはならないということを理解しているであろうか。

(三) 生徒は,インフレーションとか,やみ市場とかいう現在の経済問題に対して関心を示しているだろうか。また,そのような問題について,討議しているだろうか。

(四) 生徒は,ラジオを聞き,また,新聞や文献を読んで,経済知識を集める興味を示しているだろうか。

(五) 生徒は,個人的,集団的な経済生活を改善する能力を発展させたろうか。

 

単 元 三

 従業員と雇よう主とは,相互にどんな権利と義務とをもっているか。また,両者は社会に対してどんな義務をもっているか。

要 旨

 わが国においても,すべての国におけると同じように,従業員と雇よう主との関係は重大な社会問題である。雇よう主と従業員との争いは,はじめは,設備・資本・経営の方を提供するものたちと,生産に労働を供給するものたちの受け取るべき収入の分けまえについての争いという形で起って来た。また,勤労者の一日あるいは一週間の就業時間及びその労働条件についても争いがある。最近,わが国において罷業が現にひん発し,またひん発しかゝっているが,その大部分は,勤労者の生活権の擁護にもとづくものである。労働に対して障害がひん発するので,「生産管理」あるいは勤労者による企業管理という形の要求が起っている。このような出来事は,経済の不安定な条件から生じて来たものであるが,それはまた,われわれの時代は勤労者と雇よう主との相互関係に変化が起っている時期であることをも示すものである。その改善は,民主的な制度のもとで長い間に行わるべきであったが,権力的な政治制度はそれを妨げで来たので,ついに,長い間せき止められていた改善の要求は,ほとんど暴力的な形であらわれるに至ったのである。われわれは,いま崩壊した経済の再建の途上にあり,同時に民主的な生活の発展を企図している。従業員と雇よう主との関係は,経済的再建と民主化のいれにも密接なかゝわりをもつ問題である。経済の再建を達成するようになるには,生活水準を向上して,すベての国民の利益の増大を保障する方途を見出さなくてはならない。民主的な生活に到達するためには,従業員と主は相互にこの権利を尊重しなくてはならず,いずれもが国民の全体に対して一定の義務を果たさなくてはならない。例え,もし雇よう主が専制的で,勤労者がその統制に絶対的に服従するような場合があれば,憲法によって個人に保障されている政治的,公民的な権利に反して,勤労者には自由が与えられていないことになる社会の安寧は,直ちにその成員すべての安寧にもとづくのである。一人に加えられた害悪は,すべてのものに加えられた害悪にほかならない。従業員と雇よう主との関係におけるある種の問題はきわめて重要であって,その解決に失敗すれば,民主的な生活に到達することを不可能にしてしまうほどである。われわれの社会の組織は,有能なものや向上心のあるものの能力を促進させ,れを利用するとともに,すべての人間が幸福な満足すベき生活をなし得るような条件を,つくり出すようにならなくてはならない。

 雇よう主と勤労者との関係に含まれている問題は,歴史上の多くの時期に存在したものであるが,近代において特に烈しくなったものである。多くの国々で,大量生産の方式は,雇よう主と従業員の間の個人的な関係を破壊してしまった。工業が家庭から小工場へ,小工場から会者の大工場に移るにつれて,雇よう主は,勤労者かち離れていった。産業革命の初期の間は,勤労者はおそろしく長い時間,不健康で危険な労働条件のもとで,低賃金で働かせられた。婦人や子供は,しばしばこの工場組織の犠牲になったのである。個人としての勤労者の地位は,雇よう主に対して弱かったので,勤労者は労働時間の短縮,賃金の増額,労働条件の改善を主張するために団結する必要を知った。十九世紀の後期及び二十世紀の初期を通じて,勤労者は団結して労働組合をつくり,それは時の流れとともに次第に強力になって行き,ついに一九四五年には,イギリスにおいて労働政権が出現した。

 わが国における労働組合は,ほとんど国外から輸入されたものであるが,日本の現実に適応していろいろな変化を受けた。産業革命は他国とは形が違っていたので,労働組合運動も他国で行われた形をそのまゝとらなかった。わが国は完全に工業化されていず,古い手工業の方法が,近代的生産の工場方式と並んで盛に行われている。しかし,労働組合は工業化の果として起り,比較的自由であった大正の中期から昭和の初期(一九二○年代)にかけて,それははなはだしく成長するに至った。それ以後(一九三○年代)には,政府の反対にあって,組合は次第に衰え,ついにすべて解体して,いわゆる産業報国会がこれに代わったのである。昭和二十年(一九四五年)以前の政府は終始,勤労者の組織は国にとって危険であるという態度をとって来た。発達した労働組合は,主として専門化した工業的知識の要求の増大につれて非常に増えた新しい工業労働者の組合であった。このような労働組合は,自分の勤労の結果である収入の分けまえを多くしようとする勤労者の要求に応じて起ったものであり,明治時代の間に有利な地位を得て,それを昭和二十年まで維持して来た強力な資本主義に対抗するために必要な平衡手段であった。

 労働組合が,近代国家としての日本の将来の歴史において,重要な役割を演ずることは明白である。雇よう主が,家族的に自分の従業員とその福祉に対して任を引き受けるような古い制度は,十分なものではない。労働組合は,現在及び将来において,重要な役割を演ずることは明らかなのであるから,生徒はその存在理由,その計画,その政策について理解しなくてはならない。生徒は,過去に労働組合によってなされた役割や,現在の会におけるその地位について,公平な理解に達するために,労働組合について,善悪種々のことを知らなくてはならない。従業員と雇よう主との関係については,明らかに種々の問題がある。例えば,労働者の組織は労働時間の短縮,賃銀の増額,労働条件の改善に対する闘争を通じて,社会に対して貢献するところがあったろうか。労働者の組織は産業の発展の障害になったろうか。ある環境のもとでは,勤労者は企業管理(生産管理)を引き継ぐ権利をもっているだろうか。勤労者には,政府に反抗して罷業を行う権利があるだろうか。等々。社会がこれらの問題の大部分について答えを与えていない以上,もとより生徒たちはこれらの問題に答えられない。しかし生徒たちは,これらの問題に親しみ,基礎的な理解に達して,自分たちが従業員になり,雇よう主になった暁には,この問題の解決にあずかることができる。今でも学校において生徒はこれらの問題のあるものについてはその解決にあずかる機会をもつであろう。学校の与えてやることのできる最価値のある経験は,現に存在している問題,及び現在企てられている解決についての理解,並びにこれらの問題に対して,科学的に努力し,考えて公平にその解決にいどむ態度を生み出すような経験である。教師は,このような経験を指導することの重要さを理解し,自分でも問題を公平な精神と科学的な方法で研究するように自分を訓練し,そうして,生徒を助けることができるようにならなくてはならない。

 この問題については,新聞や雑誌やラジオ放送から多くの情報を得ることができよう。しかし,教師と生徒は,新聞の論説,雑誌記事,ラジオの放送で発表される意見は,雇よう主か勤労者だけを代表する話者や筆者の意見によっはなはだしく色がついているものだということを,いつも念頭におかなくてはならない。

 ほかのすべての単元と同じように,この問題も,個々の生徒の経験から出ることがたいせつである。この学年の生徒のうちには,定時制で仕事についているものもあろうし,ほかの生徒は,自分に適した仕事をみつけるか,あるいは職業の準備のために上の学校に行くか,そのいずれかに身近かな関心をよせているであろう。言葉をかえていえば すべての生徒は,職業に関心を持たざるを得ないわけであり,この関心こそ,従業員と雇よう主との関係についての学習を始めるのに利用されなくてほならない。生徒自身の仕事や,生徒の家庭の電気の供給を止めてしまう恐れのある罷業や工場閉鎖が,学習の出発点となろう。このような直接の問題は,すべて学習を始める機会を与えてくれる。そうして,理解が達成されたら,もっと複雑な問題を与えるのがよいであろう。この学習は,この年齢の生徒たちにとって,あまりむかしいものにならないこと,資本と労働の闘争を問題にしすぎないこと,あるいは労働関係の理論に深入りしないことが,たいせつである。労働時間・賃銀・安全・年金・常よう・罷業・工場閉鎖どは,直ちに生徒の家庭生活の安楽や,ある意味で,生徒たちが直接に感じる家族の幸福や安定に直ちに影響を与えるのだから,そのような問題は,すベての生徒が関心を持つものである。

目 標

(一) 従業員と雇よう主の関係に対して,新しく興味を覚えさせること。

(二) 賃金・労働時間及び労働条件について行われる従業員と雇よう主との間の争いの理由について,理解を育てること。

(三) 雇よう主と従業員の間の良好な関係は,民主的生活にって,きわめてたいせつなものであるということについての理解を,発展させること。

(四) 雇よう問題に関する知識を集め,これを利用する態度を養うこと。
(五) 勤労者は,その利益を向上させるために,組織をもつ権利をもっているということについての理解を,発展させること。

(六) 雇よう問題に関する従業員及び雇よう主と政府との関係についての理解を,発展させること。

(七) あらゆる正常な建設的な仕事,並びにそれに従事するものに対する尊敬の念を養うこと。

(八) よい雇よう主あるいは従業員となろうとするはっきりとした欲求を,生徒に育ててやること。

教材の排列

(一) 雇よう主は,従業員に対してどのような義務をもっているか。

(二) 従業員は,雇よう主に対して,どのような義務をもっているか。 (三) 雇よう主と従業員の関係はどのように変わって来ただろうか。 (四) 従業員と雇よう主との問題に対して,労働組合はどんな意味をもっているか。 (五) 雇よう主と従業員とは,社会に対してどういう義務をもっているか。 (六) 将来の日本はその再建のために,よう主・従業員の問題をどう解決しなくてはならないか。 学習活動の例

(一) 従業員・雇よう主の関係は,学級のものたちにどんなふうに感じられているだろうかということについて,討議すること。この討議は,定時制で,あるいは季節によって従業員として働いている生徒の経験や,両親の仕事についての問題を含むようにしたい。

(二) 勤労に対するよくない労働条件について書いている記事を読むこと。

(三) 労働条件の安全を強調するために,従業員に見せる事故の種類を示すポスターを書くこと。

(四) 「雇よう主は,従業員に対して生活の安定について義務を負っているであろうか」という問題について意見を述ベてもらうために,雇よう主と従業員の双方を招待すること。

