第五章 学習結果の考査

一 なぜ学習結果の考査が必要か

 前にのべたように,われわれは,学習を指導するにあたって,まず,環境をととのえて児童や青年の活動を刺げきし,また,これを誘導する。児童や青年はその活動によって学習の目ざすところに近づいて行く。このようにして,学習の目ざすところに向かって,教師と児童青年とが共同するところに,教師の指導と,かれらの学習とが動いて行くのである。しかし,ここで問題になるのは,これによって,児童や青年が,一つ一つの学習に,どれだけの効果をおさめることができたかということである。

 この問題を解決するには,学習するのが児童や青年である以上,かれらがこの働きによって,どう変わったかを,つきとめてみなくてはならない。しかし,このような学習結果をつきとめてみることは,それでただ上のような懸念をはらすことができるというだけでなく,これによって,教材が果たして適当であったかどうか,また,教師の環境のととのえ方や,活動の呼び起し方,すなわち,指導法が適切であったかどうかを反省することができるし,また,―人一人の児童や青年の学習結果を知って,これからの指導の出発点をはっきりさせたり,その指導計画を考えたりするいとぐちを見つけ出すこともでき,これあって,はじめて指導の結果を,よりいっそう,あげることができるのである。ここに,学習の結果を考査する一つの大きい意味があるのである。

 いまいったのは学習結果を考査する意味を,教師の側から考えたわけであるが,これを学習する児童や青年の側にたってみると,このような学習の進行の現状を知ることは,自分の学習が,その目ざすところにどれだけ近づいているかを,はっきり,とり出してみる機会となり,これによって,かれらもまた,これからの学習を如何にすべきかを考えるいとぐちをつかむことができ,学習の効果をあげて行く上に,たいせつなものを得ることができるのである。ここにも,学習結果の考査のたいせつな意味がある。

 以上のようにして,われわれは,児童や青年の学習の現状をしらべることが,学習指導の効果をあげて行くために,欠くことのできないことだということがわかる。学習結果の考査は,いやしくも学習の指導をし,その効果をのぞむ以上,欠くことを許されないところといわなければならない。

二 如何にして考査するか

 以上のような必要に応じて,学習結果の考査をしようとするのであるから,その方法は,次のような条件を満足させるものでなくてはならない。

1.児童や青年の学習した結果を正しく知ることのできる方法であること。学習結果の考査では,まず,何より先に児童や青年の学習の現状を正しく示すことが先決問題である。

 学習結果がぼんやりとしかわからなかったり,考査するものの主観的なものがはいりこんで,その状態を見ることにまちがいが起こりやすかったり,学習結果の一部しかわからなかったりするような方法は,適当なものとはいわれない。学習結果を如実に見ることができることは,考査方法の第一の条件である。

2.学習指導の目ざすところを明らかにできる方法であること。学習結果の考査は以上のように,学習の結果を正しく見ることができるというに止まらず,学習の目ざすところに,その焦点が向いていなくてはならない。学習の指導は,一つの目標を持っている。児童の学習結果を知るということは,この目標とするところに,どの程度に近づいているかを知ることである。学習の目ざすところにはずれたことが,いくらはっきりしても,考査の目的は達せられない。学習結果の考査方法は,いつも,この目ざすところについて,はっきりするように考えられなくてはならない。これが第二の条件である。

 このようにして,学習結果の考査方法は,いつも,学習の目ざすところと関係して,それをどうしたら正しく調べることができるかについて,吟味されなくてはならない。この吟味に,どんな方法がたえることができるかは,具体的には,各教科のそれぞれの単元において,考えらるべきことであるが,いまその具体的なものへの橋渡しとして,その方法の種類と,どういう場合に,これを用いてよいかについて,一応の説明をすることとする。もちろん,考査の方法は,ここにあげてあるものばかりでなく,このほかにも,いろいろ工夫することができよう。また,ここにあげた方法にも,一長一短があって,完全なものとはいえないだろう。ただ,考査法を考える場合の,参考のためにあげるにほかならない。さて,この意味で考査の方法を見渡して見ると,そこには,極めてたくさんの種類を見出すことができる。まず,学習の目標とするところから 知識の有無正否を調べるもの