(五) その問題について,いろいろなものをたくさん読んだり,討議をしたりして,雇よう主が従業員に対してもつ義務の表をつくること。それから,従業員が雇よう主に対してもつ義務の表をつくること。

(六) 次の勤労者の一群の労働条件について研究し,雇よう主は,その健康と幸福とに対して顧慮を払っているかどうかを知ること。

(七) 工場をたねて,従業員の労働条件を記してくること。給料・労働時間,事故の危険,勤労者の健康に対する作業の影響,及び従業員と雇よう主との関係について,調ベること。

(八) 雇よう主の負担金(借地料・使用料など)税・労賃などについて当面している問題を明らかにする事実を,分団のものたちに話してもらうように,事業家のだれかに頼むこと。

(九) 勤労階級と普通よばれている人々は,経済的にまた社会的にどういう立場にある人々をさすのだろうか。工場労働者・農民・俸給生活者などで,勤労階級といえる人々の範囲を明らかにすること。階級としての労働者という概念をなくすことは,なぜよいことだろうか。

(一○) 附近の工場をたずねて,一つの職場における労働の組織について調査すること。熟練工と未熟練工(見習工)との割合。職場指導者と一般職工との関係。職工の経験年数と仕事の分担。技術教育の方法。労働の能率。それぞれの職工について,その家と親の職業(親子の間に職業上の関係があるかどうか)。以上の資料にもとづいて,日本の工業労働者の特殊な質について,討議すること。

(一一) 合衆国の労働者の賃金と,インドや中国の労働者の賃金を比較すること。合衆国の労働者の賃金の高い理由を表に示すこと。日本の労働者の賃銀は他国に比較してどうだろうか。

(一二) 労働者あるいは従業員の賃銀は,その労働や仕事によって差がある。それぞれの仕事の種類によって平均賃銀を調ベ,表をつくること。なぜ仕事の種類によって賃金に差ができるのであろうか。その理由をできるたけ多く挙げて,学級に報告すること。

(一三) 雇よう主が払う最高賃銀,従業員が受け取る最低賃銀は,どうしてきまるのであろうか。附近の工場の雇よう主と労働組合の役員をたずね,雇よう主と従業員とともに,賃銀の問題について討議すること。

(一四) 教育程度(技術の習得をも含めて)と賃銀との関係について,調ベること。

(一五) 工場労働者の技術習練の方法を調べること。また職場における一般的教養の向上に対して,どんな配慮がなされているかを明らかにすること。徒弟制度が残っているかどうか。いろいろの職種について,一人まえの職工になるまでに,どのくらいの年数がかゝるからかにすること。

(一六) 附近の小学校,あるいは駅をたずね,女性の職業と給料を調べ,それを同じ,あるいは類似の仕事をしている男性の賃金と比較すること。差があれば,その原因がどこにあるかについて,討議すること。「なぜ,性に関係なく,同じ仕事には同じ給料が支払われなくてはならないか」という問題について,討議すること。

(一七) 中央労働委員会の算出した適正な質銀は,どういう計算の条件に立つものであるか。生活給と能率給について,賃銀の適正化という見地から,討議すること。

(一八) ギルド制度のもとにおける勤労者の待遇と,現在の大工場で働いている人の待遇とを比較すること。大量生産によって,どんな問題が勤労者にとって生じて来ただろうか。

(一九) 労働組合と昔の株仲間との違いを調ベて,学級に報告すること。

(二○) 労働運動の歴史を調ベること。ヨーロッパ・アメリカ及び日本におけるその簡単な歴史を調ベた後,労働運動はなぜ起ったかという原因についてできるだけくわしく知って,これを学級に報告すること。

(二一) 書物を読んで,わが国における労働運動で重要であった人々について知ること。

(二二) 資本主義社会の発展とともに,労働運動盛んになったという観点から,いろいろの社会改革の思想について概略を調ベてみること(社会主義・共産主義・国家社会主義など)。労働及びその問題に関係をもっている現在の日本の政党の綱領を集めて,比較検討すること。

(二三) 歴史の本で,日本における労働者の組織に政府が反対した話を読むこと。なぜ政府が労働組合に反対したか,その理由について考えることができるであろうか。現在は,政府は労働組合にどんな態度をとっているか。

(二四) 戦争によって,労働者はどんな利害を受けたかについて調べること。戦争以来,労働者の社会的地位に生じた変化について,討議すること。

(二五) 読書によって,労働組合がなぜ生まれたかを明らかにすること。

(二六) 日本における主要な労働組合に属している勤労者の数を示す統計を,探してみること。どの組合が最も有力であろうか。いろいろの労働組合の宣言・綱領の文書を手に入れ,宜言・綱領について,組合員と討議しその人たちが,その目的を実現するのどんなに計画をしているかを明らかにすること。その目的は,社会の一般公共の福祉と一致しているだろうか。

(二七) 「民主主義では,労働者は,その権利と利益を守るために,組織をもつ権利がある」ということについて,学級で討議すること。

(二八) 新憲法から,勤労者に,ある権利を保障している文章を選び出すこと。このような憲法の条項の意味について,討議すること。

(二九) 近くの農民組合,労働組合の役員を訪問し,その組織・目的・機能について質問すること。組合の活動を調ベ,それによって改善された状態を調査すること。

(三○) 自分が労働者であると仮定し,組合に加入することの利害について,考えてみること。その理由をあげて,討論をすること。

(三一) 組織された労働者の賃銀は,組織されない労働者の賃銀より,一般に高いといわれている。その例を探してみること。なぜだろか。その理由について研究すること。

(三二〉戦争中,労働組合の運動はどうなっていたか。その状態に立ち至った理由,及び戦後の状態をひき起した理由について,討議すること。

(三三) 産業上の紛争を回避するために払われて来た努力について,調ベること。団休契約あるいは争議調停のために,どんな機構があるだろうか。争議を解決するのに,調停は効果があったろうか。

(三四) ある組合員に,学級に来て,その仲間の当面している問題,インフレーション,生活費の高いこと。よくない労働条件などについて,説明してもらうこと。

(三五) 次のことがらについて,できるだけたくさんの情報を手に入れ,それを学級で討議すること。

(三六) 罷業・怠業・工場閉鎮・ボイコットの歴史を調ベること。一般公共の立場から,罷業について討議すること。公衆は,勤労者が,その仕事にある収入高の公正な分けまえを受けとることに,関心をもっているだろうか。

(三七) 附近の労働組合をたずね,その組合は,組合員の教育及び技術の向上,またはその休養・娯楽のために,どんな事業をしているかを話してもらうこと。調べた結果を報告すること。組合による組合員の教育的・教養的向上について,討蟻すること。

(三八) 雇よう主と従業員の利益は,どの程度まで一致するであろうか。いろいろの情報を集めて調ベてみること。

(三九) 政府は,雇よう主と従業員の協調を推進しようとしているだろうか。労働者と資本家は,それを欲しているだろうか。最近の新聞の記事に注意して,調ベてみること。

(四○) 新聞の記事あるいは論説から,労働委員会の活動について知ること。その調停案は妥当であろうか。いろいろの場合について研究すること。

(四一) 合衆国の労働協約について学ぶこと。それは,従業員・雇よう主及び一般公共にどんな利益をもたらすかということについて,研究すること。

(四二) 「日本経済の再建と労資の対立」という題で,作文を書くこと。

(四三) 社会の福祉と労働者の利益とは,どの程度に一致し,どの程度に矛盾するか,表にしてみること。それにもとづいて,理想的な労動組合,あるいは従業員組合の綱領と規約とを,学級で討議した後,作成してみること。

(四四) 雇よう主,あるいは従業員の社会に対する義務について,研究すること。よいよう主,よい従業員の資格を討議して,表にしてみること。

(四五) ソ連には,失業者がいないといわれている。このことについて確かめるか,またはその反証をあげてみること,そして失業者がないということの理由を考えてみること。

(四六) 自分たちの地方で,経営協議会をもって経営を行っている実例を探し,そこを訪問し,その運営についての利害及び困難などについて,実情を知ること。その報告をもとにして,自分たちの気づいた欠陥及び改善の方法について,討議すること。

(四七) 土建労働者や,鉱山労働者の労働組織について,調ベること。飯場組織はどういうものか。親方と普通労働者の関係は,民主的に組織されているだろうか。その改善案を考えてみること。

(四八) 現在公布されている労働関係の法令を集めて,研究すること。労働者の保護について,政府はどんな方法を講じているか。特に,少年及び婦人の場合について明らかにすること。

(四九) 欧米の労働に関する社会政策の現状を知ること。それらは日本にとっても役だつであろうか。その理由について検討すること。

(五○) 組合と政党との関係について調ベること。組合運動と政党運動の境界(もしあるとすれば)について明らかにすること。

(五一) 地方の産業復興協議会,中央産業復興協議会の情報を集め,日本の経済再建のために,従業員とよう主が,そこでどんな義務を負うかについて,研究すること。

(五二) 争議が制限され,あるいは禁止きれる事業について知り,その理由について,討議すること。

学習効果の判定

 どんな問題についても,それに対してなした業績を判定する方法は学習の最初,または学習を通して立てた目標に対して,明確な関係を失わないようにすることがたいせつである。次の示唆は,生徒の業績を判定する基準を定めるのに,教師にとって役だつものと思われる。

(一) 生徒は,従業員及び雇よう主のいずれにも公正に,労働問題を客観的に批判する態度を発展させたかどうかを,観察すること。

(二) 生徒の討議を聞いたり,その書いたものを判定したりして,雇よう問題を確実な情報にもとづいて検討する能力を知ること。

(三) 学習のはじめ及びその終りにおける生徒のこの問題に関する知識と態度について,覚え書をとっておくこと。

(四) 生徒の討議や自由な話し合いにおける活動を観察したり,書いたものを調ベたりして,生徒が,社会の福祉という立場から,勤労者の地位の向上について同情をもって理解しようとする態度を,どの程度にもっているかを明らかにすること。

(五) 学校の使用人や,社会の勤労者に対する生徒の態度を観察して,勤労者とその仕事の尊さに対して,生徒が尊敬の念を示しているかどうかを明らかにすること。

(六) この問題の重要性,及び自分たちにとってもつ意義に対して,生徒自身はどう判定しているかを,考察すること。

(七) 被使用者としての自分たちの責任に対して,生徒はどんな態度をとっているかという点について,両親や他の教師や雇よう者の意見を集めること。

(八) この問題を考察する前,間,及び後に,生徒が行う質問の例を記録し,その変化を調べること。

(九) 集団で効果的に仕事をする生徒の能力に注意すること。

 

単 元 四

 貧困や生活難から,社会や個人を助けるために,どんな手段がとられているか。

要 旨

 われわれは,しばしば,魚類や,水力や,石炭のような天然資源の保全の必要なことを口にするけれども,それと同様に人的な資源の保護ということも重要である。人間というものは,それぞれ,自己のうちに,無限の価値を持った個人であって,大多数の人は,幸福な,生きがいのある,満足な生活を営む能力を持っている。そればかりでなく,他人の生活に対しても,大きな貢献をなすことのできる能力を持っている。できるだけ多くの人々に幸福な安全な生活を営ませるようにすることが,民主主義の一つのたいせつな目標であるが,現在,貧困や危険な状態が広く存在するということは,過去の幾世代の人々が,どのような問題を取り除くに必要な解決の方法を持たなかったことのしるしである。

 社会科の主要な使命の一つは,社会生活の条件の改善に,この学習を役だてることにある。それ故,生徒は,社会の改善に協力するためには,社会生活の種々の条件や,それから起って来るいろいろな問題について,学ばなければならない。今日の重要な問題は,十分な食糧と,住宅と,衣料を用意することであり,また,他の必要な問題は,国民に最低生活に必要なだけのいろいろなものの量を調達するということである。というのは,これらの必要なものの量が満たされないかぎり国民は,その生活を満足なものにするための協力活動に参加するだけの余裕を持たないからである。

 わが国には,現在多くの人々が,貧困と不安のうちに暮らしている。もちろん,現在のような経済状態のもとにあっては,実際,だれでも不安定な生活を営んでいるのだともいえるかも知れない。この状態は,生が相当回復するまで続くであろうが,しかし,正常な状態においてすら,かなり多くの人々は,食うに十分なものが与えられず,かれらの収入は,経済学者によって認められていた日本の最低生活水準の維持を保障することすら,十分にできないものであった。これは貧困や生活の不安に対するわれわれの態度に変化が起らないかぎり,たとえ大きな経済上の諸問題が解決され,わが国が再び生産力に富んだ国家になったとしても,貧困や生活不安の問題を解決することはできないであろう。国家がその経済的基礎を再建し,再びその繁栄をとりもどす場合には,それと同時に,すべての国民に対する経済的安定を計らなければならないのである。

 われわれの歴史の大部分を通じて明らかであることは,天然資源にもとづく国民の所得が,不公平に分配されて来たということである。比較的過去の繁栄していた時代においてすら,かろうじて命をつなぐにたる程度に,絶えず抑圧されていた人々があった。ところが,一方には,かなりの収入があるにもゝかわらず,金をいいかげんに使っている人もあったし,また,なみなみならぬ不幸に見舞われている者もあるし,全然職も持たないか,持っていても,不安定な永続性のない職についている者もあった。ある人々は,その肉体上の欠陥や,病弱であるために,社会に有用な仕事につけない人もあるし,また,実に多くの人々が,自分自身の責めに帰せられない理由によって,その生活の基礎を失っている。このような不幸からのがれることの責任を,すべて,その個人か,またはその家族の責任にしようと考える人があるとすれば,それは,無慈悲な,しかも不当な態度といわなければならない。

 わが国には個人の悩みを,全くその人自身のおちどにするか,あるいは,その個人にふりかゝってのがれるすべのない悪運のせいに帰してしまおうとする傾向がある。そういう不幸を防ぎ,変化させることは,全然できないのだ,と思いこんでいる人が多い。多くの場合,こういった理屈が,まじめに信じられており,また,他の場合には,個人は,他の人々が貧困や不安定な生活の悩みに陥るような状態を,救済すべき責任をのがれようとして,これを口実に使うこともある。与えられた自然の環境内においては,貧乏の原因は,たいてい人間の作り出すものである。日本が,その経済を再建する場合には,国民全部の利益のために,再建されるのであるという確信のもとに,なされなければならない。国民のすべては,国家の資源の使用によって得られる所得の分配にあからなければならない。そしてまた,経済的な窮迫や,不幸な災害によって生じた苦痛に対しては,もっと広い範囲にわたって,その負担の平均化を計るよらな施策を講じなければならない。このことは,何も,収入は均等でなければならないということを意味するものではなく,過去においてなされたよりも,もっと広い,もっと平均した所得の分配でなければならないということである。

 わが国の経済の再建について,必要だと思われるいま一つの態度は,自分がその一員となっている集団の福に貢献するということに,各人が責任を感ずることである。各個人は,市・町・村と呼ばれる共同社会の一員であり,さらに,より大きな県や,国や,世界と呼ばれる社会集団の一員でもある。われわれは,社会のうちに住み,社会の一員である。なぜならば,人は,幾多の経験によって,自己の種々の要求には,個人生活や家族生活によるよりも,社会生活によるほうがいっそうよく適合するものであるという事実を,明らかに知ったからである。社会の成員としての生活は,相互にきわめて深く関連しているので,仲間の間に貧困が存在し,生活の不安をおぼえる者があれば,その影響は,直接に他の仲間の者にも及んで行く。もし社会のすべての人々が,その共通の目的のために協働するならば,ついには,その社会は繁栄して,住むにしあわせな場所となるだろう。それと反対に,もし人々が,他人の福祉に対する責任を分かつことを承知しないで,利己的に自分や自分の家族のことだけにたずさわっているならば,社会は,それほど平和な繁栄をもたらすことはできないであろう。そして,それは,共同社会の成員のすべての生活に,逆の影響を与えることになるであろう。

 日本の国民は,最近に至るまでこの問題の解決に,十分な関心を払っていたとはいえないと思う。その一つの証拠として,今日まで,政府は,国内における不具者・めくら・つんぼ・おしなど,身体的に欠陥のある人々の数についての統計を,持っていなかったことによっても明らかである。これまでは,一般に家族制度が,個人の保護に任じて来た。しっかりした家族につながりを持たないかぎり,失業者や,不具者・盲人・老人は,家のやっかい者となった。家は,社会集団として,その成員の福祉のために責任を負い,また,負わなければならないが,しかし,人々は,あまりに家中心に傾きすぎると,社会全体の福祉を忘れることになる。仮に,ある個人が,腸チフスにかゝったとする。そして,病気の間に,村の井戸から水を使うとすれば,それは,水の供給源を汚すことになる。だれでも,個人の行動は,その社会の人々の問題につながるものであることを知らなければならない。同様に,もしある社会の多数の個人が,貧窮と生活不安にんでいる場合に,人々が,これに冷淡であれば,社会は,その欠陥を除去するにたる勢力を強めたり,能力を発揮しないことになるし,あるいは,犯罪行為を生み,社会に損害を与えるようなことになるであろう。

 貧困や,生活不安が,人間生活に与える悪い影響を,取り除いたり緩和することは,家族制度の基礎だけによって実行できるものではない。もちろん,それも重要な役割を演じるが,しかし,市・町・村・県・国家などの共同社会は,これらの問題に関心を持ち,その解決をはからなければならない。公私のあらゆる社会集団は,このような問題に対しては,その所在のいかんを問わず,解決に当たらなければならない。この単元は,貧困や,経済不安の中に含まれる諸問題を明らかにする意図のもとに,生徒に,この問題の意味について理解することを助け,諸種の困難を取り除くため,現在及び将来考えられる方法について,その認識を助けようとするものである。

目 標

(一) 一般目標。

 所得の分配を,もっと均等化する組織を作ることの必要と,それによってもたらされる経済的生産の増加が,すべての国民の利益を増すものであることの理解の発展。貧困と生活難の問題を解決することに,生徒各人が協力しようとする意図を養い,問題解決に参加する個人的責任感を生み出さしめる。

(二) 特殊目標。

教材の排列

(一) 貧困と生活難は,個人の福祉にいかなる影響を与えるか。

(二) 貧困は,集団の福祉にどう影響するか。 (三) 広く過去において存在し,現在も存在している貧窮と経済的,社会的不安定の原因は何か。 (四) 日本人の現在の経済事情はどうか。(第十学年単元二参照) (五) 個人が,生活難を避け得るようにするためにはいかなる手段があるか。 (六) 貧窮と生活難の諸原因を緩和し,その影響を緩和するのに望ましい計画のうちには,いかなるものがあるか。 (七) 上述の計画において示された諸施策を実行するについて,現在いかなることが行われているか。

(八) 上述の方策中,過去において日本で行われたものに,どんなものがあるか。

(九) 将来実施する目的で,この計画に追加するものとして,いかなることが論議されているか。

(一○) 貧困と生活難から生ずる問題を解決するために,外国において実行しているもので,日本に採用できるものには,どのようなのがあるだろうか。

(一一) 各個人は,この問題の解決に協力するために,いかなる責任を負うべきであろうか。現在,実際的に効果的にどうして協力すべきか。

学習活動の例

(一) 最近一週間における新聞記事の中から,われわれの援助を必要とするような,同情すべき不幸な人々に関する記事を調ベ,整理して学級に報告すること。このような問題が自分たちの地方にあるかどうか決定する。

(二) 最近,自分が路上で見たり,人から話を聞いたりしたことのうちで,同情すべき不幸な人々のことについて,なにか情報を得なかったか。あれば,それを学級に報告して,これを援助する方法を討議すること。

(三) 貧困ということばが何を意味するか,適当な定義を与えてみること。衣食住の各条項の生活の最低水準と考えられるものについて,情報を手に入れること。できるならば,わが国における平均生活水準以上にある家族数,それ以下,あるいは平均に近いものについての統計を手に入れて調ベること。自分の町(村)の中程度の家庭は平均水準に比して,どこに位置するかを決定すること。

(四) 水準以下の生活を営んでいる家族は,なぜ貧窮に悩むと思われるか。

(五) まちの浮浪者について,その数・年齢・性・浮浪者となった原因について調ベること。特に,青少年浮浪者に意すること。かれらは,毎日何をたベているか,何を喜びとし,何に悩んでいるか。その性格はどうか。かれらにいかなる援助を行い得るか,その方法において討議すること。

(六) ヘレン・ケラーの伝記と,その著述と読み,そのなかで感銘を受けた部分を選び,学級に報告すること。通常の人に比べて,かの女のなみなみならぬ忍耐について,評価すること。