考え方や見方の理解を調べるもの

技能の状態を調べるもの

熟練の状態を調べるもの

態度の如何を調べるもの

鑑賞力を調べるもの

を区別することができる。また,学習の状態を全体としてみるか,部分部分を分けてみるかによって, 総合的な方法

分析的な方法

に分けられ,更に,その方法によって,調べた結果を児童や青年の達すべき標準に照らして見ることができるかどうかによって, 標準化された方法

標準化されない方法

に分けることもできる。

 これらのうち,標準化された方法は,一つの学習の目標に関係して,非常に多数の標準的な児童や青年の学習状態を調べて,その結果を統計的に処理し,これによって児童や青年の学習到達点の標準を作り,考査の結果を,この標準に照らして,判定できるようにしてあるものである。学習結果を調べる方法として,結構な方法であるが,いまこれから指導される新しい内容について,早急にできる方法ではない。ここでは,このような標準化の方法は一応のぞいて,指導の目標の違いによって方法を分け,これを更に,総合的方法と分析的方法とに区別して,そのおもなものを説明することとする。

(一)知識と考え方の考査

 学習には,知識を得ることを目ざしているものがある。文字の読み方,書き方,歴史的な知識,地理の知識,科学の知識などを目ざす学習がそれである。

 しかし,学習の目ざすところが,知識に止まらないことはいうまでもない。学習には科学的な考え方,数理的な考え方,道徳的な判断,家事処理の考え方といった考え方の理解を目ざすものがある。もちろん,このような考へ方は,知識から離れているものではない。むしろ二つのものが,知的な理解のうちに見出だされるというのが真実だろう。ただ従来は,この考え方の理解を軽くみて,知識を得る方に重きがおかれていたかの観があった。そのために,学習することを,暗記することであるかのように考える傾きがあったのである。そこで,ここに,特に考え方ということを,とり出してみたのである。

1.総合的な考査法。

A その種類。

 知識を調べるとか,考え方を調べるとかいった区別をせずに,また関係し合っている知識を,部面部面で分けて見ないで,これらを全体として見て行こうとするものが総合的方法である。

 その方法には

(1)常へいぜいの児童青年の学習状態をいろいろな機会に見て,これらを全体として,その学習状態を判定するもの

(2)学習帳などを調べて,その全体について,学習の状態を判定するもの。

(3)知識や考え方が全体として働くような問題を提出して,報告や論文を書かせ,これで学習状態を判定するもの。

(4)知識や考え方のいろいろなものが,全体として働く問題を提出して,口答させたり,筆答させたりして,これによって,学習状態を判定するもの。(3)と異なるところは,問題の性質が比較的簡単で,したがって,その答も簡単にできるというだけである。たとえば「鎌倉時代の武士の生活と農民の生活との違いを述べ,そのわけを答えなさい」といったようなものがそれである。これまでのいわゆる考査に用いられた問題の多くはこれである。
 
 

B その長所と欠点。

 先にいったように,もともと考え方と知識とは,関係し合うものであるし,知識全体としてまとまりをもっているのであるから,上のような総合的な方法は,適切なものといえる。ただ,われわれが,児童や青年の学習状態をはっきり知るには,どの部面が,どんな状態であるかを,明らかにしなくてはならない。それをただ全体として見ることだけに満足すると,実際にあたって,これから児童青年をどう指導するかを考えることがむずかしくなる。たとえば,算数の事実問題を提出して,その答の正否で学習状態を判定するものなどは,一種の総合的な考査法といえるが,それだけに止まって,考え方に誤りがあるのか,計算に誤りがあるのかを確めないようでは,これから児童や青年をどう指導して行ったら,効果があがるかを考えることはできない。更に,総合的な方法は,その全体の印象から判定すると,主観的な判定が勝って,一人の判定と他の一人の判定とに,大きい違いが出て来る。これも考査が正しく学習状態を調べなくてはならないという点からみて,一つの欠点をなすものである。

C 総合的方法を正しく用いる上の注意。

 そこで,この方法を用いるのは,学習の目標が総合的なものにある場合においてであるが,なお考査の条件から見て,次のような注意が必要である。

(1)判定を客観的にする工夫。

 いま述べたように,全体の印象によってぼんやりと判断すると,主観的になるものだから,後に述べる記述尺度の方法を参照して,これによって,客観的に判定のできるように工夫することが必要である。

(2)内容の要点をはっきりさせること。

 全体を全体として見るだけでは,学習状態を調べるには不十分であるから,この全体について,この点と,この点と,この点というように,要点を取り出して,それによって見て行けば,学習状態をはっきりさせるに効果が多い。

(3)分析的方法を併用すること

 この方法によって,全体の関係し合った状態を見ると同時に,別にその部面部面について,分析的方法によって考査し,これらを照らし合わせて,学習状態を調べると,総合的な方法の長所を発揮させるとともに,その部面部面についての学習状態を明らかにすることができる。
 
 

2.分析的な考査法。

 総合的な考査法が,学習状態を全体として調べようとするのに対して,この方法は,これを部面部面に分けて見て行こうとするものである。これらは,主として知識の有無や正否を見ようとするものと,考え方の理解を見ようとするものとに分けることができる。もちろん,これらは関係し合っているものであるから,全くきりはなして見ることはできないが,主とするところから,このように分けてみられるのである。

A 知識を調べる方法。

 主として知識を調べる方法としては

再生法

選択法

真偽法

組み合わせ法

記録法

図解法

なとがあげられる。次にその方法の概略を述べておこう。

(1)再生法。

 この方法は単純な知識の有無,正否を調べるのに用いられる。文字の読み方,書き方,簡単な社会的知識,理科の知識などは,この方法で調べることができる。たとえば

 例一

次の文字にフリガナをつけなさい。

空 天気 散歩 星 雪 村 月夜 雲 屋根 荷物

 例二

次の問について,たいせつなことだけを短く答えなさい。

1.等温線とはなんですか。

2.空気はおもに,なんとなんとからできていますか。

3.鉄や銅のさびるのは何の働きですか。

4.口からはき出した息を,管で石灰水の中に吹き込んでみると白く濁るのは,息の中に何があるからですか。

5.気体の体積は圧力が一定である時,温度が高くなるとどうなりますか。

6.一気圧とは,温度が何度の時,水銀気圧計の水銀柱の高さが760ミリメートルになるのをいうのですか。

7.一気圧の圧力は,1平方センチメートル当り,およそ幾グラムの重さに相当しますか。

8.きりで作ったたんすに衣類をしまっておくと,いたむのが少ないのはなぜですか。

9.ある温度で,空気中の水蒸気が飽和の状態になっているとき,それより少し温度が下がったら,その水蒸気はどうなりますか。

10. 手を水でぬらして吹くと,冷く感じるのはなぜですか。

 例三

次の問の答を,その右のかっこの中に書きなさい。

1.だれが鎌倉幕府をはじめて開きましたか。(   )

2.鎌倉に幕府が開かれたのは,今から何年ほど前ですか。(   )

3.道元が支那から伝えた新しい仏教は何宗ですか。(   )

4.鎌倉時代にできた一番名高い和歌の本の名を書きなさい。(   )

というようなものがそれである。

 成績は正答数でみるか,出した問題の総数に対する正答数の割合でみる。
 
 

(2)選択法。  この方法も,比較的単純な知識の有無や正否を調べる場合に用いられる。例に見るように,一つの問に対して,適当な答と,不適当な答とを順序なく並べておいて,そのうちから,適当な答を選ばせ,それに○なり傍線なりをつけさせるものである。再生法と違うのは,答の正しいものが問題のうちに含まれているところにあるが,それだけ偶然にできる場合が出て来る。すなわち,でたらめに印をつけても,正答したことになる場合があるのである。そのために,答は四つ以上にし,偶然にできる割合を少なくすることになっているが,そうやっても,これを全然なくすことはできない。

 例

 次の文章で,かっこのなかに並べてあることの中から,よくあてはまるものを拾い出して,その横に線を引きなさい。

 やりかた
  
        東 京
鎌倉幕府は   
        名古屋
 
1.鎌倉幕府をはじめて開いたのは 平 清盛

源 実朝

徳川家康   である。

源 頼朝

北条時宗

 
 
2.鎌倉幕府は 仏教の力で

朝廷の力で

人民の力で  開かれた。

公家の力で

武士の力で  
      

 
 
3.道元は支那から やきものの作り方

禅宗(そう洞宗)

キリスト教     を伝えた。

絵のかき方

真宗


(3)真偽法

 例にも示したように,この方法の形式にはいろいろあるが,一つの文章を提出して,それが真であるか,そうでないかを判断させる方法である。やはり,比較的簡単な知識の有無,正否を知ろうとする場合に用いられる。