(七) 去年一年間における自分の町(村)において行われた犯罪について,調ベること。罪を犯した人々について,その理由や事惰を知り,貧困と犯罪の関係を決定すること。それらの罪のうちで,財産に対する侵害はどのくらいか。

(八) 貧窮が,個人と社会に与える望ましくない影響について,表にすること。

(九) 委員を選んで,社会事業家を訪問し,話を聞き,貧民街や,簡易食堂や,無料宿泊所,セツルメント,質屋などについて,知識を得ること。学級において,現在の私的な社会救済施設について討議し,それらが適切に管理されているかどうかを決定すること。

(一○) 「危険な細民街の改善について」という題で,学級討論会を開くこと。

(一一) 最近における捨て子とこじきの数を調ベ,その拾てられた原因と,市(町村)におけるその原因を取り除く方法について,討議すること。

(一二) 現在の広範囲にわたって存在する貧困の原因について,多くの情報を得た後,その特殊な原因についての表を作り,それについて討議すること。戦争の準備と,その遂行が,いかに今月の経済事情を招来するのに影響を与えただろうか。

(一三) 大きな戦争の後には,いろいろな社会問題が起るものだということについて,歴史的に研究し,これを現在の状態と比較すること。

(一四) 生産力の急速な回復は,自分や,自分の級友に,どのような影響を与えるであろうか。

(一五) 自分の町(村)で,戦災をうけて家を失った人々の家の数を調ベ,町の総人口に対する割合を計算すること。また自分が住んでいる地方の者についても調ベること。戦災を受けて後,日用品としてどのような品物の配給を受けたか,表にしてみること。学校の生徒のうちで,戦災者はどのくらいあるか。戦災後の生活状態と,多くの困難にどのようにして戦っているかについて口頭か,あるいは文書による報告を求めること。

(一六) 日本の天然資源につき,諸外国のものと比較し,国民所得に対する人口圧の強さについて,研究すること。

(一七) 図民の所得は,農業や,工業の不適当な管理によって,いかに影響されるであろうか。戦争準備のために,国民所得の何パーセントが消費されたであろうか。もしそれが,戦費と同じ割合で社会の福祉の方にまわされていたとすれば,われわれの生活水準は,どれくらい向上していたであろうか。

(一八) 戦前において,日本の労働者は,最大の利潤を収めるために強行された海外貿易によって,いかに低賃銀労働にかりたてられたであろうか。

(一九) 新聞のつゞりや,雑誌のとじこみの中から,日本における産業の独占的な統制を取り除こうとして行われて来た種々の処置についての話を,読むこと。これらの処置が,なぜ取られたかを調べて,それが所得の分配にどのような影響を与えるであろうかを,討議すること。

(二○) 一家の収入と,物の値段とのつりあいが,現在は適当であろうか。物の値段が安く,生活が楽で豊かになるためには,どうすればよいであろうか。国家全体の立場について,研究してみること。日本人ひとり当たりの生活費と,外国のそれとを比較して,生活水準の向上ということについて,研究討議すること。日本人は,ひとり当たり,ふとん・着物・くつ・帽子・雨がさなどの必要な身のまわり品を,どのくらい持っているであろうか。また,一戸当たり,ラジオ・冷蔵庫・自動車・自転車などを,どのくらいの割合で持っているであろうか。これを,外国のものと比ベて,差のあることについてその理由を考えてみること。この際,便利な科学的な生活を営むということと,ぜいたくとは,厳密に区別する必要がある。

(二一) 日本人の食物・衣服・住宅などの生活条件は,戦争の結果,いかに貧弱になっただろうか。生産力の崩壊と,生活条件の困難との関係について,討議すること。

(二二) ラジオや,新聞や,雑誌から,住宅建築計画について情報を得ること。将来,住宅の数を増すことについて,どんな計画や活動が進められているだろうか。自分の町には,適当な住宅を持たぬ人々が,どのくらいあるだろうか。それらの人々に,いかなる処置が講ぜられつゝあるか。

(二三) 自分の町や村に,疎開している人々の生活を調ベること。疎開前は,どこに住んでいたか,家が戦災をうける以前から疎開していたか,それとも戦災の後であったか。この町村に親類があるか。疎開者の世帯主はどこに住んでいるか。疎開者が困っているのはどういう点か。町村に対する希望はないか。どうして疎開者は,町や村の生活にとけこんで行くであろうか。調ベた結果を,学級に報告すること。

(二四) 最近の新聞や雑誌から,インフレーションと生産力,特に,生産財(鉄・石炭) と消費財(なベ・衣料)との生産率に関する情報を得て,日本経済の現状について研究すること。

(二五) 自分の学校の教科課程について研究すること。学校で教育される教科目の表を調ベて,学校にいる間におぼえられる種々の有効な経験を,表にすること。これらの経験のうちで,自分の就職のために準備されたものは,どういうものか。就職に役だつものとして,現在の学校の教科課程に,さらにいかなるものを附加すべきであろうかということについて,学級で討議すること。

(二六) 最近の自分の学校の卒業生のどのくらいの人々が,職に就くことができたか。どんな仕事に従事したか。自分の学校では,職をみつけるのに役だつような何か指導をやっているか。一九四七年二月の卒業生を,一九四六年,及びそれ以前の卒業生と比較してみること。

(二七) 議義を聞いたり,書物を読んだりして,なぜ貧窮というものが生じて来るかを研究し,貧困者を生る直接の原因について,くわしい表を作ること。また,学校あるいは学級の各員が分担して,町の貧困者につき,貧困の原因・状況・将来の見こみなどにつき,具体的に調査し,前の表と参照して研究すること。いにして貧困を打開すベきがについて,個人及び社会の立場から,討議すること。

(二八) 一般に,日本の家庭では,収入をじょうずに使うために,家計簿をつけているだろうか。家の経済をたくみに処理するためには,どのような教育が必要であるか,討議すること。

(二九) 海外引揚者の援護機関を訪問して,その事業の現状について情報を得ること。自分の学級や学校の中にいる海外引揚者の級友や生徒の生活調査をなすこと。学校に通うのに最も不自由な点は何か。また,現在希望していることは,どういうことかを明らかにして,委員会を設けて,その援助の具体的実行計画をたてること。また,在外同胞救出学生同盟や,引揚援護院(厚生省内)と連絡をとって研究したり,また実地調査にもとづく,引揚援後事業の改善案を定義すること。

(三○) 自分の地方でそれを必要とする人に援助の手をさしのべる私的な施設を,表にしてみること。それらの事業について,討議すること。

(三一) 種々の社会問題に関する政府の社会政策や,公共施設の統計的な表を作り,その効果について研究すること。現在あるもののほかに,政府によって実行されなければならない社会政策・公共施設や機関について,討議すること。

(三二) 日本経済の再建は,国民の現在の生活水準を向上するのにいかなる影響を与えるか。その目的を達するために,どんな具体的な手段があるかを,討議すること。

(三三) 最近の新聞や雑誌の記事から,日本産業の再建計画についての情報を集め,あらゆる利用の可能な資源を有効に使うことについて,討議すること。この際,狭い国土と貧弱な資源しかないにもかゝわらず,高い人口圧を支え,その上に将来,賠償を誠実に行わなければならない不幸な条件を,考慮すること。

(三四) 土地所有制度の民主化と,日本農業の発展との関係を調べ,それが,日本経済の再建に与える影響について,討議すること。

(三五) 工業原料と食糧との輸入の見返りに,国内生産物資の輸出は,きわめて重要である。日本が,将来,外国貿易を許されたとして,それが,われわれの生活条件に与えるよい影響について,討議すること。

(三六) 独占企業の欠陥について調ベ,その解体によって,日本経済の再建にいかなる影響を与えるかを,討議すること。

(三七) 国家再建のために,われわれは,戦前の二倍も三倍もの努力をしなければならない。雇よう主と従業員は,そのためにいかなる責任を負うべきか。

(三八) 戦後における均衡を失った国民経済を克服するために,租税は,いかに徴収され,そして,支出されるベきであろうか。

(三九) われわれの就職のチャンスという題で,学級討論会を開くこと。

(四○) 新聞や雑誌から日本における失業問題に関する記事を集め,その中で興味のあるものを学級で読み,失業問題について討議すること。

(四一) 自分の町の失業者の数・年齢・失業の原因,現在の能力と希望する職業を調ベて,失業救済の方法について,討議すること,過去における日本の失業問題を研究して,これを戦後のものと比ベること。

(四二) 読み物や,先生からの講義によって,英国における産業革命についての知識を得,近代機械生産組織の発達と,失業問題の関係を研究すること。

(四三) 合衆国においては,なぜ日本に比ベて,より広く,より著しく機械の使用が進んでいるのであろうか。人口の過剰と低賃銀が,労働の組織に及ぼす影響について,調ベること。

(四四) 自分の地方の職業補導所を訪問して,その事業の概略について知識を得るとともに,補導生と話し合って,かれらの略歴や,どうしてこの補導所にはいったか,現在何をしているか,将来何をやりたいかについて,調ベること。全国の補導所の所在地,補導生の数,補導科目,及び方法を調ベて,学級に報告すること。

(四五) 自分の町(村)で,現在以上に人を雇うことのできる産業はなんであろうか。正常な生産活動を再開するには,いかなる困難があるだろうか。

(四六) 失業が,個人や社会に及ぼす影響を表わした漫画や,絵を描くこと。

(四七) 「職業教育はなぜ必要か」という題で,討議すること。

(四八) 自分の地方の主要な職業について,それが労働に安定をもたらすか,あるいは安定をもたらし得ないかを明らかにする目的で,それを研究すること。

(四九) 失業保険や,農業保険などの諸制度について,書物を読み,人の話を聞き,知識を得て,このような社会に起る不慮の災難や,不可避な危険を,社会のすべての人々が協力して負担しようとする制度の得失について,討議すること。わが国において,すでに行われているものにどんなものがあるか,その成績や効果は,どうであるか。また,現在準備中のものに,どのようなものがあるか,それはどんな構想を持っているか。これらについて,外国(米・英・ソ連・仏等)のものと比較研究すること。

(五○) 地方の民生棺(従来の方面館)を訪問して,民生委員の仕事について情報を得ること。いわゆる「カード階級」とは,どういう人々をさすのか,どのようにして,ある個人をこの階級に属するかどうかをきめるのか,民生館によって,それらの人々の救助に,いかなることがなされているか。民生委員から案内してもらって,民生館からの扶助を受けている世帯を訪問しその人々の生活について調ベること。直接的な社会扶助を与える現在の制度について討議し,それが適切に管理されているかどうかを決定すること。どうすれば,公の扶助に頼らなければならない人々に対するわれわれの偏見を取り除くことができるであろうか。