 例

 次の文章を読んで,そのとおりだと思ったら,「そうです」の上に○印をつけ,間違っていると思ったら,「違います」の上に○印をつけなさい。

1.セルロ−ズは炭素,酸素,水素の化合物です。

                        そうです ちがいます

2.木綿は酸類に強く,かせいソーダのようなアルカリに弱い。

                        そうです ちがいます

3.人造絹糸は,木綿よりも,かせいソーダに対して強い。

                        そうです ちがいます

4.新聞紙が,日とともに変色して弱くなるのは,リグニンを含むことが少ないからです。

                        そうです ちがいます

5.フィブロインは,にかわ状のもので,熱湯や石鹸液に溶ける。

                        そうです ちがいます

6.洗たくした時,白地の布よりも,黒地の布のほうが早く乾く。

                        そうです ちがいます

7.洗たくするとき,すぐ石鹸液で洗うよりも,その前に水で下洗いをしたほうがよい。

                        そうです ちがいます

8.石鹸の洗浄作用は酸にあうと悪くなる。

                        そうです ちがいます

9.石鹸を水に溶いたものに,フェノールフタレインを,一しずく加えると赤くなる。

                        そうです ちがいます

10. さらし粉の漂白作用は,酸化作用でなく,還元作用である。

                        そうです ちがいます

 この方法は,このように真偽のうち,どれかに判断を下すのだから,全部を真としても,全部を偽としても,ある程度の正答が得られる。つまり,でたらめにやっても,ある程度にできることになる。そこで,この方法は,まず,問題を多くすることと,真偽を半分半分にして順序なく排列することで,この欠点を少なくすると同時に,採点するには,正答数から誤答数を減じてその成績とし,なお,それが零点になったりマイナスになったりした場合は,成績は零点とする,などの方法を講ずることにしている。
 
 

(4)組み合わせ法。

 例に見るように,上段に並べたことがらと一定の関係を持っていることがらを,下段に並べておいて,それを正しく結びつける方法である。この場合,上段にある事項の数が,下段にある事項の数と同じだと,でたらめに結びつけるようなことが起り,学習状態を正しく見ることができなくなるので,下段の事項を多くしておくのが通例である。

例一 次の左側にあげてある書物を書いた人を,右側にあげてある人の中から見つけ出して,その二つを線を引いて結びつけなさい。

    源氏物語   大岡 忠相

    古事記伝   頼 山陽

    海国兵談   林 子平

    大日本史   紫 式部

    日本外史   本居 宜長

           松平 定信

           徳川 光圀(くに)

例二 次の左側にあることばに,一番ぴったりつながることばを,右側中から見つけ出して,その二つを線を引いて結びつけなさい。

    ふりつづく。  初夏の風

    さわやかな。  春がすみ

    たなびく。   雪の朝

    あわただしい。 さみだれ

    にぎやかな。  ことばづかい

            汽車の旅

            村まつり

 この方法は,例二にも見るような,どちらかというと,考え方の理解を調べるといったほうがよいような場合にも用いられる。
 
 

(5)記録法。

 この方法は,例に見るように,一つの表を作って,その一方に問題をかかげ,一方にその答をかかげて,その問題の正しい答にあたるところに,しるしをつけるやり方である。選択法の一つの形であるが,答を幾つか書かせるところに特徴がある。これも,いろいろな知識の有無,正否を調べる場合に用いることができる。

例 次の表の左にある人の名を見て,その人がどういうことで世の中に尽したかを考え,答のそれにあたるところに○をつけなさい。(幾つものことに尽した人には幾つか○をつけなさい)
          答

 
った。

めた。

をた。

めた。

した。

阿倍仲麻呂          
源  実朝          
新井 白石          
空   海          
聖徳 太子          
紫  式部          
福沢 諭吉          
伊藤 博文          
道   元          
二宮 尊徳          
藤原 定家          
(6)図解法。

 図を与えて,それに要点を書き入れさせる方法である。場合によっては,図も児童に書かせて,それに要点を書き入れさせることもできる。図式的に示すことのできる知識,また考え方の理解を調べる方法として用いられる。(図を書かせて,その上に要点を書かせる場合は,総合的な考査法というべきである。)

例(そでの図を与えて)

 この図に,そで下,そで口下,たもと,そで口,ふり,八つ口,とはどこをいうのかを書き入れなさい。  以上のような方法は,主として知識だけを取り出して,その部面をきりはなして調べるのであるから,その点については,はっきり調べることができるが,それがほかの知識と関係し,考え方と結んで,総合的に学ばれているかどうかを知ることはできない。この点については,学習の目標と照らし合わせて見て,この方法でその目標とするところを満足に調べられるかどうかを,よく考えてみなければならない。

B 考え方の理解を調べる方法。

 主として考え方の理解の如何を調べる方法としては,次のようなものがあげられる。

完成法。

訂正法。

作文法。

排列法。

判定法。

(1)完成法。

 全体のうちのある部分を欠いたものについて,その欠けた部分を補充させる方法である。文章の形で提出することも,図や絵の形で提出することもできる。この方法は,なお,自由完成法と制約完成法とに分けることができる。前のものは補充する材料を示さないでおくもの(例一,二)で,後のものは,補充すべき材料を同時に示すものである(例三)。