(五一) 町の授産場を訪問し,その事業の概要を調べること。毎日幾人ぐらいの人が働きに来るか,働きに来る人々の性別・年齢・生活状態,どんな仕事を現在やっているか,一月にどのくらいの仕事をするか,それによってどのくらいの収入になるか,それだけで生活できるか,特来の希望は何か,などについて調ベ,学級に報告すること。この仕事は,失業問題の解決に,どれくらい役に立つだろうか。

(五二) 公共職業(労働)安定所(職業案内所・口入れ屋)をたずね,その事業についての情報を得て,学級に報告すること。その機構・執務時間,事業の種目,料金をとるか,どうか,従業員はどのくらいあり,その任用法はどうか,などを調べること。利用者の数,職業紹介の方法,就職率,利用者の男女別,年齢,教育程度,生活程度,希望職業と紹介の成立する率のよい職業などについて調査し,報告する。

(五三) 生活困難な人々を扶助するために,村・町・県・国家において行っている種々の施設と機関について調べること。その組織・事業の内容,事業の概要について明らかにすること。集めた資料を手がかりにして,これらの施設によって扶助を受けつゝある貧困者は,どのくらいになっているか討議し,扶助方法の改善について,研究すること。

(五四) パネル討議法(数人の代表が討議し,他の者は傍聴する形式の討議法)によって,政府はいかなる医療制度についての配慮をなしているかを,論ずること。

(五五) 学校へ,社会厚生事業にたずさわっている人を招き,日本における種々の社会福祉の増進に関する事業について話を聞き,町村における改善すベき問題について,話し合うこと。

(五六) 委員を選んで精神病院を訪問し,そこで,医者から患者の取り扱い方法について話を聞いて来て,学級に報告すること。

(五七) 自分の地方で,子供が働きに行くようになる普通の年齢について知識を得,早くから子供を働かせることによって起る悪い影響について,調ベること。

(五八) 自分の地方における青少年に対する公の保護施設を挙げること。孤児院・感化院・少年審判所を訪問し,青少年保護に関する仕事について,知識を得ること。自分の地方に,才能はあるが貧乏な青少年を助けて学校に通わせる奨学資金制度が,あるかどうか。

(五九) 自分の町の浮浪児収容所を訪問し,その事業の概要,勤務者の数とその仕事,収容児童数とその消長・年齢・教育・体格・指導上の困難な点,食物・衣服・布とん,その他児童に課する仕事の種類などを調ベること。調査の結果を学級に報告し,現在の制度における欠陥と思われるものについて討議し,その改善につき提案すること。

(六○) 自分の町には,休養と娯楽(レクリエーション)の機会を与えてくれるものとして,いかなるものがあるか。それは,町の子供や自分たち,また,大人の要求に合するものであるだろうか。大人から見て,思わしくないと思われるようなレクリエーションの施設があるだろうか,これらの施設を改良させるためには,いかなることが必要だろうか。

(六一) 町の少年の不良化について,その種類と,原因とを調査して,その対策を論ずること。この目的のために,近隣の学校と協同して,合同の委員会を組織し,その対策を実行すること。

(六二) 養老保険(年金)・生命保険・傷害保険に関する知識を得て,保険制度で,私的企業組織によるものと,政府の公共事業として行うものと,いすれが国民にとって利益になるかを,討議すること。

(六三) 不具者・貧窮者・失業者・戦災者・海外引揚者を扶助する場所として,日本の家は,どのような役割りを果たしているであろうか。五,六十年前から現在に至るまでに,この点について,家の機能は,どのように変化して来たであろうか。どんな変化が現在みられるか。書物を読んだり,年長者から話を聞いたりして知識を得て,学級で討議すること。

(六四) なぜ自分の町(村)は住みやすい所なのか。どういう点がよくないところか,どういう点が改善できると思うか。

(六五) 文明の進歩によって,いかに肉体の欠陥が除れるかについて調ベ,学級に報告すること。また,発明と文明の進歩は不幸な人々の救助に,いかなる程度に役だつか。政府または私的な社会施設は,これに援助を与えつつあるかどうかを明らかにすること。

(六六) 種々の肉体的欠陥について挙げ,それらの欠陥を持つ人々に対して,いかなる便宜が講ぜられているかを調ベて,報告すること。

(六七) 公立の病院や診療所を訪問して,無料で施療してもらいに来る人々について調べること。その職業・男女・年齢の割合,病気の種類はどうか。特に多い病気は何か。医者の忠告が,者によく守られるかどうか,調ベること。

(六八) 傷い軍人の数を調査し(現に入院中のものと,そうでないものとに分かつ),最寄りの病院を訪問して,その状態を調ベること。再起の道は開かれているだろうか。政府はどのような保障を与えているか。過去における廃兵問題を研究すること。

(六九) 自分の知っているめくら・つんぼ・おし・不具廃疾者について調ベ,仮名または氏名を符号で表わしてみること。どうすれば,かれらみずからも満足し,社会にも役だつようにこの人々の生活を向上させるように指導することができるか。

(七○) めくら・つんぼ・おしの学校を参観し,教育の特別な方法を明らかにすること。点字の歴史を調ベ,点字の新聞や書物を集めて研究すること。現在の教育制度は,かれらを社会の有用な一員となすに十分なものだろうか。

(七一) 日本におけるめくら・つんぼ・おしの学校の数と,このような特殊な教育の沿革を調べて,表にしてみること。できるならば,その生徒数をも調ベて,学校に入って特別の教育を受けることのできる人と,できない人の割合を算定してみること。特別の教育を受けた場合と,受けなかった場合とで,その人の一生に,どれほどの差ができるであろうかを研究すること。それぞれの学校の生徒数の変遷を調ベて,表にしてみること。

(七二) 身体の欠陥と,知能の発達の問に関係がないであろうか。自分の知っている例について,話し合ってみること。頭の悪い子供のために,特別の教育がなされているだろうか。あれば,その教育機関を訪問して,調べて来ること。子供たちは そこで適切な取り扱いをうけてるだろうか。

(七三) 異常児童や,精神薄弱児について書いた書物を読み,その教育にたずさわる人々の苦労や努力を,明らかにすること。

(七四) 刑余の人々を収容して補導する所や,感化院を訪問して,上にならって調査すること。「みかえりの塔」という書物を読んで,感想を発表すること。

(七五) 最近の大きな災害(例えば,関西地方の大地震)についての詳しい情報を得て,その救助に協力した団体の名を挙げること。このような損害を軽減するため,可能な種々の手段について,討議すること。

(七六) 町の復員者及び引揚者の数を調ベ,その人々を訪問して現状を明らかにすること。困っている人たちの数,その人々の何割ぐらいか。また,どの程度に困っているか。自分たちでできる援助の方法と,政府のとるベき処置について,討議すること。傷い者や,遺家族や,引揚者などの要救護者援助のために委員会を組織して,全生徒が任務を分担して活動すること。

(七七) 遺家族を慰問し,困っている人たちに対する援助について考えること。政府として,また,地方の市・町・村団体として,どのような施策をなすベきかについて討議し,提案すること。

(七八) 日本の歴史,特に,社会史・経済史を読み,過去において,上に述ベた活動のような種々の施設で実施されたものにはどんなものがあったかを調べること。最近の新聞・雑誌・報告・書物を読んでくわしい情報を得,現在行われているもの,将来,実施の予定で論議されつゝあるものについての具体的な計画を集めて表にし,その重要と思われるものの順に,しるしをつけること。

(七九) 貧困や,生活難から起って来る問題を解決するために日本において採用可能なもので,外国において,すでに実施しつゝあるものにどんなものがあるか。新聞や雑誌を読み,映画や写真を見たり,ラジオを聞いたり,また,外国の事情に通じている人を訪問して情報を得,日本の計画と比較し,討論会を学級で開いて,その改善策を考えること。次のようなものについて,明らかにすることは有効である。

(八○) との単元の学習の活動の間に集めた資料をまとめ,展覧会を開いて,両親やその他の人々を招待して見てもらうこと。

学習効果の判定

(一) この単元の学習経験の結果,提出された疑問や報告書の判定と,学習に対する生徒の反応を通して,貧困や生活難から生ずる諸問題をいかにつかみ,それに対していかに関心を示すようになったか,記録する。

(二) 会見や,読書や,その他の手段によって,適切な情報を得て報告する能力を,生徒が養えたかどうか,判定する。

(三) 貧困と生活難の問題に対する生徒の得た態度を確かめるために,生徒と個人的に話し合う。

(四) 有効な学習活動についてこれを提案し,それを学級に説明する仕方と,それを実践する能力とについて記録する。

(五) 文書や,口頭や,会報板を用いて,学校内の団体や社会に対して自分の得た惰報を分かとうとする生徒の欲求を記録する。

(六) 単元に着手する前に,貧困や生活難の問題に対する知識と態度とを決定するための予備テストを行い,単元の学習の終り近くになって,態度における変化を決定するために点検のテストを行う。

(七) 生徒が,貧窮救済計画に,喜んで協力するかどうかの記録。

(八) 貧困から起る望ましくない条件を,社会が改善できるものについてなした生徒の提案を考慮する。

(九) 貧窮問題に対する関心によって,生徒が目だった実践活動に入るかどうかを記録する。

(一○) 単元の学習の間に得た重要な経験と,これらの経験の意義について,生徒のまとめたものを見ること。

(一一) 生徒の立てた将来の計画について討議し,それを分析する。この単元の学習を通して,安定した経済生活に対する欲求を,その結果として持つようになったかどうか。

(一二) 生徒が,自分の所有に帰する金銭をどう取り扱うかについて,観察する。

 

単 元 五

 日本国民は民主主義をどのように発展させつゝあるか。

要 旨

 わが国民は,国民の目的や欲求と,国民を構成している個人の目的や欲求とは,民主的な生活によって,また,それと事実は同じことであるが,民主的な政治制度によって,最もよく達成されるという原則を,受け入れたのである。新憲法を採用したことは,われわれが民主的な体制を発展させようとする最も重大な第一歩である。この憲法の条項の数々は,その発布とともに,ひとりでに効果を現わすものではないということを忘れてはならない。憲法によって保障された自由は,家庭や,学校や社会において,人々の対人関係の中に実現されなくてはならない。わが国において現在最も重要な仕事の一つは国民――即ちすべての人々――が,実生活においてわが国の根本法の中に言い表わされている自由に,到達し得るようにしてやることである。この仕事を引き受けるのに用意や準備をよく整えている機関は,学校である。学校は,民主主義の生きた実験室となって,民主的な立法の原理を尊敬し,実践するように,新しい時代を訓練することができる。民主主義についてなした一応承認すべき分析の結果によれば,民主主義は次のような要素を持っていることになる。