例一

 次の文の□の中へ,文によくあてはまる文字を書き入れなさい。

 月の顔のあばたのように見えるのは,大部分が□で穴は□です。また,月の中に薄黒い,大きな班点のようなものがあるのは□といわれる部分ですが,月には水が一しずくもありませんから,海というより□といった方がよいかも知れません。たぶん,昔このたくさんな火山からふき出した□が,流れて固まったものでしょう。
 
 

例二  次の□の中ヘ,あてはまる数字を書きいれなさい。

 8÷(7−□)=4     254□

             +1□73


              □5□1
 
 
例三 次のことばを,次の文章の□のところに入れて,正しい文章にしなさい。     濃尾平野,越後平野,関東平野,筑紫平野,大阪平野,

 本州の太平洋側では,利根川の流れを中心とする□や,淀川の下流にある□,また日本海側では,信濃川の下流にある□が平野のおもなものです。九州の筑後川に沿った□も,かなりひろい平野です。
 
 

 この方法は,全体の関係を示して,そこから内容となる知識を求めるものだから,知識の修得を調べるのが主になるが,問題の作成法如何では「例二」のように考え方の理解の状態を調べることができる。

(2)訂正法。

 文章のうちに正しくない箇所を作っておいて,これを訂正させる方法である。

例一

 次の文章を見て,その正しくないと思うところの下に線を引いて,そこに正しいことばを書き入れなさい。

  1.おぢさんがみやげをくれました。私は「ありがとう」とおっしゃいました。

  2.咋日 みんなで海へ行って来ます。

  3.こんどの日曜日に,ぼくは,きみの家へ遊びに来ます。
 
 

例二   1.風の強い時は,洗たくもののかわきが悪い。

  2.染色の弱い布を洗った時は,日なたにほす。

  3.毛織物を洗った時は,力をいれて,ねじってしぼる。
 
 

 例に見るように,この方法は考え方の原理を適用して行くのであるから,一つの考え方の理解がどうであるかを調べるのに適している。

(3)作文法。

 一つの文章の部分部分をきりはなして,順序なく並べてあるものについて,その順序を正しく並べかえて,これによって正しい文章を作る方法である。この方法は与えられた語句を材料として,その関係づけに一つの考え方の原理を適用して行くものであるから,考え方の理解如何を調べる方法として適当している。

 次の幾つかのことばを並べかえて正しい文章にしなさい。

  冬は,夏は,夜より昼が,昼夜の長さが,春と秋のひがんには,昼より夜が,等しい,長く,そして,長い。
 
 

 成績は,正しく意味が通ずるように排列された部分の語句の数でみる。例についていえば,「夏は」から並べはじめても,「冬は」から並べはじめてもよいが,「冬は 夜より昼が 長く」とすれば,この三語句とも誤答とみる。

(4)排列法。

 一つの原理にもとづいて,先後の順序をつけることのできる,幾つかの事項を順序なく並べておいて,それを正しい順序に排列させる方法である。例に示したのは,仕事の順序のような単純なものだが,この排列の原理としては,歴史的事件の年代とか,生物の発生の順序とか,さまざまなものをとることができる。知識というよりは,一つの考え方や,ものごとの秩序などについての理解をもとにして答えられるのであるから,そのような学習の状態を調べるに適しているといえる。

 次に並べてあるいろいろな仕事を,本裁単衣を仕立てる順序に( )の中に番号をつけなさい。

  ( )わき縫い,( )すそぐけ,( )そで縫い,( )背縫い,( )えり下ぐけ,( )おくみつけ,( )ともえりかけ,( )肩あて,( )居敷あて,( )そでつけ,( )えりつけ,( )えりぐけ。
 
 

 成績は,順序を誤った項目を除いて,あとの項目を正答とし,正答の数でみる。指導者の見解で,一つ一つの項目に異なる重さ(すなわち点数)をつけ,正しく排列された項目の重さを合計して成績としてもよい。

(5)判定法。

 いろいろな事項を,一定の考え方の原理にもとづいて判定させる方法である。判定するには,その原理をよく理解していることが必要であるし,しかも,それが具体的なことがらについて適用されるほど,よくわかっていなくてはならないので,一つの考え方の理解の如何を見るには適当な方法だといってよい。

 次にあげてある事がらのうちで,正比例するものがあったら,それには( )の中に「正」と記し,反比例するものには( )の中に「反」と記しなさい。

  ( )同じ距離を歩く時,歩く速さとかかる時間。

  ( )一日の昼の長さと夜の長さ。

  ( )円の直径と円周。

  ( )面積の一定な三角形の高さと底辺。

  ( )人の身長と体重。

  ( )円の半径と面積。
 
 

(二)技能についての考査

 知識の考え方のようなものは,その有無正否がはっきりしているので,その考査は比較的容易であるし,客観的な判定もできるし,また,採点するにしても容易である。しかし,話し方や作文,図画,工作,習字,音楽などのような技術的なものについての考査は,そう容易ではない。いま,この種の技能の学習状態を考査するおもなものをあげると,

 一対比較法(品等法)

 記述尺度法

などがある。

(1)一対比較法。

 この方法は,いわば,技能の考査の総合的なものであって,できあがった作品を二つずつ一対にして比較することから,この名がついている。たとへば,A,B,C,Dの四つの作品があるとすると,まづAとBとを比べて,その秀れたものをCと比較する。その秀れたものとDとを比べてみると,四つの作品のうちで最も秀れたものがわかる。次に,残りの三つの作品について,同じ方法でその中の最も秀れたものをきめる。それが第二に秀れた作品なのである。このようにして第三,第四と作品の優劣を判定して,その成績をきめるのである。

 しかし,この方法は作品が多数になると,非常に手数がかかって,実施がむずかしくなる。そこで,この手数を簡単にするために多数の作品を,まず上,下(あるいは上中下)に分け,この上と下の作品を更に上の上,上の下,下の上,下の下と分け,これをまたそれぞれ上,下に分けて,八段階ぐらいにすると,その作品の成績の優劣をきめることができる。これを図解すると,
 
 

 

 

 

 

  全体

 

上 

 

 

上…A
下…B
上…C
下…D
 

 下

上…E
下…F
上…G
下…H
ということになる。ただ,これらの方法は,いずれも,作品の全体としての優劣はつけられるが,それが学習の目ざすところに,どの程度に達しているかについては,これだけではよくわからない。そこで,これら優劣の作品については,それらが学習のめざすところに,どのくらい達しているかを調べてみることがたいせつである。これは,その目標とするいろいろな点について優劣を代表する作品について吟味することでできるが,それを詳しくするには,次の記述尺度法が参考となるところが多い。

(2)記述尺度法。

 一対比較法は,元来総合的に作品のできばえを調べるものであるから,学習の目ざしているいろいろな要点について,しさいに見ることはできない。技能の進歩をしさいに見るには,総合的な方法のほかに分析的な方法をとる必要がある。このような技能の状態を,分析的に見る方法として,記述尺度法がある。この方法は学習の目ざしているいろいろな要点を考え,それらの点について,これを評定するための記述尺度を作って,それによって個々の作品なり,技能の状態なりを判定するものである。たとえば,図画の形の描写について,「でたらめである」「おおざっぱである」「普通」「だいたい正確に形ができている」「非常に正確にかいてある」といった記述尺度を作って,一つ一つの作品を,これによって評定するようなのがそれである。いま作文について作られた記述尺度の一例を示しておこう。

 (素材)非常に乏しい。乏しい。普通。豊かである。非常に豊かである。

 (文脈)非常にごたごたしている。ごたごたしている。普通。すじ道がとおっている。非常によくとおっている。

 (冗語)非常にむだが多い。むだが多い。普通。むだが少ない。ほとんどむだがない。

 (筆致)非常につたない。つたない。普通。うまい。非常にうまい。

 このような記述尺度は,技能の学習の結果を考査する場合,それぞれの学習の目ざすところによって,いろいろなものを作ることができる。もし,これを点数にしたり,評語にしたりする必要のある場合には,これらに1−5または2,4,6,8,10の評点をあてはめたり,優,上,中,下,劣の評語をあてはめることもできるだろう。

(三)熟練の度の考査

 知識や考え方や技能が,どのように学習されているかということには,単にその有無や正否といったことだけでなく,熟練しているかどうかにも,たいせつなものがある。熟練は学習のたいせつな内容になっているからである。だから,学習結果の如何を知ろうとするにあたっては,この熟練の如何を知ることは,欠くことのできないところである。

 では,この熟練の如何を,どうしたら考査することができるか,それには熟練がどんな形で,知識や,考え方や,技能の上にあらわれて来るかを考えて見る必要がある。児童の学習の進行について見ると,知識でも考え方でも,また技能でも,熟練して身について来ると,その正しいものの働きが速くなって来るものである。こういう点から見ると,熟練は「正しいものが速く」という現われ方に,その状態を示すといってよい。そこで,熟練の如何を考査するには,問題を多数提出して,それを一定の時間に,どのくらい正答することができるかという形で見るか,あるいは,一つの問題を果たすのに,どのくらい時間がいるかで見るかの方法が考えられる。