 もしこれらの要素が,わが国民によって十分に理解されなくてはならないならば,学校は,学習経験の機会を用意してやって,それによって生徒が民主主義の意味を学び,そのような生活の仕方に向かって心構えをつくるようにしてやらなくてはならない。国民の福祉よりも,自分たちの福祉を考えている支配階級の力によって行われる政治と対照させて,国民の共同の努力によって行われる政治のもとで生活することの意味を,青年男女にいきいきと悟らせるのは,たいせつなことである。生徒は,民主主義というものは,国民がよく教育されていなくては,存在し得ないということ,また民主主義は,すベての人々に役だつ知識を供するものであるということを,悟らなくてはならない。学校が,生徒にこのような経験を与えるべきであるとすれば,学校生活全体が,民主主義の原則によって,指導されなくてはならない。学校管理が独裁的であり,教師が権力的な手段を用いるならば,民主的生活を実際に経験する機会は,ほとんど逸し去られるであろう。

 民主的生活は,政治的なことにだけ限られるものではないということを理解するのは,たいせつなことである。かつては全世界の多くの人々は,民主主義をたゞ政治的な意味でのみ考えて来た。――例えば,国民の権利は,自分たちの官吏を選ぶところにあるとか,選挙した議員によって自分たちの法律を定めるとか,官憲の干渉なしに,ある基本的な自由をうけているとか,いうように。もちろん,民主主義は,このような政治的権利や自由を含んでいるが,しかしそれはまた,経済的,社会的な面を持っている。経済的民主主義には,国の資源や技術,その経済及び政治を,一定の階級の特権を排して,国民全体の福祉や,できるだけ高い生活水準や,すべての国民の安泰な生活を促進するように用いることが含まれている。政府の経済生活における役割は,この目的を進めていくようなものでなくてはならない。

 社会生活における民主主義は,相互の尊敬,人々の間における寛容と協同の努力に関するものである。それには,家族関係の民主化,社会的世襲的身分及び徒党の根絶,教育の機会均等,男女の同権と相互の尊敬などが含まれている。

 この学習に着手するためには,民主主義について,もう一つ理解しておくことが必要であるが,それは,民主主義というものが,完全に到達されることを期待してはならないということである。ある国が民主主義であるか,否か,というふうに考える傾向があるけれども,民主主義というものは,常に程度の問題である。――即ち,ある国民は,他の国民に比ベて,高い程度の自由に達しているというふうに考えるのが,いっそう正しいのである。その生活のすみずみまで完全に民主的であるような国は,世界のどこにもない。また,完全に非民主的であるような国もない。到り得る最高の段階の自由に到達することはすべての国民が望んでいる目標であるが,しかし,この目標にみんなが到達しようとしているのであるから,一部しか自由に達し得ないにしても,それは十分その価値を認めなくてはならない。

 民主主義の体制には弱点があるということは,しばしば指摘されているが,民主主義に固有な欠点というものはほとんどない。最もしばしば論じられている弱点は,実は生活のある面において,民主的な生活の仕方に,うまく到達していないことを示しているにすぎない。民主主義の弱点といわれて来た面は,危局において,かえってその強さとさえなっているのである。

 第三に,民主主義について教師がしっかりと理解していなくてはならないことは,自由の進歩は,次第に発展してゆくものであるということである。自由は,一度に満開の花として咲くのではない。何世紀もの間,人類は自由を求めて,努力し続けて来た。このような努力には妨害もあった。しかし,妨害を越えてやがて,実り豊かな時代がそれに続いたのである。日本の民主的生活も,一挙に現われてはいないし,またこれからも一挙に現われるようなことはないであろう。わが国においても,世界の他の土地におけると同じように,それは次第に発展していかなくてはならない。そうして,その建設者,その擁護者は,ほかならぬ国民自身であろう。

 この学習単元は,民主主義の意味,世界におけるその漸進的発展,日本における現在までのその発展,その成長を増進させる手段,を理解させ得るような経験を,生徒に与えてやることを目ざしている。

目 標

(一) 生徒に民主主義の意味を理解させること。

(二) 生徒に民主主義の原則を解釈させ,家庭・学校・社会における他人との日常の共同生活にこの原則を生かして行くようにさせること。

(三) 民主的な生活の価値についての認識を伸ばしてやること。

(四) 民主的な政治的,社会的,経済的な生活に参加するのに必要な技能を,養わせること。

(五) 民主主義の根本になる政治の組織を理解させること。

(六) 民主主義の経済的社会的な内容を悟らせること。

(七) すべての生徒に,すべての個人に対して深い尊敬をもたせ,個人の価値を悟らせること。

(八) 民主的な価値という点にてらして,行為を判定する能力を,養わさせること。

(九) 民主主義というものは,国民の生活に突然起る変化ではなく,次第に発展するものであることを理解させること。

(一○) わが国において,民主的生活が発展しはじめたことについて,知識と理解とを育て,また,民主的生活を促進することに積極的に協力しようとする気持を養うこと。

教材の排列

(一) 民主主義とは何か。

(二) われわれの家庭生活は,どの程度に民主的であろうか。(一,に掲げられている基準によって判断すること。)またいっそう民主的にするにはどうしたらよいか。

(三) われわれの学校生活は,どの程度に民主的であろうか。(一,に掲げられている基準によって判断すること)。またいっそう民主的にするにはどうしたらよいか。

(四) 民主主義の歴史。

(五) 各国においては,民主主義はどのように異なる政治形態をとっているか。 (六) 民主的政治組織の特色はなんであろうか。 (七) 民主的社会生活の特色はなんであろうか。 (八) 民主的経済的生活の特色はなんであろうか。 (九) 独裁制に比ベて,民主主義はどのような長所をもっているか。 (一○) 民主主義は,なぜある場合には失敗するか。 学習活動の例

(一) 広く書物を読んで,世界の偉大な民主的な指導者のくだした民主主義の定義,日本の新憲法,合衆国の独立宜言やフランスの人権宣言のような文書から,民主主義の定義をたくさん集めること。学級で討議した後,一般に民主的な政治や,民主的な生活に通じると考えられる特色の表をつくること。この単元の習を通じて,民主主義の生活について学ぶにつれて,項目を加えたり削ったりすること。

(二) 民主主義の実際の特色の表がだいたいできたら,この基準にもとづいて,日本の伝統的な家庭生活について,討議すること。

(三) 自分の学校には,非民主的な点はないだろうか。この単元の学習を通じて,自分のつくった民主主義の基準によって,自分の学校の生活を計ってみること。

(四) 自分の市町村当局や,自分の市町村の民間社会団の働きについて研究すること。自分が観察して非民主的だと考えるもの,民主的だと考える行動の表をつくること。

(五) できれば,会合や市町村会,地方の政治の会をたずねること。このようなグループは,一般の人をどのように代表しているだろうか。かれらの活動は,公共の福祉をどのように高めているだろうか。

(六) 自分たちが観察した非民主的な行為と,自分の注意をひいた民主的な行為について,学校新聞の論説を書くこと。

(七) 日本における民主主義の改革遂行について論じている新聞の記事や論説の切り抜きをつくること。それについて,学級で討議すること。

(八) 民主主義の発展に助力した世界の有名な指導者を選び出すこと。これらの指導者の一生や仕事について,学級に口頭で報告すること。

(九) 歴史の書物を読んで,百年前の日本の国民の日常生活について知ること。百年前に比べてどんなふうに自分たちの地方の人々は,前より自由になっているだろうか。

(一○) 戦争中には許されなかったことで,現在では自由にやれるようになったことがらについて表をつくること。

(一一) 西洋古代史の書物や先生の講義から,古代ギリシアやローマの政治的な事情について,知識を得ること。古代におけるギリシアやローマの,ある民主的な発展について,報告すること。そこで発展した民主主義は,国民の大きな団体にまでは拡がらなかったのは,どうしてだろうか。

(一二) 西洋の中世史で,封建君主の支配権がどれほど強かったか,人民の状態はどうだったかについて,調べること。それについて報告すること。わが国の封建時代の状態と比較すること。どんな相違と類似が見られるだろうか。

(一三) 歴史の本を広く読んで,イギリスにおる民主主義が,次第に発展したあとをたどること。

(一四) アメリカにおける民主主義の発展のあとをたどること。 (一五) ドイツのワイマール憲法を研究すること。それは民主的であろうか。なぜ最近ドイツは,民主的な生活を選ぶことに失敗したのだろうか。その原因を表にしてみること。また,日本の現状の中に,似たような条件があるかどうかを明らかにすること。もしあるとすれば,失敗を避けて,われわれの生活の民主化を進める道について,討議すること。

(一六) 日本の主要な政党によって表明された党の原則や政綱を,研究すること。いろいろの政党は,いろいろの人々の信念を,だいたいどのように代表しているだろうか。日本の多数党組織を,合衆国の二党制と比較すること。一党政治は,なぜ国民をうまく代表することができないだろうか。一党制のもとでは,ドイツ・イタリヤ・日本の国民の権利はどんなにしいたげられたか。民主的な政治の働きにとって,なぜ多数の政党が必要なのだろうか。

(一七) 憲法で自分たちに保障されている政治的,社会的,経済的,権利の表をつくること。この表の各条を,自分たちが果たさなくてはならない責任と比較すること。

 例‥自分は言論の自由の権利をもっている。しかし,自分はこれを用いるに当たって,中傷とか悪口とかを避ける責任をもっている。

(一八) 日本における民主主義の漸次的な発展のあとをたどること。

(一九) 労働組合は,生活水準を高めるのに,どのような力となっているだろうか。イギリス,合衆国,あるいはヨーロッパ諸国の労働組合の歴史を研究し,日本の労働組合の歴史と比較すること。