 これを具体的にいえば,知識や考え方の熟練の度を調べるには,多数の問題を一定時間に(五分とか十分とかいうような)課して,これに答えさせ,その答の数と正答数とを調べ,熟練の如何を考査することができる。これは通例速度(回答数)と正確度(回答数で正答数を除したもの)で熟練の状態を示すことになっている。これによって「速くて正確だ」とか「速いが不正確だ」ということが知られる。技能のようなものも,簡単なものはこれと同じ方法がとられるが,複雑なものは,一つの作品の製作時間と,その作品の質(記述尺度でしらべられるような)とを考え合わせて,その熟練の度を判定することができよう。

 ただしかし,熟練には,以上のようなことがらだけで考えることのできない質的なものの場合がある。たとえば,読み方や歌唱や器楽や絵画・工芸などの熟練がそれである。これらは熟練の内容となる要点について記述尺度を作り,これに従って判定するような方法で,その程度を考査するのほかはないと思う。いま,ここにその一例を示しておこう。

例一 質を主とする場合の記述尺度

   水絵具の使い方の熟練度調査の記述尺度
 
 

発色の鮮明さ

混    色                           

筆    触

非常に鮮明。

微妙な色調の変化が出せる。
 

要を得て生きている。

鮮明。

やや複雑な色がだせる。

要を得ている。

普通。

普通。

 

普通。

やや濁る。

やや単調。

 

渋滞。

濁る。

単調。

 

渋滞して死んでいる。

例二 速度・正確度・質の三者を見なければならない場合の記述尺度

   製図用の線の熟練度調査の記述尺度

正確さ

速さ

線の味わい

非常に正確。

非常に速い。

非常にうまみがある

正確。

速い。

うまみがある。

普通。

普通。

普通。

正確でない。

遅い。

がさがさしている。

非常に不正確。

非常に遅い。

がさがさして死んでいる。

(四)態度の考査

 学習指導の目ざすものの一つに態度を形作ることがある。友だちに対する態度とか,研究的な態度とか,勤労の態度とかいったものがそれである。これらも,その指導をする以上,その結果の如何をつきとめて,これによって指導の効果をあげるように努める必要がある。

 態度の考査は,態度そのものの性質が複雑であるので,適切な方法を得ることは容易ではないが,ただ,その性質が技能の持つ性質と相似たものがあるので,その考査方法をここに用いることができる。すなわち,一対比較法を児童の姓名を記したカードで,ある態度について行えば,その態度について児童の状態を順序づけることができる。また,記述尺度法によって,ある態度についての記述尺度を作り,これで児童の態度を判定すればその状態を明らかにすることができるのである。次にその一例として「公共心」についての記述尺度を示そう。

 大勢のためになることをするように他人をも導く。      (10)

 大勢のためになることをさがしてする。            (9)

 大勢のためになると知ればすぐにする。            (7)

 大勢のためになると気がついても,時としてしないことがある。 (5)

 大勢のためになると気がついても,すてておくことが多い。   (3)

 大勢のためになることをすることを嫌う。           (1)

 大勢のためになることをしている人を見るとあざける。     (0)

 (右のかっこの中の数字は採点する場合の点数)

 ここに態度の考査について注意しておきたいのは,このような態度は社会的な性質があるので,相手の人によって,そのあらわれが違う場合があるということである。教師に対しては,ともすると反抗するが,友だちには親切であるとか,教師の前ではだまっているが,友だち仲間ではよくしゃべるといった違いがそれである。そこで,教師だけが児童の態度の如何を評定しても,それだけではその児童の態度を調べたというには不足するものがある。このようなことを考えると,中等学校の生徒のように,他人の態度について,多少とも見る眼を持つようになったときには,生徒の判定をきくこともたいせつなこととなる。この場合には,記述尺度によって,生徒に自分たちのなかまの評定をさせることもよいであろうし,また,いろいろな態度の型,たとえば,

 むらがなく毎日こつこつ勉強する人,

 勉強する時は非常な勢いでするが,へいぜいはあまりやらない人,

 いつもあまり勉強すると思えない人,

このようなものを作って,自分たちのなかまのもので,その型の代表的だと思われる人の名を記させるような方法も考えることができる。

(五)鑑賞力の考査

 学習の目ざすところの一つに,鑑賞力をたかめることがある。この鑑賞力がどれだけ指導によって向上したかを考査することは,鑑賞そのものの性質上,相当に困難なものがある。つまり鑑賞力といったものは,感情のひびきを示すようなもので分析することのむずかしいものだからである。ことに,児童ではこれを表現する能力が低いので,いっそうの困難がある。いまそういう困難のなかで,考えられた方法をあげて見ると,次のようなものがある。