(二○) 産業革命は,どのように国民の力を拡大しただろうか。イギリスを例にとって作文を書くこと。なぜそうであるかについて,討議すること。

(二一) 6−3−3学校制度について,いろいろな方面から広く知識を得た後,わが国の教育の民主主義にとって,それがどんな意味をもつかについて,討議すること。

(二二) 学級の指導者をきめる学級選挙をやりながら,民主的生活を進めるのに,力となるような指導者の資格や義務について,討議すること。

(二三) 新憲法の重要な条項の研究のための委員を指名して,その報告にもとづいて,自由討議を行うこと。特に次の点を考慮すること。

(二四) 各国(合衆国・イギリス・フランス・ソ連及び中国)の生活における,違について,また,各国の民主主義の程度について,学級で討議すること。

(二五) 警察官あるいはその他の官吏を教室に招いて,最近の警察行政その他の制度や機能や,また,公僕の義務の変化について,話をしてもらうように頼むこと。そのあとで,わが国の役所や官吏がどのくらい民主化したかについて,討議すること。

(二六) 自分の地方の政治の組織について,明治の後期から現在に至るまでの変化を研究すること。住民が政治活動に参加する機会は,どのように大きくなったろうか。外国の地方政治組織について研究した後,それと自分の地方のそれとを比較して,自分の地方の政治組織で改良すべき点を,明らかにすること。

(二七) 一般投票と普通選挙について研究すること。わが国の民主的な生活を促進するために,なぜこのような政治機構を採用する必要があるのだろうか。自分のもっている知識をもとにして,討議すること。

(二八) 自分の地方に在住する代議士を招いて,議会と選挙について,話をしてもらうこと。市・町・村議会・都道府県会・国会の議員選挙の資格の表をつくること。

(二九) 模範的な討議を行い,数名の生徒を選んでそれに参加させること。他の生徒は,傍聴者あるいは批判者として出席すること。その際,討議をしているものについて,次の諸点に注意して,自分の反省の資とすること。

(三○) 日本における政党の発達史を研究して,報告すること。現在の政党の政綱を集め研究すること。また,その政綱のおのおのがどの程度に世論を反映しているかについて討議すること。

(三一) 世界における三権分立の発展について,また,政治的民主主義にとってそれが必要なことについて,研究すること。「三権分立に関してみた新旧憲法の本質的相違」という題で,作文を書くこと。

(三二) 地方裁判所をたずね,裁判の過程について,そこの官吏に話をしてもらうこと。現在の裁判の過程と,江戸時代のそれとを比較し,その知識をもとにして,なぜそういう違いがあるのかということについて,討議すること。

(三三) 日本の家庭生活と,西洋の民主的な国(イギリス,合衆国,または他の国々)の家庭生活とを比較すること。わが国の家庭生活において,改善すベき点を改めるには,どうしたらよいかについて討議すること。

(三四) わが国の家庭生活における女性の地位の改善について,学校で討議すること。

(三五) 自分たちの地方の生活で,非民主的と考えられることがらについて,表をつくること。徒党や世襲的身分などがあるだろうか。もしあるとすればなぜそういうものが存在しているのか,その理由について,またそれが自分たちの地方に,どんなよくない影響を与えているかについて,討議すること。そういもののあった方が利益になるという人があるだろうか。

(三六) いろいろなところから知識を集めて来たのち,資本主義における重要な困難な問題を見出だすこと。国民の経済生活をもっと民主的にするためにこのような問題を解決するのは,どういう意味で必要だろうか。

(三七) 資本主義と社会主義との相違を,例えば次の諸点に関して,表にすると。

(三八) 社会主義は,民主的な方法で実現できるだろうか。もしできるとすれば,それが可能なために,国民はどんな努力をしなくてはならないかについて,討議すること。

(三九) 労働組合の指導者をたずねて,その労働組合の目的と活動について話してもらうこと。他のところからもいろいろ知識を得て,労働組合の一般的な目的について,学級に報告すること。その知識をもとにして,国民の経済生活の民主化と,健全な労働組合運動の発展との間の本質的な関係について討議すること。

(四○) 独裁制から生ずる不利な点の表をつくること。(最近のドイツ人,イタリヤ人,及び日本人の運命について研究し,それらすべてに共通する点を見出だすのがよい)。政治,社会的及び経済的な民生活に関して,民主主義が独裁制よりも有利な点について討議すること。

(四一) 共産主義は,民主的であろうか,また,民主的になることができるだろうか。新聞記事や雑誌から,各国の共産主義運動の情報を多く集めたのち,上の問題について討議すること。

(四二) 国際問題に関して,新聞の切り抜きをたくさんつくること。それを材料として,民主主義の発展について作文を書くこと。日本は,世界の民主化の促進に対して,どんな任務をもっているか。

(四三) 昭和二十年以来の政治的,社会的,経済的生活の変化によって生じた事件を観察する委員を選ぶこと。われわれの公共の福祉を向上するのに好ましくない傾向が,どのくらいあるだろうか。われわれの状態を改善し,民主的な生活を発展させるためには,どんな手段があるだろうか。またどんな手段が必要だろうか。国民の政治的,社会的,経済的な生活の改善のために,教育はどんなに重要だろうか。

学習効果の判定

(一) 生徒は,民主的な原則を,日常生活に実践しているだろうか。その家庭,学校及び社会における民主的な活動に,生徒は進んで熱心に参加しているだろうか。

(二) 生徒は学校の日常生活で,他人に対して関心を示しているだろうか。

(三) 生徒は,民主主義の発展は,漸次的に進んでゆくものであるということを理解しているだろうか。また,民主主義の歴史的発展に親しむようになったか。

(四) 生徒は,民主主義に関する文献を読んだり,民主主義について討議をしたりしているか。

(五) 生徒は,日本の近代史を読んでいるだろうか。

(六) 生徒は,民主的な生活の価値を認めるようになっているか。

(七) 生徒は 民主主義は各国において,違った形をとっているということを知り,これを理解しているか。

(八) 生徒は,新旧憲法の本質的な相違や,新憲法発布の理由について知っているか,またこれを理解しているか。

(九) 生徒は,議会と世論について,また,民主主義を支えている政治機構の全体について,正しい知識をもっているか。

(一○) 生徒は,日本の民主化に関するいろいろな施設について関心をもち,討議しているか。

(一一) 生徒は,学校や社会における非民主的な行為に,活ぱつに反対しているだろうか。

 以上の態度や理解の発展についての証拠を得るには,集団討議や共同作業における生徒の活動の観察によって,また,そのような主題について生徒の書いた報告や作文によって調べればよいであろう。

 

単 元 六

 われわれは世界の他国民との正常な関係を再建し,これを維持するために,どのような努力をしたらよいか。

要 旨

 日本は太平洋戦争のおもな責任者として,現在連合国の管理のもとにおかれ,ポツダム宜言の各条項を完全に履行して,国家を再建すベき途上にある。過去十数年の日本には極端な国家主義的傾向が支配的であった。それは国家と民族とを至上として,国際関係の正常な道を閉ざしていた。そのために国際関係において孤立に陥り,現在の悲境を招く結果となった。それは世界の平和と福祉にとってもまた日本自身にとっても大きな不幸であった。もとよりこのような運命にたちいたったのは,日本自身の内部におけるいろいろの社会的条件によるものである。中でも日本の国民生活が,政治的にも経済的にも民主化の過程が進まなかったこと,そのために絶対主義的,独占資本主義的傾向やさらに軍国主義的遺制が,日本をして侵略的な政策をとらせたというととが最も大きな原因の一つであろう。しかし敗戦を契機として日本は民主国家としての再建に向かって進みつゝある。民主的な国民生活を実現することは,また正常な国際関係の回復を期することのできる道であろう。けだし国家は文化的,政治的,経済的にいっても,孤立して存立することはできず,常に国際社会の平和を愛する一員としてのみ存立し得るからである。

 日本は過去を精算し,平和な国家に発展しつゝある国家として,戦争の放棄を宣言し,交戦権を否定した。これは日本の決意を示すものであるが,この宣言の精神にもとづいて,国際関係の再開とその正常な維持のために努力し,国際社会の一員として,世界の平和と文化とに貢献しなくてはならない。そのために,われわれは,人種の差異や国籍の相違を越えて,ひろく人類をつゝむ人道主義的精神を養い,また国家の発展が丈化的,経済的・政治的な面における正常な国際関係にいかに負うところが大であるかを深く理解し,またわが国民社会そのものを平和な民主的社会に育てあげなくてはならないであろう。特に最もたいせつと思われる点は,武力を放棄したわれわれが,自己の保全と世界の平和のために,複雑な国際関係を認識しつゝも,なお国際関係と人道とに対して限りない信頼を捧げる精神になって,今後の国際関係の再建と維持とを計ることであろう。

 この単元は,以上のような趣旨にもとづいて生徒が国際関係に対する理解と態度とを発展させることを目的とする。

目 的

 日本の青年が国際生活における文化・経済・政治及び社会の秩序について理解を深め,それを自分の日常生活に具現させ,平和を愛する日本の正常な国際関係の再開と維持とに役だつような意見をつくり,また,それを実現する態度を養うこと。

(一) 国際生活がわれわれの日常生活にとって持つ重要性の理解。

(二) 日本及び世界の現状を明らかにするために,その過去の歴史を理解すること。

(三) 戦争がいかなる不幸を人類と家と個人に与えるかを理解すること。

(四) 世界の他の国民を公正な立場で知ろうとする意志と能力とを発展させること。

(五) 世界の現状や過去を科学的に研究する態度を発展させること。

(六) 国家と世界の将来に対して,明かるい希望をもってつくそうとする個人的責任をもつ態度を強めること。

(七) 国際関係の複雑なことを認識して,問題の安易な解決に対して批判的な態度をもつこと。

(八) 国際問題について適切な情報を見だしたり,利用したりする技能を養うこと。

(九) 国際問題について宣伝に迷わされず,正しい意見を持ち得る能力を育てること。

(一○) 平和のために,協働して計画的に行動するに必要な技能を育てること。

教材の排列

(一) 諸国家はどのように関係しているだろうか。

(二) 日本は国際関係の中でどんな地位にあるか。 (三) 世界平和に対して日本はどのような寄をすることができるか。 学習活動の例

(一) ギリシア人・古代中国人が一般に他国民に対してどんな態度をとったかを調ベること。それは真の愛国心からであろうか,討議すること。

(二) フランスあるいは英国の成立について研究すること。どのようにして近代ヨーロッパの国家は成立したかについて学級に報告すること。

(三) 国家のためにつくすということと世界の平和,人類文化の向上に寄与するということとの関係について討議し,世界平和に必要な条件について例を挙げて各自作文をつくること。