並立比較法。

順位比較法。

1.並立比較法。

 この方法は,価値に違いのある二つの作品を,一対にしたものを多数に用意して,各組ごとに,どちらが秀れているかを判断させて,その判断の正否の状態で,鑑賞力の如何を見ようとするものである。この場合,価値の違いに著しいものと,接近しているものとを作って行えば,その判断の如何で,鑑賞力をいっそう詳しく見ることができる。

 この比較にあたって,絵や書であれば,秀れたものの左右の位置を不定にする必要があるし,音楽であれば前後の順序にきまったもののないことが必要である。偶然の正答を避けるためである。しかし,それでも二つの作品についての判断だから,でたらめに答えても,ある程度に,あたる率があるので,先に真偽法の採点の時に述べたように,優劣の先後左右の位置を半分半分にして行い,結果については,正答数から誤答数を減じて,採点するといった方法も考えるべきであろう。

2.順位評価法。

 並立比較法が二つのものの比較であるのに対して,これは三つ以上の作品に順位をつけさせるものである。この方法を行う場合の問題は,鑑賞力を示すためにどういう採点法をとるかにある。まず,三つの場合には,

A,B,Cの正しい順序   4点

A,C,B         3点

C,A,B         1点

C,B,A         0点

とするような採点をとり,四つの場合には,最優A,最劣Dの位置を重く見て, A□□D                  6点

A□D□または□A□D            5点

AD□□または□□AD,または□AD□   4点

□DA□                  2点

D□A□または□D□A           1点

D□□A                  0点

とするような採点法が工夫される。これらによってある程度に,鑑賞力の如何を考査することができる。

 なお,鑑賞力の一面として,ある作品からうける感じの如何を考査する方法として,次の例のようなやり方も用いられる。

 この曲はどんな感じがしますか,次のことばのうちで,あなたの感じにあたるものに○をつけなさい。
 静かです。さびしいです。いんきです。にぎやかです。わかりません。(附)予備調査及び知能検査

 学習結果の考査は,これによって今後の学習を如何にすべきかを考える資料が得られるので,一面これからの学習指導の予備調査となる性質を持っている。しかし,学習指導の出発点を明らかにしようとすれば,これだけでは不十分な場合がある。就学児童について,学習を指導しようとする時の如きは,その最も著しいものであるが,それ以外の学年でも,その基礎になるものが,これまでの学習の結果に求めることのできない場合には―たとえば分数の指導にあたって,分数観念の如何を知る必要があるような―同じことがいえる。

 このような予備調査には,従来行われて来た就学児童の数観念の調査とか,文字やことばについての調査とか,事物の知識についての調査などがあげられる。これ等の調査の方法は,これまで述べた考査法を,これに適用すればよいのだが,ただ就学児童について調べるような時には,文字によって答えられないので,直接口頭で聞く必要もあるし,実物の取り扱いや,指示によって行わなくてはならない点に違いがある。たとえば,数観念の調査には,実物を指しながらよばせるとか,実物の集まりについて,その数をいわせるとかいう方法が,とられなくてはならないし,ことばの調査は,実物を示してその名をいわせるといった方法が,とられなくてはならないのである。

 なお,学習の行われる根抵の働きとなる智能を調べることは,学習の指導法や内容を,これに応じて適切にして行くために,欠くことのできないところである。知能検査の方法として,今日わが国で最も確かだと思われるのは,ビネー法やスタンフォード改訂法その他を基礎として,わが国児童の多数についての実験の結果で作られた,鈴木治太郎氏の個別的知能検査法である。その詳細は同氏の「実際的個別的知能測定法」(東京・神田・神保町 東洋図書株式合資会社発行)によって知ることができる。

 

学習指導要領 一般編

Approved by Ministry of Education

(Date Mar.3,1947)

昭和二十二年三月三日 翻刻印刷

昭和二十二年三月二十日 翻刻発行

(昭和二十二年三月三日 文部省検査済)

著作権所有

著作兼発行者 文部省

翻刻発行兼印刷者

東京都小石川区久堅町一〇八番地

日本書籍株式会社

代表者 大橋進一

印刷所 東京都小石川区久堅町一〇八番地

日本書籍株式会社

発行所

日本書籍株式会社

(発学一五六号)昭和22年4月7日

  新制高等学校の教科課程に関する件

(発学四四八号)昭和23年10月11日

  新制高等学校教科課程の改正について

(発学 一〇号)昭和24年1月10日

  新制高等学校教科課程中職業教科の改正について