(四) フランス国民軍をひきいたナポレオンはなぜ強ったか。合衆国はなぜ独立し得たか。フランスの人権宣言,合衆国の独立宣言を調べて報告を書くこと。

(五) 世界における主要生産地域と主要通商路を示す地図をつくること。ある定期間内における日本の外国貿易に関する資料で役に立つものはすべて集めること。大地図,図表,グラフによりこれを図解すること。日本の輸出品の送出国,及び日本の輸出品が積み出された図を示すこと。これらの輸出品を陳列すること。それぞれの国が他の国にどのように依存しているかを各種の図を用いて示すこと。

(六) 過去における日本と(例えば)デマルク,あるいは南アフリ力及びその他の国との経済的関係を,直接間接をとわず調ベて報告すること。

(七) 戦前の日本及び他の国々の関税を調査研究すること。その貿易に及ぼした影響を論ずること。関税は果たして世界貿易を害したどうか,という問題を討議すること。手紙を出すなり,個人的に会うなりして,専門家から関税について意見を聞くこと。

(八) 国々の間に製品が交換される状態を示す展覧会を開くこと。学校の他の学級をこの展覧会に招くこと。父兄にも展賢会に立ち合ってもらうこと。

(九) 日本がかつて他国から学んだ政治形態,組織などについて歴史的に調べてみること。それを採用して,わが国にとってどれほど役に立ったか。民主的な政治機構の形式が改良された例と非民主的に利用された例を探し出すこと。

(一○) 国際法とは何か。明治以後日本が他国と結んだおもな条約を研究すること。

(一一) 毒ガス使用禁止というようなある国際法の問題について勉強すること。国民と個人によってなされる行為で国際法によって禁じられているものいっさいを表にすること。

(一二) 第一次世界大戦に合衆国はなぜ参戦したか。ドイツと合衆国との関係について調ベてみること。

(一三) 近代において日本から他国に移住した日本国民の数を示す図表どグラフをつくること。自分のつくった図表を学級に説明すること。その際日本人の移住した国々を示すこと。同じ時期に行われた外国人の日本への渡来についても同様の図表をつくること。

(一四) 日本が他国から学んだ技術と考案とを表にすること。日本と他の国々との文化交流を図解した地図をつくること。

(一五) 日本人の生活上のしきたりと習慣をできるだけたくさん集めること。(家庭・学校・まちでの行動・習慣・種々の慣行),外国から来たものはグラフ図解の方法を用いてその出所を示すこと。現代日本の慣習をそれぞれ他国の慣習と比較してみること。

(一六) 日本へは昔からどんな他国の宗教家が渡来したか。その人たちはどんな影響を日本人に与えたか。歴史の書物によって研究し,学級に報告すること。

(一七) 自分の学校に,洋行したことのある人々を招くこと。外地の生活のいっさいを話してもらうこと。できれば,例えば合衆国といったある一定の国をたずねた数人の人の話を聞き,各人の印象を比較してみること。

(一八) 合衆国その他の国々でつくられた映画を見ること。いつでもそれらの映画が,文字で読んだものと比ベて,いっそうよくその国の生活を表わしているかどうかを明らかにするように努めること。

(一九) 他国の人々の生活のありさまを示した劇を書き,上演すること。

(二○) 他の学級に外国の生活について,実物説明をしてやるために開く会のプログラムを準備すること。

(二一) 他国の作家たちの書いた本を読むこと。それについて学級に報告すること。著者の意見を,いちいち学校で討議すること。

(二二) 他国の劇作家の書いた演劇を選び,学校の他の学級に先んじて上演すること。

(二三) どうして,ラジオと飛行機が文化の国際的交流を加速度的に促進したかを示すこと。すぐれた外国放送を聴取すること。それについて学級で討議すること。

(二四) 他国の音楽のレコードを手に入れること。学校か家庭のラジオでレコードに吹きこまれた交響楽団の演奏を聞くこと。

(二五) 外国の絵画の模写を集めるとと。それらを生活の解釈という点を中心として日本の絵画と比較すること。

(二六) 音楽の先生に他の諸国でつくられた歌を教えてもらうように頼むこと。

(二七) 他の諸国の青年の行う競技(室内及び野外)を知ること。自分の学校にそれを紹介すること。自分の現にやっている競技の起源を明らかにすること。

(二八) 近代即ち明治のはじめからの日本と他国の関係を研究すること。近代史の種々の重大な局面に際してとった日本の外交政策を学級で討議すること。どうして日本の外交政策が他国との紛争に日本を引き入れたかを明らかにすること。

(二九) 委員を選んで一九二二年のワシントン条約,ケロッグ−ブリアン協定,一九三○年のロンン海軍会議,九箇国条約,その他一九二○年から三七年の間に行われた国際間の会議及び協定につき報告を集めること。個々の事件に対する日本の態度を批判的に調査すること。

(三○) 委員を選び,国際連盟に関する役に立つ知識――即ちその起源,組織及び存続した間になした活動の記録――を得ること。連盟の活動に際し,日本の占めた役割を討議すること。

(三一) 役に立つ事実,情報を集めたのち,日独伊において,軍国主義が平行して成長した事実について討議すること。政府内の軍国主義の成長が,これら三国の外交政策にどんなに影響したかを示すこと。

(三二) ツダム宣言についてのあらゆる事実を知って,そこに記されている各条項から,現在の日本の地位を明らかにすること。連合国軍占領後,発せられた連合国軍司令部の指令のおもなるものについて研究すること。

(三三) 読書の研究・討議によって戦争の原因を見出だすこと。それをすべて図表にのせること。一段目にそれを書き,二段目にはおのおの原因を説明する例を挙げること。それにもとづいて平和への見通しを研究すること。

(三四) 次のようなことで利益を得ようとした人々が戦争で演じた役割について学級討議すること。

(三五) 大実業家の幾人かが営利のために戦争に協力した,ということについて,証拠をあげることができるか,どうか。

(三六) 日本が第二次世界大戦をひきおこした原因について,表をつくること。

(三七) 学級で戦争の経済的,社会的損失について論ずること。

(三八) 昭和十二年(一九三七年)に始まり昭和二十年(一九四五年)に終った戦争で死傷した人の数について情報を集めること。

(三九) 自分が手に入れることのできる歴史の教科書や参考書から人類が平和を求めるために,何世紀にもわたって展開した努力について知ること。学級の生徒が次のような課題を分担するようにきめること。

(四○) パリ・モスコー・ニューヨークの四国外相会議,平和会議について,また米・英・中国・ソ連等の平和に対する努力,及び小国家群と平和といこうとについて,勉強し討議すること。

(四一) 国際連合の憲章を遂条的に検討討議すること。憲章に関する新聞記事をできるだけ多く集めること。国際連合の起源・組織・目的を討議すること。国際連合の機構に関する記事を切り抜いて保存すること。それらの記事を見つけしだい,学級で朗読し,それについて学級討議すること。

(四二) 第二次世界大戦後,社会理想はどのような変化をうけたろうか。学級でそれについて調ベ,戦後の理想世界について,一定の結論を出すような討議を行うこと。

(四三) 国際問題に関する新聞の切り抜きでスクラップ・ブックを作ること。

(四四) あへん取り引きを抑制し,労働者の状態を改善しようとする国際的な試みについて報告(文書または口頭)すること。

(四五) 「戦争を防止するために仲裁が,どういうふうに用いられて来たか」という題目で学級に報告を準備し,それを述べること。

(四六) 新憲法の戦争放棄・文化国家の建設の重点について作文をつくり,学級で発表し批判しあうこと。できるならば近隣の高等学校と公開討論会を行うこと。

(四七) 日本が平和の国となるために必要な条件を研究し,それを表に作って,現在の状況と比較すること。

(四八) 日本がいろいろな時代に人口問題の解決に対してとって来たいろいろな政策を歴史的に比ベること。今後の日本は人口問題をどうすればよいか。平和的な解決という点から現在の資料を集めて研究すること。

(四九) 新憲法の規定している社会理想の各条項について,他の民主諸国家のそれと比較研究してみること。

(五○) ニュース記事にもとづき,民主主義諸国が平和達成のためには,いかに喜んで自国の意図のうちのあるものを犠牲にするか,ということを立証すること。

(五一) 国際競技の記録を調ベること。日本がオリンピック競技やデ杯戦やその他国際的なスポーツに加わっていたときの状況を示すこと。

(五二) 人類の福祉に寄与したことによって国際的名声を得た人々の伝記――例えばウッドロー・ウイルソン,トーマス・マン,フランクリン・デラノ・ルーズベルト,キューリー夫人,アインスタイン――を扱った文章を学級全体のために書くこと。

(五三) 極端な国家主義者が自国と他国とに対して与えた不幸の例を挙げて,討議すること。

(五四) 他の国々の人々との協力を討議する学生討論会を組織すること。

(五五) 手紙を書いたり,個人的に面会したりする計画を立てて,日本が一九四一年より前に学生・教授・医者・科学者等を他の国々と交換した方法を調査すること。このことが関係諸国民をどのように利したかを示すこと。

(五六) 国際労働会議の歴史を調ベること。労働者と世界平和という題目で作文を書き討議すること。

(五七) 自分たちが日本人の誇りとして持ち得るもの(伝統・性格・文化的遺産等) について科学的に検討し,他国民のそれと十分比較して学級で一覧表にまとめてみること。

学習効果の判定

 到達すべき目標に即して判定と行うことがたいせつである。その場合次のような諸点を含むべきであろう。

(一) 生徒は,国際問題に対して関心を示すようになったか。

(二) 生徒は,戦争の害悪を知って,平和に対する熱意を高めたであろうか。

(三) 生徒は,外国及び外国人に対して,いっそう関心と同情とをもつようになったか。

(四) 日本の国際的地位について,生徒はどこまで理解し,世界と日本との将来の関係についてどこまで自分の責任において考える能力を,示すようになったか。

(五) 生徒は,日本の戦争放棄の意味を十分に理解したであろうか。

(六) 生徒は国際感情を高めるために種々の計画をする能力ができたであろうか。

(七) 生徒に情報を判定したり,分析したり,集めたり,解釈したり,まとめたりする能力ができたであろうか。

(八) 生徒は,速く,徹底的に,簡潔に,正確に,自主的に,また集中的に仕事をする習慣がついたろうか。